決着
翌朝、三滝城から兵が攻め出て来た。
だが高時からの指示で既に臨戦態勢にあった駿河の軍は一糸の乱れもなく、攻め立ててくる三滝城の軍をことごとく蹴散らす。しかもどうにも敵兵の士気が低い。圧されて離散していく兵が続出している。
野間春義と堀道里が出張ってくる兵を叩く。
久能城の安田勝善と高時側に投降していた光元正盛が主となり城を攻める。
猛攻に曝されて三滝城は陥落寸前と思われた。
どうにも様子が変だ。あまりにも士気が低い。
誰もがそう感じていた頃、高時と則之の元に一人の男が尋ねて来た。
「三滝城家臣筆頭を務める諸岡源外と申します」
立派な鎧甲を着けたその男は、片膝を折って深々と頭を下げた。
決着はついたのだ。
その夜、高時の元に一つの首が届けられた。
篠田光虎。死してなお睨み付けるような鋭い目を見開いていた。
三滝城へ入った高時と則之の前に、篠田の家臣団が平伏している。家臣筆頭の諸岡が進み出て、ここに完全降伏を宣言した。
甲斐は龍堂家の支配下となっり、光虎の息子は相模一帯を支配している南條春心の元へと逃れた。
*
勝利に浮かれる夜だった。
三滝城内で甲斐の各地へ信のおける家臣をいかに配置するか、なお小競り合いの続く地はどうするかなどを話し合っていた高時と則之の元に、次々と家臣が訪れては指示を仰ぐ。呼び出されて事情を聞かれている篠田の家臣もいつの間にか高時を主君としているかのように指示を当然のように仰ぐ。
高時のずば抜けた引率力に、誰もが当然のように従う。
良く通る声、強い目、凛とした面差し、迷い無い言葉、大きな体。
天性の指導者の風格が、ここにきて更に一層深まったようだ。
隣に座る則之は、静かに瞼を閉じた。
光があるから影が出来る。光を求めて群れる事のできる蛾であれば幸せなのかもしれない。光を避けると影に入ってしまう。
隣に高時がいても満たされるのかと問いかけてきた瞳が責める。
そんなに強い眼差しで、責めないでくれ――。
則之の心から表面張力を越えた気持ちが溢れている。押さえつけても溢れてくる、これを抱えながらはとても、とても生きられない!
端正な横顔が苦悩に歪んでいた。