不遜な獣
「なあ、お前なんで脇差しなんか持ってるんだ? そんな物はここでは必要ないから置いておけよ、物騒なやつだな」
講義が終わった部屋で、声を掛けた高時をまっすぐに睨みあげてから、まるで興味などないと言わんばかりに目を逸らした。
「おい、何かしゃべれよ。まさかしゃべれないのか、お前? おいって!」
地声の大きな高時の声に、わずかに眉を寄せた朔夜がぼそりと呟いた。
「……うるさい」
聞いていた周囲の皆が一瞬あっけにとられた。三男とは言え領主の息子である高時に向かって、うるさいなどと暴言をはいたのであるから、全員の顔が凍りついた。
一番始めに我に返ったのはいつも義信に金魚のフンのようにくっついている西野基晴だった。
「お、お前! こちらは駿河の国の領主、龍堂時則様が三男高時様であるぞ! 知らぬとは言えどもその無礼許し難い、即刻謝れ!」
「……知ってる」
「は?」
「領主の息子だと和尚から聞いて知っている」
「……おまえっ、知っていてそんな口を!」
「まあいい、西野。しゃべることが出来るのなら俺の問いに答えろ」
激昂しかける西野を押しとどめて高時が傲岸不遜な笑みを浮かべながら見下ろすと、朔夜はバサバサの髪の間からグッと力強く睨み返しながら憮然と口を開いた。
「生温い生活に慣れてんのかよ、領主の息子。一歩外に出りゃ命なんて自分で守るしかない世の中だ。殺されたくなかったら武器ぐらい常に持ち歩いたらどうなんだ」
「……っ!」
睨み上げてくる瞳から高時は逃げられない。子供特有の甲高い声で告げる荒々しい粗野な言葉遣い以上に乱暴な眼差しで血塗れにされた感覚に囚われる。
何者にも屈せず捕らわれず獲物を射すくめる野生の獣の瞳。
屈服させるのではなく、一撃で捉え確実に仕留める野蛮な瞳。
(この目は、なんて強い……そして――)
にやりと口元を歪めるように高時が笑みを浮かべた。
「ふんっ、気に入ったぞ。おまえは朔夜だったな。俺は龍堂高時だ。よろしくな」
成り行きをハラハラしながら見ていた友三郎が心配そうに見上げたが、高時の表情はさも面白いものでも発見したかのようにイキイキとしていた。