第七十三話 ベイル先輩と礼儀と面子
「ベイル先輩!?」
俺が声に振り返ると同時にジャグナル君は驚きの声を上げた。
そして、俺が振り返った先にはジャグナル君が言葉にした人物、ベイル先輩がいた。
まさか、三年の番長であるベイル先輩が一年の教室にやってくるなんて。どうりでさっきから周りの声が減ってた訳だ。
そんな中、ドーラ君は驚いた顔をしバルテル君も固まっている。唯一ライア君だけは普段と変わらない様子だ。
「おまえらが話していた件でちょっと聞きたい事がある」
ベイル先輩はそう言うと俺の輪に入ってきた。
ベイル先輩……初めて会ったのは食堂だったけど、今近くで見るとやはりかなりの威圧感がある。ベイル先輩がどんな戦い方をするのか分からないけど、何もしてなくてこの状態だとしたら戦いの時はかなりの威圧感なんだろう。少なくとも好んでこんな人と戦いたいと思わないだろう。
あの好戦的なドーラ君ですらさっきから口を開いてないし。
「話ってなんですか?」
「あぁ、近頃二年の奴らが不穏な動きをしていてな。別に多少の悪さは何も気にならんのだが、いろいろ気になる事があってな。少し知っている事を聞かせてくれ」
そう言ってベイル先輩は椅子に腰をかけた。
やっぱりジャグナル君が言ってた事は面倒な事になってきているようだ。
「ベイル先輩、ここは一年の教室ですよ? 来て早々に僕たちの話を遮ってってのは礼儀がなってないんじゃないです? それにライト君は俺たちの番長ですよ?」
お、おい! ライア君、何油に火をつけるような事言ってるの!? 別にそんなのいいじゃない!? ほら、ベイル先輩の顔が険しくなっちゃったよ!?
「……確かにライアの言う通りだな。ライトと言ったか? すまん、少し話を聞かせてくれ」
そう言ってベイル先輩は俺に頭を下げる。
いやいや! 俺は全然気にしてませんから! ほら! 周りのみんなが凄く驚いた顔をしてますよ!?
「だってライト君、いいかな?」
ライア君はニコリとしながら俺に言ってくる。
いやいや! いいも悪いも俺は気にしてないから! しかもそこニコリって笑える場面じゃないから! ライア君は一年の番長としての面子を考えてくれたんだろうけど、別に気にしなくていいと思います! ほら! 動揺しすぎて敬語になっちゃったよ!
「も、もちろん! てか、いいも悪いも俺は何も最初から言ってないし! ベイル先輩も顔を上げてください!」
俺の言葉にベイル先輩は顔を上げた。
その顔は険しい表情だけど怒ってはいなさそうだ。良かった。
もっと恐い人かと思ったけど、礼儀とか場面はわきまえられるのだろうか? 元々王立学校だから貴族中心だし礼儀作法とかは小さい頃から習ってるだろうけど。ともかくベイル先輩は話せば分かるタイプの人間なのかもしれない。そこは本当に良かった。
ひと安心した俺は固まっているジャグナル君やドーラ君に声をかけて我に戻し、今知っている事を話してもらった。




