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戦国を駆ける龍  作者: さくや一色
攻める龍
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譲らぬ視線


 翌日、甲斐の領主・篠田光虎しのだみつとらの居城である三滝城を包囲した。

 敵は籠城ろうじょうの構えを見せている。

 駿河本城の本田は篠田光虎臣下の最大勢力である戸田一族をすでに包囲しており、他の甲府領内の家臣にいくらか抵抗する勢力もあったが、勢いのついた若い力に率いられている駿河の軍に太刀打ち出来ず、沈静させた。


 すでに五日が過ぎた。


「高時様、このまま様子を見られるだけなのですか?」

「はや五日。そろそろ兵糧ひょうりょうも減って参りましょう。ここらで打って出てはいかが」

「敵将の首を討ち取りに参りましょう」

「あまり長く掛かっては、駿河の方も心配です。相模が狙ってくるやもしれませぬ」

 家臣たちが高時と則之を囲んで、侃々諤々(かんかんがくがく)と策を練る。朔夜は隅にただ控えているだけだが、意見は聞いているようだった。


 黙って皆の意見を聞いていた高時がふいに顔を上げた。

 瞬時に緊迫した空気に変わる。高時の言葉を聞こうと、皆が静かになる。


「兄上は、いかがな意見ですか?」

 隣に座る則之をちらとも見ずに意見を請う。則之は高時の方を一瞥してから、正面にむき直って、その美しい顔を引き締めて告げた。

「私は、そろそろ打って出る時機だと思う」

 その一言に戦に焦れていた将が、おおうと同意の声を洩らす。

「篠田の最大勢力戸田一族からも、領内のどこからも援軍の見込めぬ今、城を攻める時機が到来したと思う。ここで打って出て一気に攻めるが上策。そうではないか、高時?」

 ぐっと力を込めて高時を睨むように見る。

 その兄の意見をどう聞いているのか、右手を顎に当てたまま身じろぎもせずに正面を睨んでいる。しばし沈黙をしてから、視線を僅かに朔夜へと流す。その視線を受け止めた朔夜は小さく頷いた。


「兄上。俺は和議を申し入れたい」

「なっ!? 和議だと! 馬鹿なことを申すな! ここまで戦をしに来て今更和議とは何事! 怯んだのか高時!」

 詰責する則之の言葉を平然と受けると、ゆっくりと兄を見返す。

「和議だ。ただし篠田光虎の首を引き替えとする和議だ」

「なに?」

「篠田はもう孤立無援状態だ。戦うとなれば全員死ぬ覚悟で抵抗するだろう。そうなればただでさえ籠城の場合は攻め込むこちらに被害が大きい。どれだけ甚大な被害が出るか想像に難くない」

「だが、死に物狂いだからこそ大将首を渡すとは思えない」

「そうだろうな」

「そうだろうなって……何を考えているんだ高時」


 これは和議などではない。降伏せよと告げているのだ。到底受け入れられる訳はない。


「容易くは渡すまい。だが、もし大将首さえ渡せば戦わずにいられる、死なずに済む。そんな餌が目の前にぶら下がっていたら、城兵はどう思う?」

「それは……。忠誠を誓う者ならば、そんな餌にはかかるまいよ」

「そうだな、簡単に主家を裏切るような輩など信用に値せぬ。しかし、戦いは始まってしまえば幾多の命が散る。無駄の少ない道があるならば常にそれを探りたい。餌をくだけでもやってみぬか、兄上」

 則之も家臣も黙ってしまった。


 高時の言う策はある意味臆病者の意見だ。武士もののふならば潔く命を賭けて敵と戦うべきだ。策を弄するなど卑怯者だ。

 納得できない。

 大多数はそうだろう。

 今すぐにでも城へと単身斬りこんで、大将首くらい取ってきてやる。そう考えている者の方が多いだろう。



「俺がついて行く。だから餌を撒け」


 ずっと黙っていた朔夜がふいに下座から声を上げた。


 一斉に視線を集める。


 陽射しに透ける薄い瞳が真っ直ぐに高時を見つめている。他のどこにも視線を譲らずに、たた真っ直ぐに見つめる。

「この餌はお前が撒かなくては意味がない。だから俺がついて行く。お前の命は必ず守る」

「朔夜……」


 ハッと我に帰った春義が高時を振り返った。


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