番外編 ファンタジー世界で、私は真の悪役ヒロインになる!-その2
目の前の景色が瞬時に切り替わる。
転送魔法。
ゲームの主人公達はまだ手に入れていない、とても素敵な力。
そしてやってきたのは、土がむき出しの道。
両脇には木々が生い茂っている。
風が心地よくて、このまま何処かに冒険に行ってしまいたくなる。
だが私には面倒臭い……ではなく図書カード分の仕事がある。
なので周りを見回し、そこで文芸部の仲間……ではなく、ローズマリー達勇者様一行が兎の様な魔物と戦っていた。
近づいていくと、ローズマリーが、
「う、うう、こんな可愛い兎なんて、倒せないよう」
「駄目だローズマリー。戦闘に慣れないと」
「で、でもユーマ、私、こんなつぶらな瞳で私の事を見上げているし……」
「ローズマリー……そんな優しい君も好きだけれど、でも、ここは心を鬼にして俺は、手助けしない」
「ユーマ」
「でも、きちんとできたら頭を撫ぜてあげるから」
「……私、頑張る! ……って、ああ!」
一人敵役に回された私は、そうやって目の前で繰り広げられる恋人同士の営みを見てどう思うだろうか。
答え、ぶっ潰してやんよ!
そんなわけでちょっと威力が高くて派手に火花が飛び散る炎の魔法攻撃を喰らわして、一瞬出兎を倒してやりました。
ローズマリーが不満そうに私を見ているけれど、私だって、本当はそちら側に行ってミナトとデートの様な物がしたかったんだからね! と思ったのだ。
そこで、ミナトが手を振る。
「由紀……じゃなかった、ミント魔王様はどうしてここに?」
ミナトの恰好からするに、魔法使いの様な彼だ。
うむ、ここで勇者パーティの魔法使いである彼をそそのかして、闇堕ちな展開に持っていこうか。
よし、それで行こう。
「ミナト、私の方に闇堕ちしない?」
「……いや、そんなデートに誘うように言われてもこまるな。一応私がいないと困るイベントもあったはずだから」
「あ、そうなんだ。じゃあそれが何処なのか後で攻略本で見ておいて、そのあたりに来たら、もう一回お誘いするね」
「……あー、ユーマとローズマリーが物凄く恨めしそうな顔で私を見ているから、無理かもしれないな」
そこで私はその二人を見ると、恨めしそうに私を見ている。
別にまだまだ沢山仲間がいるから良いじゃんと言い返そうと思っていた私。
だが、ローズマリー、曰く、初めは自分達三人だけだそうだ。
そして他の皆はといえば、合流するまでその周辺の町などで自由に散策して時間を潰しているらしい。
そこそこの戦闘能力を初めから与えられながら。
だが、それもローズマリーには許せないようだった。
「私、私なんて何でレベル1から始めないといけなかったのよ!」
「わー、でもいいじゃん。恋人と助け合って成長していけるわけで」
「そ、それはまぁ……って、でも、ミントはもっとすごく強いじゃない、ずるいわ!」
「だってラスボスだし。あ、そうそう、そろそろ雑談はこのくらいで良いかしら」
その言葉に、ローズマリーが首をかしげる。
「? どういう事?」
「イベントのために私は来たって事」
「え? でもミントはラスボス……」
「そう。でもね、たまにこう、物語の途中で変に強い味方なり敵なりと遭遇したりする事ってあるでしょう?」
ローズマリーは嫌な予感がしたようだった。
じりっと後ずさる彼女達に私は、悪い笑みを浮かべながら、
「通称、負けイベント。残念ね、出会ったばかりなのにこんな事になるなんてね」
そう私は告げながら、せっかくなので、強そうな中二臭い名前の大技を使い、一瞬にして勇者一行を全滅させたのだった。




