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戦国を駆ける龍  作者: さくや一色
攻める龍
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救援



『国境の不破島ふわじま城が甲斐かい篠田しのだ軍に攻められ救援を求めている』


 なぜ、今なのか。内乱で乱れるこの駿河を乗っ取らんと攻め込んで来たのは分かる。だが、救援の依頼が何故今日なのか。


「これは則之殿の策略の可能性もありませぬか?」


 高時の軍勢が救援に向かい兵力が分散されている間に、則之軍が攻め込んでくる可能性は高い。甲斐の篠田軍は片手間で対応できるほど容易い敵ではない。


「いかがなされましょう、高時様」

「罠であるとしても、不破島城が奪われるのは痛いですな。あそこは甲斐との最前線となる城じゃ」

「今は籠城ろうじょうしているが、救援なしでは数日内には陥落するかと」

 誰からも妙案は出てこない。

 時則と共に戦場を駆け巡ってきた将も、この窮地にいかに対処するべきかに頭を悩ませている。


 手にした扇子を閉じたり開いたりして黙ったままで皆の言葉をきいていた高時が静かに瞼を閉じた。しばし考えを巡らせるようにそのままじっとしていたが、次に目を開けた時、その瞳には強い力が漲っていた。

「救援を出す」

「し、しかし高時様。今は兵力を分散させてはなりませぬ」

「分かっている。だから最小限だ」

「最小限とは?」

「籠城している城の者全てを脱出させる手筈をつけるだけの最小の兵力だ」

「脱出?」

「城などはくれてやれ。城内の者を一人も死なせるな」

「なんと! そのような事はなりませぬ!」

 その場にいた皆が口々に反対する。


 まず野間、堀、黒田の三名が特に口角に泡をとばしながら不破島城の重要性を喚くように説く。だが高時の表情は僅かにも揺るぎはしない。どころかまなじりをきりりと引き上げて周囲を睥睨するや、

「城などくれてやれと言っている! 国内でもめている時に無駄に戦い無駄死にさせるな! このゴタゴタが終わったら俺がすぐに取り返してやる。分かったらすぐに不破島城の皆に伝えろ。誰も死なせるな!」

 その圧倒的な威圧にただ平伏するしかなかった。


「いいか、隊の編成は黒田左馬ノ介殿に任せる。篠田軍の目を城から一刻逸らせるだけでいい。戦いが目的ではないから弓などを中心に編成せよ」

「はっ、承知。ときに高時様。此度こたびの編成について、それがしに頂戴したい者がおります。是非にお許し願いたいのですが」

「ほう、猛将の黒田殿が是非にと請うほどの者がおるのか?」

「はっ、それは姶良殿でございます」

「姶良? ……朔夜か?」

「はい。あの逆落としの際の見事な駆けっぷり、冴えたる太刀筋、あの若さにして素晴らしい胆力と存在感。あれほどの逸材、それがし惚れ惚れとした所存にございます。それにあの奇襲組の若人らの姶良殿を見る目は、なべて尊崇の眼差し。彼には将を率いる才があるとお見受けしました」

「朔夜が、か」


 黒田は昨日の戦の折、高時の側で正面から斬り込んでいたから、あの奇襲の一部始終を見ていた。

 真っ先に駆け下りて混乱窮まる敵を鬼神の如き剣捌きで薙ぎ倒すその姿に圧倒された。是が非にも自分の配下に欲しいと願った。


「黒田殿、済まぬが奴は俺と共に和議の申し入れに向かう。此度は堪えてくれ」

「なに? 和議の申し入れにと?」

「そうだ。こうして他国に攻め入らせる隙をこれ以上作るわけにはいかぬ。俺は今からこの足で小椋山おぐらやま城へ行く」

「では繁則しげのり様に?」

「そうだ、和議をまとめてくる。では解散する。皆よろしく頼んだぞ。黒田殿、一人も死なせぬように、整い次第すぐに出発を」


 決めてしまえば素早い。行動力では誰にも追随を許さぬ高時だ。

「使者をたてるべきだ」の「危険過ぎます」だのと家臣の皆が止めるのも聞かずに馬に飛び乗るや、朔夜のみを連れて単身城門を駆けだしてしまった。



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