番外編 ミッション・かくれんぼ
本日も蒼一兄ちゃんに図書カードで、ほいほい釣られた私は悪役をやらされていた。
何でも乙女ゲーム内のイベントで、“ミントを探せ☆”というイベントをやるらしい。
そのために私の行動を観察したいらしい。
そんなわけで私は森のような場所に来て隠れて様子を伺っていた。
同じ文芸部のキャラがそのゲームの能力を持って、私を探し回る……らしい。
けれどそれは同時に私の能力もミントと同様である。
「色々簡単にできていいわ。それにこの体って動きやすいしね」
そう私は楽しみながらターゲットを探す。
隠れている私ことミント一号を探すのがこのイベントの主要な目的だ。が、
「何も大人しく一か所に隠れている必要なんて無いのよね」
そもそもが私を捕まえればその人が勝利なイベントなのである。
けれどだからといって、逃げるだけの選択肢しかない……というわけではない。
つまり、こちらから“彼ら”を狩るのもOKなわけである。
そもそも逃げ回るだけなのは私の性に合わない。なので、
「どちらが“獲物”なのか、思い知らせてあげるわ」
そう小さく呟いて私はにっと笑い、文芸部の皆が二つに別れて私を探そうとしているのを確認し、まずは……一番危険そうな相手から、排除する事にした。
「く、この……」
「私も手伝います!」
そう言って私を追いかけてくる二人に、私は小さくほくそ笑む。
上手くいっている。
わざと彼らの前に姿を現したかいがある。
そう思いながら、私は木々の枝から飛び移る。
それをミント0号と忍者な聡が追いかけてきている。
同じミントなのだから彼女と私に能力の差はない。
加えて、聡までいるのだから現状では私の方が分が悪いように見える。
それもあってだろう、彼らには余裕が見える。
だが、その油断が命取りなのだ。
そう笑いながら私は地面へと飛び降りる。
胸がポヨンと揺れたが、特に何も感じない。
反重力装置を搭載したかのような胸。
肩こりから解放されるそう快感もふくめて、このリアリティの無さと理想的な状態にある種の感動を私は覚える。
素晴らしい乙女ゲームの世界。
そう思いながらそこで私は立ち止まった。
後ろから聞こえる足音に嗤いながら、私は振り返る。
そんな私の表情に何かを感じ取ったらしい聡が、ミント0号を止めようとするけれど……もう遅い!
「誘い出されたと気づかずに……愚かだわ、ぽちっとな」
そこで私はスイッチを押した。
同時にミント0号達の足元が爆発し、轟音と閃光、そして煙が辺りに充満する。
後には……気絶した二人が転がっている。
「よし、まずは二人ね」
私はそう呟いて、ロープで二人を縛り上げて、草むらに隠したのだった。
次のターゲットである不良くんと日向ちゃんは余裕だった。
まずあの不良君なレイ君を、一番後ろを歩いていたのでオタクアイテム(美少女フィギュアなど)をばらまいて、罠にしかけてゲット~。
そんなレイ君を探しに来た日向ちゃんも一緒にゲットしました。
こうして残りは四人となるわけだけれど……。
「そろそろ何かがおかしいと感づかれたみたいね。さて、どうしようかしら」
一人、またひとりと消えていく、かくれんぼ。
まあ、全部原因は私なのだけれどね。
そこでカモミールが一人はなれていく。
なるほど、そのカモミールを襲う所で、私を捉えようという魂胆なのか。でも、
「残念ね。もう既に、手は打ってあるのよね」
私が直接捕らえようとせずとも、もし取り逃がした時のために二重、三重の罠という手を打ってあるのだ。
自分達がただ探せばいいと思い込んでいる彼ら愚かだという事を、私は証明してやると暗く笑う。
そこで、今度はミナトが二人から離れていく。
残るは、ユーマとローズマリー。
「三人同時はきついけれど、二人同時ならいけるわね。とりあえずこれを設置して、後はこれにピアノ線をつないで……完成っと」
私そっくりの見た目にピアノ線をつけてロープで吊るす。
後はこのまま、あの二人の背後を取ればいいだけ。
けれどこれまでのこともあってか、残っている二人は警戒するように辺りを見ている。
そうね、このままバッと現れるのもいいけれど、と思って小さく人形を引くと、木々の葉が小さく揺れる。
それを見て私は、
「これは使えるわね」
ふふっと黒く笑ってから、まずはその人形ができるかぎり動かないように移動したのだった。
がさがさと音がする、ローズマリーとユーマが警戒したようにそちらを見る。
「ミント、そこにいるの?」
声をかけるローズマリーの声は震えている。
そんなローズマリーを庇うようにユーマが一歩前に出る。
そこで私はピアノ線から手を放した。
ローブで弧を描くように私の人形が飛び出してきて、そちらにユーマとローズマリーの視線が釘付けになる。
それを見計らって、私はできるかぎり音も立てず一気に枝から彼らの背後を取るように飛び降りるが、
「ローズマリー、あれは囮だ!」
すぐに人形だと認識したらしいユーマがローズマリーの手を引く。
お陰でロープで捕まえられなかった私は小さく舌打ちした。
「ちっ、今倒されていれば怖い思いをセずに夢のなかだったのにね」
「お断りだ! というかこれ、かくれんぼじゃないだろう!」
「あら、私は隠れていたわ。でもね、大人しく狩られるだけな私だと思っているのかしら。そして……気づかれた時用のプランは、既にねってあるのよ?」
「! ローズマリーここから離れ……」
そこで私はさっととあるスプレー缶を取り出す。
そしてそれを使い、二人の顔にむけてプシューッと。
二人がいとも容易にパタンと地面に倒れる。
余裕、余裕……後はこの二人をロープで縛って、茂みに放り込んでっと。
カモミールも上手く捕らえられているかチェックして……それよりも。
「ミナトが捕まえられているか見てこようっと」
カモミールの方は素直に引っかかつてくれるだろうが、ミナトは違う気がする。
そのまま捕まってくれればいいのだけれど……そう思いながら、そちらに向かって、私は無傷な罠たちを目撃する。
どうやら感づかれたらしい。
「確か時間内に残っていた子が一人だったらその子が勝利だったような……」
となると、ミナトを探すしか無い。
一応は、カモミールの様子も見てきたが見事に罠にハマっている。
そうなってくると後一人はミナトなのだけれど……。
「見つからないわね。いえ、ミナトの事だからただ隠れているだけではないかもしれないわね。……まさか」
そこで私はある可能性に気づいた。
つまり、私の姿が見える位置で、ある程度距離をおいて逃げられるようにし、隠れながら追跡する可能性である。
タイムアウトを狙うならば、これほどいい方法はない。
それに対して私はどうすればいいのか。
それはとても簡単な話だ。
「ようは、ミナトに私を見失わせればいいのよね」
ニヤッと笑って私は走りだした。
確か運動能力は私のほうが高かったはずだと思う。
このまま引き剥がしてしまえ、そう私が思った次の瞬間、目の前にミナトが飛び降りてきた。
「!」
「と、なるだろうと思って、後ろからではなく、少し先の斜め上を移動していたんだ」
冗談めかしたように私は言われて、そこでミナトに手を掴まれて、かくれんぼは終了になってしまったのだった。
今度もミントの行動が面白いと評判のイベントだったらしい。
一人、またひとりといなくなっていくのがホラーゲームっぽくて良かったとのことだ。
だが私としては、何でそんな怪物みたいなものと一緒にされねばならないんだろうと思う。
不条理だ。
そんなこんなで本日も私は図書カードと、ちょっとしたジュースとお菓子を貰って文芸部の部室に向かう。
そんな私が、一人を除く皆に次こそは負けないからね、と宣言されたのはまた別の話である。
「おしまい」