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番外編 秋の怪談祭り

 私は縫いぐるみを作るのが下手であるらしい。

 以前作った縫いぐるみは、それはそれは怖い形になっており尻尾が増えていた。


「その内、化けて出てくるんじゃないのか?」


 まだ恋人同士じゃなかった頃に、陸がそれを見て、ひきつったように笑っていたのは、良い思い出だ。

 そして何故か私のお弁当箱に入っていた卵焼きを奪われたのだ。

 自信作の甘辛い味付けの卵焼きが、目の前で陸の口の中に消えた。


「美味しかったよ」


 と、晴れやかな笑顔で言われた時には、食べ物の恨みの恐ろしさを思い知らせてやろうかどうしようか迷うほどに頭に来たのだが、私はその時は我慢した。

 そんなこんなで、再び私は縫いぐるみに挑戦したわけだが……。


「何故だ、何故、私が作るとこうなってしまうのだ……私の才能が辛い!」


 そう自分に酔ったように呟いてみたが、やはり目の前の縫いぐるみは以前よりもパワーアップして恐ろしい。

 これでは子どもが見たなら、泣くどころか卒倒してしまいそうだ。

 一応、こういうのが作りたいと紙に書いてはみたのに、明らかに形が違う。


 しかも尻尾が五本もある。

 陸に見せたなら、相変わらず化けて出そうだなと言われてしまいそうだ。


「……この前のは私に似せて、今回は陸に姿を似せたのにな」


 なのにこんな化け猫の様な姿になってしまった。

 何でこうなったかなと思いながらじっと見ていると、それはそれで愛嬌がある気がする。

 むしろ可愛いような気がする。


「うん、折角だから、この前作った人形の隣に置いておいてあげよう」


 そう呟いて、私は自分の作った化け猫縫いぐるみを見るが、そこでふとその猫の縫いぐるみが片目だけつぶったように見えた。

 疲れているのかな、そう思いながら私はその人形を以前作った縫いぐるみの隣に置いて、部屋の明かりを消したのだった。






 ふと、夜中に何かの気配の様なものを感じて陸は目を覚ました。


「何だか変な感じがするな。妙に寒い様な……びくっ」


 そこで陸は暗がりの中、一人の少女が部屋の中に立っている気がした。

 その姿は見覚えのあるもので、


「由紀?」


 試しに恋人の名前を呼んでみた。

 するとその少女の姿は、くるりと陸に振り向いてゆっくりと近づいてきて、にやりと笑う。

 これは一体何なんだと思っていると、けけけけっ、と笑いながら、昔、由紀が作ったような縫いぐるみに変化してそのまま姿を消した。


「……夢か」


 陸はそう呟いて、自分は何も見なかったと言い聞かせながら、その日は眠ったのだった。






 次の日私は文芸部にあのぬいぐるみを持ってきたのだが、陸が顔を真っ蒼にしていた。


「そ、それは……」

「昨日、作ってみたの。陸に何処となく似ていない?」

「……」


 それに陸は沈黙したままで、それ以上は何も話したくないと呟くのみだった。



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