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戦国を駆ける龍  作者: さくや一色
出会い
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朔夜


「今日から共に過ごすこととなった子じゃ」


 学業の時間になり、皆がきっちりと座った部屋にその子供を連れて和尚が入るなり告げたのを聞き、ザワザワと動揺したざわめきが起きる。


 それもそのはず、ここは駿河でも名刹の禅寺で、ここに集っているのは名将の子弟がほとんどである。その中に、いかにも浮浪児然とした子供が来たのだ。皆が動揺しても致し方ないことである。


「和尚様、どこの子なのでしょうか?」


 皆の疑問を代表するような形で野間義信が尋ねると、一斉に室内の目がその子供に集まり静かになった。


「うむ。この子は伊豆からの帰りの山中で拾った子じゃ。名は朔夜さくやと名付けた。皆仲良くしてやってくれ」

「拾った!?」

「山中で?」

「名も無かったのか?」


 口々に騒ぐのを和尚が押しとどめる。


「静かにせぬか。この子にはこの寺で下働きをしてもらうが、なにぶん子供じゃからな、そなたらと同じように学業や武芸にも励んでもらうつもりじゃ。ええな。他に聞きたいことがあるのなら終わってからにせよ。さあ、始めるぞ!」


 どうにも不満だらけの顔が和尚を見ていたが、上から押さえつけるように宣言すると、皆しぶしぶと目を逸らして教本を開いた。 


 一応水ですすいで来たのだろう、朝見た時よりは顔と手足の汚れが落ちている。が、いかんせん髪の毛は手入れもされずパサパサのボサボサで、栄養状態が悪いのか色も薄い。さらに異様なのは小さな身体には大きく感じる脇差しを腰にさしている事だった。

 ほぼ全員が名将の子ではあるが、殺生を禁ずる寺の中。刃物を挿すことは和尚によって禁じられていたから、高時でさえも寺に入ると刀は挿していない。

 それなのにこの子供だけはなぜか帯刀している。それも浮浪児に不似合いの脇差を。


 部屋の隅に座ったその子供は、まるでここに住み着いた妖怪かあやかしのようである。

 皆がヒシヒシとその存在を気にしてはいるが、誰もそれに触れたくはないと言わんばかりに見ようともしない。


 朔夜と名付けられた子供は、どっかりと座ったまま和尚が読み上げる論語の内容を聞きもしないでぼんやりと開け放たれた外を眺めているだけであったが、じっと見ているのに気がついたのだろう、ふっと友三郎の方へと目を向けた。


(……こ、恐い)


 長い前髪から覗く瞳がぎらついていて、友三郎はかなり怯えたが、彼はすぐに視線を逸らせた。

 まるで野生の猪にでも遭遇したような心持になり胆が冷えた。


(――何か私は気に入らぬ事をしただろうか? もしかして、僭越ながらこの友三郎、高時様の弟分のような存在。それが生き別れの弟である(らしい)彼にとっては目障りなのだろうか……うん、きっとそうに違いない。)


 和尚の有難い講釈も聞かずに脳はまた走り出していた。


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