黒塗りの高級車
そんなこんなで私は帰宅する為に校門に向かったのだが、そこに黒塗りの高級車が止まっていた。
庶民の私からすると、怖いよ! と思いはしたのだけれど……。
「お嬢様、お迎えに上がりました」
そういえばそんな設定だった気がすると私は今更ながら思い出し……。
その車に乗り込んで、あることを運転手にお願いする。
「あ、これなら楽でいいわね。運転手さん、お願いがあるのですが」
「何でしょう、お嬢様」
「明日、お友達を二人ほど一緒に連れて行きたいのだけれど」
「分かりました。どちらのお宅でしょうか?」
そう聞かれて私は思い出した。
ローズマリーとユーマの家を知らない。
ついでにメールアドレスや携帯の電話番号も知らない。
私とした事がお友達としての第一歩であるそれを聞き逃すなんて、と嘆きながら……気付いた。
確か攻略本に何かのっていたような……。
思い出しながら私は攻略本を取り出し、真剣な面持ちで調べて行く。
そして彼らの住んでいる家を見つけた。
付録のおまけのような場所に書かれている設定、それを私は読み上げる。
「ハイパーボルケーノマンションはご存知?」
「ええ、変な名前で有名ですからね。分かりますよ。他の方はどちらですか?」
「……猫又弐又旅町2丁目の、赤い屋根の2階建ての家で分かるかしら」
「ええ、はい。赤い屋根の家はあそこでは1か所しかありませんから」
答える運転手に、そんな目立つ場所にあの二人は住んでいるのかと私は思う。
けれどだからこそこの運転手も分かるのだろう。
そう思いながらその住んでいる場所データをもう一度見て、
「3階まで上がるのは面倒ね」
ユーマの住居は3階らしいのだが、いちいち呼びに行くのも疲れるし、先にローズマリーを迎えに行ってユーマも拾ってしまおうと私は決めたのだった。
私が戻った家はとても大きいお屋敷だった。
部屋はどこだったかなと思いつつ、使用人であるメイド達が一斉に私に、
「おかえりなさいませ、ミントお嬢様」
と戻ってきた私に挨拶をする。
本物のメイドを見た私は、一瞬帰る場所を間違えてメイド喫茶か何かに行ってしまったのかとも思ってしまった。
そして鞄を預け、私の専属のメイドらしき人に部屋へと案内されるように廊下を歩いて行く私。
凄い設定だなと心の中で呟く私は、こんなに豪華な場所だと落ち着かないし、それよりも早くあの二人を進展させたいわねと考える。
「明日の朝まで時間が飛ばないかしら」
ふと私はそう思って呟いただけだった。
そうすればサクサク次の展開に私は進む事が出来るから。
こう、文章系のノベルゲームで、一度聞いた会話を早送りできるのって楽でいいわ、といった程度の気軽な気持ちだった。
だが、私の目の前で茜色に染まる空を映した窓は、朝日がまぶしい青空へと変わっていた。
どうやら、私は時間を進める能力があるようだ。
「こんな力があってどうなのかなとも思うけれど……でも私が呟くと何らかの影響や変化がこの世界にあるみたいね」
それが良い事なのか悪い事なのか、というか、
「聞こえているなら、はやくここから私を出しなさいよ!」
叫んでみたが、何も起こらない。
無視しやがったと私は毒づいて、そのまま鞄をメイドから受け取り、ローズマリーとユーマを迎えに行ったのだった。