3(サツキ)
せめて家を出るまでは毎日0時投稿にしようかと思っていたのですが、寝てしまっていました。申し訳ありません。
サツキは、ユリが居なくなった後に生まれた子供だった。自分には姉がいたことなど露知らず、穏やかな父親と優しい母親に愛されて育った子供だった。両親ともに、ユリの事をサツキには匂わせすらしたことがなかった。
サツキの幸せに少し綻びができたのは、サツキが4歳の時。慌てた両親に連れられて、初めての遠出をした。向かう車の中で、サツキは姉のことを伝えられた。サツキが生まれる前に森で行方不明になり、死んだと思っていたと。もっと大きくなったらサツキにも教えようと思っていたのだと。
連れられた先の病院で、サツキは初めて姉を見た。金色の目を爛々と光らせ、唸り、吠え、周りの人達に見境なく襲っているのを、ガラス越しに見た。その、到底同じ人間とは思えない獣じみた様子が怖くて、サツキは母親にしがみついた。
怖くてたまらなかったけど、何故だか目線はユリから離せなかった。母の服の陰から、ずっと暴れるユリを見ていた。母は、ユリを一目見た時から震えていたように思う。
ただガラスの向こうの光景を見ているうちに、唸り声の合間に何か言葉らしきものを発していることに気がついた。
かえ、シて。むれにかえして。
姉だというその人は、ずっとそう繰り返していた。ぎこちない、たどたどしい言葉遣いで、必死に叫んでいた。その様子が、強くサツキの胸を打った。
(あれが、お姉ちゃん。サツキの、お姉ちゃん)
別室に両親と移り、ユリが見えなくなっても、金色の瞳を、そこに宿る激情が心の底にわだかまっていた。
それなのに、しばらく経ってやってきたユリは、似ても似つかない普通の女の子になっていた。
金色に輝いていたはずの瞳はぼんやりとけぶり、生気にあふれていたしかめっ面は気だるげな無表情へと取って代わられていた。外見は同じでも、全然違う。
ちがう。これはサツキのお姉ちゃんじゃない!!
どうしても変わってしまったユリを受け入れられなかった。あの、一度だけ見た本当のお姉ちゃんに会いたくて、でもそのためにはこの偽物のユリが邪魔でたまらなくて。
(にせもののユリなんて、早く消えちゃえば良いのに)
いつしかサツキは、ユリを嫌うようになっていた。廊下ですれ違えば罵り、邪険に扱った。
父も母も怒らなかったから、その行動は間違っていなかったんだと思った。思って、いなかったのだ。
だってほら。
再会を望んだ、本当のお姉ちゃんがやっと戻ってきた。
だからね、お姉ちゃん。もっと近くに来てよ。そんな狼なんて放って、私とお喋りしようよ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
だから。
「俺は、あなた達を家族とは見れない」
俺の家族は群れの奴らだけだ、なんて続けられた言葉に混乱する。
そんなこと言わないで。やっと会えたのに。やっとお姉ちゃんに本物の会えたのに、何でそんなことを。家族じゃない、なんて酷いことを言うの。
「お……ねぇ、ちゃん……?何でそんなこと言うの……?」
酷い、と呟けば、冷たい目を向けられて息を飲んだ。道端の石ころを見るような、そんな、何も感じてないような目。その曇りのない金色は。その表情は。
「酷いとはおかしなことを言う」
その表情はお姉ちゃんの隣の狼にそっくりで。ぞくり、と冷たいものが背中を伝う。
「ユリを一番家族と見なかったのはお前だろ、サツキ」
ひっ、と短く息を吐いた。
「わっ……私は、あの偽物を、追い出そうと……!!」
必死にお姉ちゃんに私のことを伝えた。
私は悪くない。勝手にお姉ちゃんの居場所を奪った、あの偽物が悪いの。私は、お姉ちゃんの場所を取り返そうと!
「ヒトは皆、自分のことしか考えてないことを知った」
私の話なんて気にもとめず、お姉ちゃんは話しだした。大きな声じゃないのに、その言葉ははっきりと聞こえる。
「自分のためなら、実の娘だろうとめちゃくちゃにできるのだと知った。自分が幸せなら、家族が不幸でも構わないのだと知った。
ヒトは、歪んだ生き物なんだと知った。
俺は、あなた達を憎んでいる」
そう言ってこちらを向いた瞳は、あの日見た小さな獣と同じだった。
あの時、もうすでに家族になるには遅すぎたのか。
サツキ8歳。
彼女は親に姉と言われたのを、リィの方だと思っていました。
リィは人を自分勝手と言っていますが、リィはその点では自分も人らしい、と自覚して嫌っています。だから自己嫌悪も混じっている。
誤字脱字等何かございましたら、ご一報ください。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。