ちっぽけな嫉妬心
「どうした友三郎? どこか痛いのか? 怖かったのか?」
心配そうに顔を覗き込む高時に違うと伝えたくて、ブンブンと横に首をふる。嬉しいのだと伝えたいのに、嗚咽が止まらなくて言葉にならない。
ボロボロと大粒の涙を零しながらひっくひっくとしゃくりを上げる。
「悪かった友三郎。お前の気持ちに俺は全然気づいてやれなかった。お前が色々と考え込む性質だと分かっていたのに、何も気付かずにいた。もっと俺にわがままを言えばいい。我慢などせずに、何でも言えばいい」
「ちが、ちがい、ます。わた、私は、役立たずで、もう、お傍には、いられないと……高時様からは言いにくいでしょうし……」
しゃくりを上げながらも懸命に言葉を紡ぐと、高時はふっと優しい目をして笑った。
「また要らぬ想像を巡らせているな、友三郎。俺はお前が必要だから追いかけてきた。必要ないなどと思わなくてよい」
「けれど、私は小さくて弱いんです。高時様を守ることもできない。そんなの……」
「バカだな、友三郎。お前はまだ幼い。だがこれから大きく強くなる。それに力ある者だけを俺は必要としているわけではない。友三郎が引け目など感じることなどない。俺がお前を選んだのだからな。これからも俺と共に歩んでくれ」
「高時様……」
「それと、こいつもお前の心配をしていた。年も近いのだからこいつの友になってやってくれ」
「……よけいなお世話だ」
のっそりと木の陰から出てきた朔夜の姿を見て驚いた。なぜ朔夜がここに?
「おまえが家に帰ろうとしているんだろうと朔夜が言ったのだ。朔夜だけがおまえの近頃の変化に気がついてたようだ」
「朔夜殿が……?」
「ああ、俺は主人失格だな。というよりはこいつがお前の事を予想以上に気にかけているようだな。な、朔夜」
「知らねえよ」
木にもたれながら憮然とした返事を返しているのが、どこか照れ隠しをしているようにも見える。
聞けば朔夜がこの道へと誘導してくれたそうだ。野遊びの感じからすれば、友三郎の足ではこの辺りが限界だろうから、ここらを重点的に探そう、とテキパキと指示をしたそうだ。
いつもやる気がなさそうに遊びに付き合っているように見えて、どうしても遅れがちになる友三郎の事を見ていたのだろう。
「あの……朔夜殿、ありがとうございました」
「別に礼など必要ない」
「そんなことより早く友三郎の家に向かおうぞ。日が暮れる前に山を下りようではないか」
「……いえ、もう寺に戻ることに致します。家に帰りたいなど思った私が甘かったのです。もう大丈夫ですので」
「いいや甘くなどないぞ。おまえの歳で親の恋しくない訳がない。ここまで来たのだから会って行けばいい。それに俺も日置家にちゃんと挨拶をしておかねばならないからな。小さなお前を預けて下さったのだ。俺はご両親の期待を裏切らぬように友三郎を大事に育ててやるのだとな」
高時のまっすぐで力強い言葉にまた涙が浮かんでくる。
こんなにも大事に思っていてくれていたのに、自分はちっぽけな嫉妬心で何も見えてなかったなんて、ますます情けなくなる。
もう二度とこんなちっぽけでつまらぬ思いには囚われないと、そう心に誓う。
友三郎の脳内では、高時がキラキラと輝きながら、友三郎の手を取り「一生お前を離さないぞ」と甘やかな笑みを浮かべている。にやけそうになる瞬間に朔夜の声が割って入った。