ラスボスにとどめを刺す方法
「ローズマリー……心ちゃん、もうゲームは終わりにしようよ」
「……やっぱり貴方は由紀ちゃんだったんだ。でも、駄目だよ、ここは私にとって優しい世界だもの」
「心ちゃん、逆ハーレムエンドが嫌だからってこんな何度も繰り返すのは良くないよ」
せめて他の全員をログアウトさせてからにした方が良いと私は言いたかったのだが、そこでローズマリーは普段の心ちゃんとは思えないような目で私を見て、
「貴方に何が分かるの! 普通な常識的な行動をとったら逆ハーレムになった私の気持ちなんて分かるはずない!」
私は無言で蒼一を見たが、すうっと彼は私から視線をそらした。
良く見ると、花さん達全員が蒼一を見ている。
そこで心が更に語る。
「それで違う選択をしようと思えば心が痛んで出来ないし、それでもがんばっても気付けば逆ハーレムになってユーマだけのルートにならないし……」
「それって、ユーマルートに入ればそれでいいの?」
試しに嘆く心に問いかけると彼女は頷く。
なので私はユーマ――祐に目をやり、
「どう、心ちゃんをどう思っているのか正直に答えて」
「……ああ、分かったよ、本音を言えば良いんだろ! 俺は心が好きだ。まえから好きだった。これで良いか!」
祐が投げやりな感じで告白した。
けれどそれにローズマリーは、
「嘘。このゲームを終わらせたいからそう言っているのよ」
「……そうだな、終わらせたい。ゲームを終わらせてからその、デートしたいからな」
「……嘘」
「嘘じゃない! そもそも彼女いない歴年齢の俺が、女の子相手に好きとか冗談で言えない!」
祐が叫んで心が大きく目を開く。
驚いたような嬉しそうな表情になって……けれどすぐに、暗く心は笑った。
「そう、両想いならこの世界にずっといましょう? だってこの世界なら、私が全ての支配者だもの。ユーマとずっと一緒にいられるわ。そう、ずっとずっと一緒だもの……」
突然そう叫んだ心に、私は、
「蒼一兄ちゃん、ヤンデレ属性をローズマリーに付けた?」
「……最近ハマっちゃって」
お前のせいかと私は再び叫びたい気がしたのだがそこでローズマリーが、
「皆、私と一緒にいましょう? そして、その二人を捕まえて?」
心ちゃんが、ねっとりとした甘い声で陶酔するように呟く。
何でこんなラスボスみたいになっているのかと思っていると、傍で悲鳴が上がった。
「うわぁあああああ」
「蒼一兄ちゃん!」
見ると、一斉に蒼一に皆が群がって捕まえている。
そして私の方にはミナト――陸が来ていて、逃がさないというかのように抱きしめる。
何でこんなと思っていると、そこで陸が私の耳元で囁いた。
「由紀だけは、何とか心の支配が及ばないようにする。後で捕まえるふりをして逃がすから」
「陸?」
「……こんな時でなんだけれど、私は、由紀の事が好きだ。好きな女の子くらい、守ってみせる」
まさかこんな時にそんな事を言われるなんて思わなかった私は、どうすればいいのか分からず焦ってしまう。
けれど何となく陸は私に優しくて。
それが多分私を落ち着かせてくれたのだと思う。
私がこうやってここに来た理由は、心ちゃんを、現実世界に戻りたいと思わせる事。
そしてその切り札は私の手の内にある。
だから私はそっと陸に囁いて、
「ありがとう、陸。でも大丈夫なんだ。だって心ちゃん、これを聞いたらもう、元の世界に戻りたくなっちゃうもの」
「由紀?」
その問いかけに私は答えず、ひょっこり陸の背から心に顔が見えるようにして、
「心ちゃん、実はあれからどれくらいの日数が経っているか知っている?」
「突然何の話?」
「えっと、予約したあの抱き枕カバーが自宅に配送される頃なんだけれど。でもって心ちゃんはゲームをやり途中で来た荷物なんかもお母さん調べるって言っていたけれど……いいの?」
場に沈黙が走った。
良く見ると心ちゃんは蒼白になっており、混乱しているようだった。
だから私は陸に手伝ってと小さく囁いて、蒼一に群がる皆を引きはがして、
「ふう、助かった。というわけで、正気に戻ってね!」
蒼一がそう叫んで心のお腹の辺りに触る。
それと同時に、私達の視界が、景色が歪んでいく。
どうやら心をゲームの世界から強制的に元に戻したようだ。
後に残った全員はもともともうゲームはやめたがっていたので、自動的に現実世界へと戻る事になる。
こうして私達のエピローグへと向かったのだった。




