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4(長)

できる限り毎日投稿しようと思っていたのですが、やはりきついので、2日か3日おきぐらいに更新していこうと思います。少なくとも夏はそのペースで行くつもりです。

明け方、まだ仄暗い大地を、一人の少年と一匹の魔狼が進んでいた。

街道から少し外れた獣道を進む彼等を、気付く者は誰もいない。物音を立てずに、気配を殺して、一人と一匹は素早く進んでいた。


少年ーーに見えるリィと、魔狼ーー長が街道を歩かないのには理由がある。

そこかしこに魔術が使われていて気分が悪くなるのと、自分達が整った道は警戒してしまうこと。

それと、リィの臀部からそれは見事な毛並みの()が生えているからであった。




家族だった者達に言いたい事を思う存分告げた後、リィは最低限の荷物を持ち、長と家を出た。

そして、家を出て森の中を駆けること数十分。彼等は森の奥深くで座り、休憩がてらリィの髪を切っていた。

シャッシャッと軽い音をたて、風の刃が艶やかな黒髪を根元近くまで切り落とす中、長は昨晩の様子を思い出していた。


リィに拒絶され、それまでの行いを否定された後、三人は言葉も発せない様子だった。思うに、彼等は何もユリを疎んであの様な行いに出たのではない。ただ、考えが及ばなかったのだ。自分達の行動が及ぼす影響、それに振り回された者の気持ちに。自分の気持ちすらきっと正確に把握してはいなかったのだろう。


(ヒトは、愚かなものだ)


嘲笑を含みつつ、長はそう考える。

我等獣の数倍もの年月を生きることができるのに、思考は何倍も劣る種族。他種と分かり合うことを拒み、昔、この地に降り立った時は持っていた確かな知恵を失くした愚かなヒト族。

彼等の言う魔術というものは、とんだ子供騙しの技術だ。人工技術による出産の折に擬似的な魔石のようなものを埋め込み、自分達魔物の扱う魔法の精々一欠片を行使するというその技術は、今では全ての人工の出産で生まれる子供に対して行われている、当たり前の技術なのだと聞く。

当たり前。常識。そんなものに惑わされた者共によって、リィーーーーユリは差別され、結果捨てられた。例えそれ故に自分達が出逢えたのだとしても。


(我等が一族の子が、貶められた事には変わりがない)


魔狼族、いや、リィを好ましく思っていた全ての魔物の種族は、リィを蔑む輩を許すことは無いだろう。


『ーー!!長!』


自分を呼ぶ声に我にかえる。気がつくともう髪を切るのは全て終わり、リィは切った髪を一袋にまとめ終わっていた。


『長、どうした?何か考え事してたみたいだが』

『いや、何でもない。……それよりどうだ?毛が短くなって』

『あぁそうだ、ありがとう長!久々にこんなに気持ちが良い。頭が随分と軽くなった』

『そりゃ良かった。切った毛はきちんと集めたか?』

『無論。昔、長に言われたようにきちんと集めたぞ』

『ならば良い。今回は随分と長く、多くの魔力が溜まっているだろうから、きっと大きな魔石が出来るだろうな』


毛には、魔力がこもりやすい。魔力を持つ証は金の眼だが、実際に己の魔力が溜まる場所は毛だ。リィは長い間魔法を使わず、また伸びるままに伸ばしていたからきっと莫大な量の魔力が溜まっていたはずだ。その毛を使い魔石を作れば、きっと凄まじい力を持った魔石になる。その魔石はリィに渡す予定の毛皮の装飾にするつもりだ。


『さて、リィ。水浴びをしてヒトの魔術の臭いを落としたら、お前の言うがくえん、とやらに向かう前に、盟友の元へ行くぞ。そこでやりたいことがある』

『水浴びって魔法で水だして済ませちゃダメか?』

『森の水を浴びる方が良いだろう。そちらの方が盟友にも好まれる』


そう告げれば、リィは納得したように水の匂いのする方に向かって歩き出した。少しばかり離れているようだが、その程度で鼻が効かなくなるほど退化はしていなかったようだ。



『盟友の元で、俺がいない間の長の話と、あと魔石作りもやって良いか?』

『……まあ良いだろう』


水浴びをしながら、そんな会話をする。リィを取り戻してからまだ半日も経っていないのに、驚くほどに平穏な時間だ。

どうせすぐに魔樹木族に見つかるのだ。それまでの2匹だけの時間と割り切り、久々のリィとの会話を楽しむとしよう。

俺は、思わず尾が揺れてしまうのを抑えることができなかった。


『……そうだ。リィ、お前また尻尾を生やせよ。気持ちが分かりづらい』

『……あ、確かに』


世の中には、九尾、と呼ばれる種族がいる。彼等は生まれた時は一本しか尾を持たないが、成長するにつれて魔力で尾を作り、増やしていくのだ。そのやり方を教えてもらい、リィに流用している。いかんせん狼なため、尾がないと会話が少しばかり不便なのだ。簡単な会話でも吠えなければならない、と言うのは意外に面倒臭い。


ポウ、とリィの尻のあたりが光り、次の瞬間尾が生えてきた。俺等と同じ、黒地に金の模様が入った尻尾だ。その尻尾は機嫌よさげに振られている。

それを見た俺は、尾をリィのそれに絡ませた。これは、最上級の友愛、親愛の表現だ。

俺がお前を嫌うことは、ただの狼に成り果てるよりもありえないことだ。そんな気持ちを込めて、優しく、リィの顔を舐めた。

投稿が遅れてしまい、大変申し訳ありません。前書きに書いた通りです。


この話で、かなり世界の独自設定を語っていますので、このシリーズを読んでくださってる方は、お見逃しないようお願いいたします。


誤字脱字等何かございましたら、お手数ですがご一報くださいますようお願い申し上げます。

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