第百二十六話 怒りを覚えました
……あれはっ!?
その光景を見た俺は目の前の魔導具を持っている二年生の鳩尾に右ストレートを放って吹き飛ばしてジャグナル君の元へと駆け寄る。
しかし、無情にも俺がたどり着くより先にチェスター先輩が胸ポケットから取り出したものに手をかける。
あれは……あれは魔導具!!
そして、チェスター先輩は胸ポケットから取り出した拳銃型の魔導具に指をかけ引き金を引く。
「ジャグナル君ーーっ!!」
チェスター先輩の放った魔法は火属性の魔法だったけど、そのスピードは他の火属性の魔導具と違い炎の球ではなく、炎槍……矢のような形で飛んでいき、俺は魔法を使って対応する間も無くジャグナル君へと当たり、当たった瞬間に爆発するかのように炎がジャグナル君を包む。
「ぐぁぁぁあああああ!!!」
俺はすぐさまジャグナル君へと駆け寄る。
炎は一瞬にしてジャグナル君を包んだかと思うとすぐに鎮火したが、ジャグナルの皮膚は水ぶくれになったり黒くすすこけたりして火傷しているのが分かる。
「ジャグナル君!? 大丈夫!?」
俺はすぐさま治癒魔法をかける。
魔法を使えるのがバレるかどうかなんて関係ない! このままじゃジャグナル君の命にかかわる!
「ライト……おまえ……」
「ジャグナル君喋らなくていいから!!」
俺は治癒魔法をかけ続ける。
でも、一瞬にして皮膚深くまで焼いてしまうような魔法であった為に表面上は治癒したように見えても受けたダメージは大きいようだ。
医者が良く言う『最善を尽くしましたが後は……』というような状況に近い。
「ライト……あいつ、やっぱり……ベイル先輩を……でも、あいつだけ……じゃない……あいつの裏には……」
「ジャグナル君!?」
ジャグナル君はそう言葉を残すと意識を失った。
俺の治癒魔法は一応ダメージは回復させたはずだけど意識を失ったって事はそれまでに受けたダメージが体力を削っていたのだろう。
一国も早くジャグナル君を安全な場所に運ばないと……でも……。
周りではまだみんなが戦っているしジャグナル君を運ぶどころかこの場を離脱する事すら出来そうにない。
「ハハハッ!! 真相をすべて知ってあの世に逝くんだから本望だろうよ!!」
そんな中、チェスター先輩は俺とジャグナル君の様子を見て高らかに笑い声を上げる。
どうやら俺が治癒魔法をかけている事には気付いていないようだ。というよりまさか魔法が使えると思っていないのだろう。でも、今はそんな事どうでもいい。
「……」
高らかに笑い声を上げるチェスター先輩に俺はかつてない程の怒りを覚え、声を上げる事もなく静かに向き直ってチェスター先輩を見据えた。




