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戦国を駆ける龍  作者: さくや一色
動き出す時
19/67

再会


 翌朝早くに寺に別れを告げて高時が主となった満願寺まんがんじ城に着いた友三郎を真っ先に迎えに出てくれたのは野間義信であった。


「良く来たな友三郎。高時様もそなたに会うのを楽しみにしておられたぞ」

「義信様、お久しぶりにございます。私も皆様に会えるまで寂しくてなりませんでした」

 久しぶりに聞く柔らかな義信の声と、優しい穏やかな笑顔に満たされた気持ちが湧き上がる。柔らかで穏やかな空気に満たされたようだ。と思った途端

「友三郎が来たか!」

 廊下の向こうから大音声が響く。


 思い切り外へと振り返った友三郎の目に高時がドスドスと足音も荒く廊下を踏みしめて向かってくる姿が飛び込んできた。


「高時様!」

 飛びつきたい程の衝動をグッと押さえたが、思わずお尻が半分ほど浮き上がってしまった友三郎の姿を見た義信が、クスッと笑ったのに気がついて思わず顔を赤らめる。


「おうおう、待ちかねておったぞ友三郎!」

 部屋に入ると上座にどかりと座り、力を込めた瞳で友三郎を見ながらにやりと笑った。

「少し見ない間に背が伸びて大きくなったようだな。そのうち義信も追い越すほどに大きくなるやもしれんな」

「はいっ! この頃急に背が伸びました。早く高時様のお役に立てるように頑張ります。背の高さでは唯一朔夜に勝っております」

 あはは、と大きな声で高時が大笑いをする。友三郎が自信満々で唯一と言い放ったのが面白かったようだ。


「朔夜の背はさほど伸びておらぬのか」

「済みません高時様、朔夜も来るようにと誘ったのですが……」

「いや、いい。誘えなどと言っておぬしに要らぬ気を遣わせたな。朔夜は来ぬ。分かっておったのに悪かったな」

 ふっと瞳を伏せた高時が、どことなく憂いを含んだような気がした。が、すぐに目を上げて強い光を湛えた瞳で友三郎を見た。


 ほんの数カ月会わなかっただけなのに、高時はとても大きくなったように感じる。城主としての貫録というのか人を従えるような雰囲気というのか、友三郎はうまく言葉にできなかったが、ビシビシと伝わるものを感じて陶然として高時を見上げる。


(――以前よりずっと強く麗しくなられた高時様。はっ、もしやご婚礼のお話などが持ち上がっているのかもしれませんね! そろそろお年頃ですから。そしてその姫がまたとても美しい方で、高時様は既にお心を奪われていて、その姫も高時様に懸想けそうされていて……)

 遠くを見つめる友三郎の妄想姿を見て小さく喉で笑った高時に気がついて、すぐに威儀いぎを正した。


「いえ、高時様。朔夜はいずれ高時様に会いに来ると申しておりました。私にもしばしの別れだ、と言っておりました」

「朔夜がそのような事を?」

 ううむと左手を顎にあてて少し思案しながら聞こえぬほど小さな声で呟いた。

「では、親父様とは……」

「高時様?」

「ん、いや、友三郎よ。今宵は宴を催すぞ。お前を皆にも紹介せねばならぬからな。ではそれまでゆるりと過ごすがいい。義信、案内してやれ」

「はっ」


 立ち上がると、すぐに部屋を後にしてしまった高時の後ろ姿をいつまでも見ている友三郎に、義信が微笑みながら慰めてくれる。

「高時様は着任から日も浅くまだまだお忙しい身でな。気の休まる事も少ない。お前が来てくれて本当に助かる」

「そうでしょうか。私ごときでお役に立ちますでしょうか」

「もちろんだよ。高時様も私たちも友三郎にはいつも癒されているのだよ。おまえの無垢な心がとても癒しになるんだ。それに、最近は朔夜の事が気になっていらして……」


 言いさしてふっと口をつぐんだ。


「朔夜が、何か?」

「あ、いや。……そうだな、友三郎には言ってもよいかな」

 義信は膝を進めて二人の距離を縮めてから小さめの声で言った。


「昨年あたりから時則様が頻繁に朔夜を城に呼び出しておられてな、それも昼のみならず夜からでも呼び出されておられて、いよいよ朔夜が時則様に仕えるのではないかと心配しておられるのだ。

高時様は本気で朔夜を自分の元に仕えさせようと思うておられるのだ。まだ寺におるのだから大丈夫だとお伝えしても、どうも気になされているようでな。私などは何故あのような素性の分からぬ子をそこまで思い入れられているのか分からぬのだがな」


 そう言われれば、寺でも朔夜はよく不在の時があったし、夜も帰って来ない時もしばしばであった。寺の用事も何やかやとこなしていたので別段不在でも気にもしなかったが、あれがもしすべて城へと出向いていたのなら、相当密に呼び出されていたことになる。


 どうやら時則様は城に戻る度に呼び出しをかけているらしい、と義信が締めくくった話を、途中から色々な疑問が湧いてきて、しっかりと聞き取れていなかった。


 朔夜はそんなに呼び出しを受けているのに友三郎には一切話してくれなかった。

 だいたいそこまで領主である時則に気に入られていながら素直に仕えようとしないのか。高時に仕える気があるのか。


 朔夜には確かに不思議な魅力がある。人目を惹きつけて離さない華やかさと暗い深淵を思わせる深い闇、それが危うい均衡で保たれたような魅力だ。だからと言って百戦錬磨の時則が小姓として傍に置くわけでもなければ、そこまで朔夜を買う理由としては


(――やはり霧雨だろうか)


 背の高さはそうでなくとも身体をしっかりと鍛えているおかげで、ちゃんと腰に妖刀霧雨を挿せるようになっていたが、人前では決してそれを抜いて見せることはなかった。たとえ領主である時則が請おうが脅そうが、決して見せないと決めているのだと朔夜が以前話してくれたことがあった。

 霧雨は人の血を欲しがるのだ、と続けて。


(時則様は霧雨を狙っているのかもしれない。朔夜を取り込めば霧雨を手に入れられるのだから)


 友三郎はそう考えたが、高時はそう単純には考えていなかったようだ。


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