番外編 ファンタジー世界で、私は真の悪役ヒロインになる!-その5
その場所は、暗い森の一角にある洞穴だった。
何処からどう見ても何かが出てきそうな場所である。
ただこの洞窟に続く細い獣道を見つけるのは、攻略本無しできつかったかもしれない。
その洞窟の前にやってきたのはいいけれど、ローズマリーが怯えたような声で、
「ここ?」
「えっと、攻略本だとそうみたい。あ!」
「な、何?」
「中の魔物がすごく強いらしい。でも私がいるから大丈夫かも。蘇生や回復魔法も使えるし」
「良かった~、これで大丈夫……ちょっと待って」
そこでローズマリーが小さく呟いて、
「何でラスボスにそんな魔法が?」
「さあ、あれよきっと。ラスボスも回復魔法で回復したり、戦闘員の部下を蘇らせるんじゃない?」
「……勝てるの? 私達」
「さあ、ゲームバランスは考えてくれている……と思うよ。なので、安心してビキニでここに来てね」
「……その余裕が命取りだと、必ず身を持って教えてやるわ」
「ふふふ。ついでに、ミナトもこちら側にお誘いしてやるんだ~」
「だからそっちは戦闘員も含めて強いんだから、我慢しなさいよ」
「嫌ですぅ~、本当は私だってそっち側行きたかったのに。何でまた悪役をやらないといけないのかしら」
理由は簡単だ。
この前の乙女ゲームの時の、自分の行動が面白くて売れたからだ。
あの時は色々と切実な問題があって、正確にはここから元の世界に戻りたいという気持ちが強かったので、ああなったのだ。
だからそんなにおかしい行動では無かったと私は思うのだけれど、ネットの評価では、爆笑しましただの、予想の斜め上をいく展開だの、色々書かれていたのである。
あれには地味に精神を削られたと私は思い出しながらため息をつく。
だから今回はそこまで変な行動を取らないわよと思いながら、魔法を使う。
“灯り”の魔法。
洞窟内は暗いので、これは必須なのだ。
そしてその時気付いたのだが、魔王というラスボスな私は、この攻略本に書かれている魔法のほとんどが使える。
それはいいわねと思いながら、ローズマリーを守るように私は進んで行く。
パーティを組んでいると認識されているのか、経験値が私とローズマリーの両方に振り分けられている。
敵に塩を送っている状態だけれど、ちょっとくらいは大丈夫だろうと思いながら進んで行く。
途中、クイズのようなものもあったが、攻略本のおかげで簡単に通過できた。
余裕過ぎて笑いが止まらない。
そして、その最深部の祭壇の様な場所にやってきた私達は、金色に光り輝く海パンと真っ白いネクタイを一つづつ手に入れた。が、
「もう一組もらえないかしら。私もミナトにそんな格好をさせたい」
けれどもう一組出てくるわけではない。
一組限定のアイテムかと私はがっかりしつつも他に似た様なアイテムがないかを確認して……そこで気付いた。
もう一回この洞窟から出て探検すれば手に入るという記述を。
「どうする? ローズマリー」
「……強力な防具は、多いに越したことがないわね」
そう、ローズマリーは笑い、私は、まあ、大丈夫だよねとその時気楽に考えていたのだった。




