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戦国を駆ける龍  作者: さくや一色
戦国を駆けろ
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相模の兵


 篠田光虎しのだみつとらの息子を受け入れた相模の南條家なんじょうけが、国境くにざかいに兵を進めているとの情報が入った。

 南條家とは時則の頃から幾度かいくさを繰り返している犬猿の間柄で、今回の事も篠田家の報復戦との名目を掲げているが、その実は侵攻する良い口実を得たにすぎない。

 ところが南條が目論んでいた甲斐国の兵が動かない。

 篠田光虎の息子を旗印に立てての報復戦を起こせば、甲斐からの兵が動いて龍堂家を一気に叩き潰せるはずだ。そう目論んでいたが、一向に甲斐の兵が動かない。


 実は篠田光虎。一代でのし上がってきた実力者であるがために、領内での地盤が弱かった。

 さらにそれを力と恐怖政治で抑えつけていたが為に、誰も篠田家の再興を喜んで願う者はいなかったのだ。そこへ来て高時の、一人で乗り込んでまでの無血での開城を促した気概に惚れ込んだ重臣達により、領内の主だった将は龍堂派へ鞍替えしていたのだった。



 国境へと兵を進めたはいいが、どうにも気勢が上がらぬ相模の兵であった。

 それを迎えうつために、黒田左馬ノくろださまのすけ光元正盛みつもとまさもりの兵が動いた。

 今度こそ、と請われて朔夜は黒田の下について出陣することになり、慌ただしく出立していってしまった。


 見送った友三郎は部屋へ戻り高時にその様子を報告していると、繁則の元から来た丹羽小次郎にわこじろうが部屋へと入って来た。

 愛らしい顔を綻ばせて高時の前で平伏して嬉しそうに

「丹羽小次郎、只今満願時城より到着いたしました。これからはこの本城にて高時様にお仕えいたします」

「よく参ったな。これからは忙しくなる。宜しく頼むぞ」

「はっ」

 友三郎は、少しだけ眉根を寄せて顔を曇らせた。


**


 国境の山中で黒田・光元隊は南條軍をその目に捉えた。


 木々に紛れて偵察すると、南條軍は移動途中で、まさかこんなに早く駿河の軍と会うとは思っていないようで気の緩んだ状態であった。そこを一気に叩き潰そうとした。

「光元殿、ここは一気に討って出て蹴散らせましょう」

 黒田は猛将である。派手にやり合い戦功を積んできた男だからこそ、敵兵皆殺しの勢いで血が逸っている。

 山中の隘路あいろで敵の虚を突いて上から攻める策は悪くない。だが相手の数も力量も分からない状態で戦うのは危うい。

 光元はさすがに元久能城側の総大将だけあり、幾分冷静である。

「まず敵の数を調べましょう。それにこのような山中での大激戦はよろしくない。広い場所まで移動させてから罠を張っておいて一気に畳みかけましょうぞ」

「いや、一歩たりとも我が国に足を踏み入れてさせては末代までの恥となりましょう。我らの士気は高い。負けるはずはない」

 黒田の言い分は頑固であったし、光元は投降した身であるとの負い目からか、最終的には黒田の案を了承した。


 すぐに数隊に分かれて敵の襲撃を開始する。

「姶良殿にも隊を率いてもらおう」

 黒田の言葉にちらと目をすがめたが、すぐに了承した。

 逆落としの際に付き添った五十人の若者が自ら志願して朔夜についてきていたのだが、その者を含めて百の兵を預かった。

「姶良殿には先に回り込み、逃げる南條の兵を討っていただこう」

「分かった」

 詳しい場所や計略も聞かずに、すぐに立ち上がろうとしたのを光元が引きとめ咎めた。

「初めて隊を率いるのだろう。ちゃんと黒田殿の指示を聞いてから行きなされ」

「……己を知り相手を知る。その兵法の基本さえせずにいきなり山中で大人数を動かそうとする者の話を俺は聞かない。俺は自分のやるべき事をする。それだけだ」

 強く見つめるその視線だけで斬られたような感覚に陥り、思わず身震いをした。そんな光元を軽く睥睨してから立ち上がって背を向けて行ってしまった。


 光元は、口元に手を当てて目を見開きながら思い返していた。

 鋭い刃を自分の喉元に当てながら降伏を迫った少年の瞳と冷たい声を。


(……怖い子供だ。あれは、飼いならされぬ野獣の子供だ……)


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