第十四話 引けない戦い
とりあえず自己紹介も終わり、俺は席に着いている。
戦士学校だからずっと実技の授業かと思ったらそうでもないみたいだ。
戦士学校から騎士にもなる生徒もいるのでマナー講義や戦術講義もあるみたいだ。
おそらく騎士になる可能性があるのはクラスの二割の生徒の方だろう。
八割の方がなったら国が危うい気がする。
おそらくは傭兵とか一介の兵士とかだろうけど。
でも、就職となったらヤンキー引退したりして真面目になるんだろうか?
それに二割の方の生徒が騎士になったらなったで弱い気がする。
うーん……謎だ。
学校のカリキュラムに何か秘密があるのかもしれない。
「ーーであるからして二かける二は四である。分かるか?」
「ライト君、授業大丈夫?」
「大丈夫です」
俺の右隣の席のライアが声をかけてくる。
今の授業は算数だ。
マナー講義や戦術講義以外にも算数と国語、歴史の授業はあるみたいだ。
算数と言っても足し算引き算掛け算割り算くらいなので問題ない。
この世界は複雑な機械もないし物理や化学も進んでいないようだし、生活に必要なレベルの辺りまでしか学校では習わないみたいだ。
だから全然余裕。
国語と歴史はまだ分からないけど。
「うるせぇ!」
そして、なぜか前の席がジャグナル。
俺にとっては最悪の席だ。
前門の虎は変わらず後門の狼が右門の狼に変わったところで何の助けにもならない。
「すいません」
「……放課後忘れるなよ」
俺はとりあえず建て前で謝ったけど、何故か放課後の約束を確認された。
本当、入学早々ついてない。
これは純粋なフランの気持ちを踏みにじった罰なのか。
でも、フランの気持ちに応えるには……。
俺は罪な男だ。
おぉ……神よ、フランよ、我をお許しください。
「ライト君、どうしたの?」
「いや、なんでもないです」
ライアはちょいちょい俺の事を気にかけてくれる。
そんなに気にかけてくれなくても……。
でも、思ったら俺は歳下だから呼び捨ては良くないな……ライア先輩か?
じゃぁジャグナル先輩?
うーん……でも君付けとかはなんか良くない気もするし……よし、心の中は君付けで話す時は先輩にしよう。
間違ってもライア君は呼び捨てにしてはいけない。
変な誤解を与えそうだから。
そこだけは必ず死守しよう。
「ライト君大丈夫? 授業終わったよ?」
俺がいろいろ考えているうちに算数の授業が終わったようだ。
あまり聞いてなかったけど、まぁ算数は問題ないし大丈夫だ。
「大丈夫です! ありがとうございます! ライア先輩!」
「ど、どうしたの? 急に先輩って……」
「いや、自分歳下なので謙虚にいこうと思いまして!」
急な言葉の変化にライア君は驚いているようだ。
謙虚にってのももちろんあるけど、ライア君に関しての一番の理由は距離を置いておかないと身に危険が迫りそうだからってのが大きい。
「いや、僕は呼び捨てでもーー」
「いや、先輩は先輩っす!」
ここは引くには引けない。
男には……いや、男として引いてはいけない戦いがあるんだぜ。
「そ、そう?」
ライア君は俺の勢いに負けて引いた。
よし、第一回防衛戦は俺の勝ちだ。
「おい、ライト」
授業が終わったクライフ先生は俺を呼ぶ。
「はい、なんでしょう?」
「昼からの授業は実技だから、その時はこれに着替えて来いよ」
そう言ってクライフ先生は学校指定ジャージならぬ学校指定の皮鎧とインナーを俺に渡す。
一体何処においてあったのだろうか。
いや、まぁそんな事はいいか。
「分かりました。更衣室はどこに?」
「更衣室? そんなもんある訳ないだろ、男ばっかなのに」
そう言われればそうだ。
って事は教室で着替えるのか。
「授業一緒に行こうね」
俺の背後からライア君の声が聞こえた。
『一緒に行こう=一緒に着替えよう』
俺の頭の中で、勝手に方程式が出来上がる。
もうすぐそこに第二回防衛戦が迫っている。
連戦に次ぐ連戦……俺は耐えられるだろうか。




