山の中
友三郎は泣きながら痛めた足を引きずって歩いていた。
道を間違えたのかもしれない、かなり歩いてもう日が傾いてきている。
夜明け前に無我夢中で寺を抜け出してしまった。
大体の方向は分かっていたが、いざ一人で山を歩くのは思った以上に困難だった。道を歩いていても木の根に足を引っかけて何度も転んだ。
自分がこんなに弱い生き物だったのだと実感してしまい情けなくなってきていた。こんな弱い自分では到底高時を守るような家臣にはなれないではないか。足を引っ張るだけの家臣など必要ない。そしてきっと高時ももう自分など気にもしていないのだろう。そのうち時機をみて実家へ戻される事になるんだろう。
「ダメだ……ますます落ち込んできた。私など寺にいる資格もないや……」
ずるずると木の根元にしゃがみ込んでしまうと、もう一歩も歩けないような気がして、泣きたいのか逃げ出したいのか、気持ちがグチャグチャに混ぜ合わさってしまい、膝を抱えて顔をそこに埋めた。
もうすぐ夜が来る。
このまま死んでしまうのかな、など取りとめなく投げやりな気持ちが湧きあがるが、それに抗う気にもなれない。
「……ろう!」
遠くから人の声が聞こえる。
ここで助けて、と言えば気付いてくれるかもしれないが、果たして用無しとなった自分を父母は受け入れてくれるのだろうか。落胆されるのがオチでないか。
城主時則様直々に請われ、あれほど期待されて寺に入ったのだから……。
「……さぶろう!」
また人の叫ぶ声が聞こえる。少し近づいて。それがまるで自分の名を呼んでいるような気がして、ふと顔を上げた。
「……まさか、ね」
しかし、声は再び聞こえてきた。
「……友三郎ぉぉ!」
はっと顔を上げる。
聞き間違いではない。高時の声だ。
幻聴なのかと自分の頬をぺチリと叩くが、
「友三郎!」
聞こえる、確かに聞こえる。まだ聞こえる! あれは間違えようのない高時の大声だ。
「高時さまぁぁ!」
どこにこれだけの力が残っていたのか、飛び上がるように立ち上がるなり声の方へと駆け出した。さっきまで死ぬんじゃないかとへたり込んでいたとは思えぬ足取りで駆ける。
「高時さまぁぁ!」
もう一度大声で呼ぶと、獣道のような細い道から高時が飛び出してくるのが見えた。
「友三郎! 無事か!」
無我夢中で飛びついてきた友三郎を力強くがっしりと受け止めた高時の息は上がっていた。
ここまで捜しながら駆けてきてくれたのだろう。そう思った瞬間に、友三郎は声を上げて泣き出した。
嬉しかった。
それに高時に心底逢いたかったのだ。