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戦国を駆ける龍  作者: さくや一色
戦国を駆けろ
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壊滅



「なんだと!」


 追撃に走った朔夜の隊が残党に囲まれている。そう報告を受けた高時は絶句した。


「多分、壊滅かと……」

 知らせを受けた黒田はすぐに引き返し、光元が駆けてきた若兵と共に本城の高時の元へと駆けた。

 取って返すにはあまりにも兵が疲れていた。怪我を負い疲弊した兵を連れて行っても死者を増やすだけだ。そう言って黒田は単身朔夜たちのほうへと駆けてしまった。

 数の差を思えば。


「壊滅……」

 その言葉を高時は反芻するように口の中で繰り返す。


「……すぐに……野間春義の、隊を……」

 切れ切れに指示を出す。それを受けた光元がすぐに駆けだした。

 呆然とする高時が、小さな独り言を吐き出した。



「……朔夜……」


 

 覚悟などしていなかった。

 いくさで兵が死ぬ。

 それは当然のことでもある。

 これまでも、敵味方といくつの命を散らせたか。だが、その中に朔夜が入る、その覚悟などしていなかった。


 鋭い光の瞳。真っ直ぐに人を射抜く目。細く柔らかい髪。そっと触れた細い首。孤独を刻み続ける鼓動。

 

 その全てが失われるなんて!


 何者をも恐れないあの言葉を聞けないまま、このまま奪うのか! 俺から朔夜を奪うのか!

 戻れ、戻れ朔夜。勝手に死ぬなんて、許さない!



 城の庭の方で何か騒ぎが起きている。誰かが走って来る音が響く。だが高時の意識はそれを遠くで聞いているだけで、その騒ぎに何の興味も惹かれない。

 そのざわめきが、押し寄せる波のように近づいてきた。


「高時様ああ! 黒田様、姶良様がご帰還にございます!」

 足音高く駆け込んで来た家臣の言葉が、理解出来なかった。


「え?」


 惚けたように見つめ返すと、瞬時戸惑いを表した家臣が再度ゆっくりと告げた。

「黒田様、姶良様、無事にご帰還なさりましてございます」

 弾かれたように部屋を飛び出すと、脇目もふらずにざわめく門の方へと駆ける。


 門の前で戸板に乗せられた黒田の姿を認めた。

 左腕は酷く斬られ、他のあちこちも傷だらけだが、何とか息はある。

 痛ましい黒田の姿を見送り、そして顔を上げた先に、朔夜が佇んでいるのを捕らえた。

 髪は乱れ疲れた表情をしている。左の肩に血がべっとりと付着している。その肩を押さえながら真っ直ぐに高時を見据えていた。


 変わらぬ、力強い獣の瞳が見ている。


 ズカズカと朔夜へと近づくと、騒然としていた周囲の者がピタリと話を止めた。それほどまでに高時の放つ気が厳しかった。

 朔夜の正面に立つと、ただ黙ってじっとその血塗れた姿を見下ろす。そしておもむろに。


 パーンッ!


 平手で思い切り朔夜の頬を張り飛ばした。

 飛ばされた朔夜が砂埃を上げて倒れ込み、全員が息を呑む。


 水を打ったような静寂に支配された中で、高時が冷たく朔夜を見下ろしながら告げた。

「後で報告に来るように」

 それだけを告げると、振り返りもせずに城へと姿を消した。


 残された者はただ呆然と見送ることしか出来なかった。



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