過去編は短く終わらない!-その2
テストプレイにやってきた私は、まず状況を整理する事から始めた。
☆登場人物
藤本心→ローズマリー
藤本花→カモミール
三浦美奈→ミント
今井陸→ミナト
今井佑→ユーマ
松井次郎→サトル
宮本楓→ヒュウガ
野口真人→レイ
その一覧を見て私が思ったのは、
「何で楓ちゃんが攻略対象に!」
「いや、こう、男装少女の百合ップルもいいかなって」
「蒼一兄ちゃんの趣味か! でも……上手くお互いがくっつくようには出来ているんだね」
「うん、やりようによってはね。ただ今、連続逆ハーレム中だけれどね」
肩をすくめる蒼一に、私は頭痛をおぼえながら、
「心ちゃん、ユーマを落としたかったんじゃないんだ」
「本当にね。それでむきになって何度もやるようになっていて、ちょっとまずい事になっちゃって」
「? どういう事?」
私の問いかけに蒼一は、少し考えてから、
「このゲームは乙女ゲームなのは前に話したよね?」
「うん。それで?」
「そのメインは主人公のローズマリーなのだけれど、乙女ゲームのシステム上、その主人公であるローズマリーの行動が最優先されるんだ」
「他の人達の行動は? だってみんなそのキャラを捜査しているんだよね?」
「うん、操作は出来るんだけれど制限がかかってしまうんだ。この乙女ゲームの場合だと、主人公キャラの行動が一番に優先されてその結果どういった組み合わせなのかが決まる。もちろん、フラグという物も設定はさえているんだけれど、それを選ぶのは主人公だから……おのずと主人公の選択に巻き込まれる事になる」
「ふーん、つまり、心ちゃんというかローズマリーが選んで望んだとおりにストーリーは進むと。でも、あれ? 心は祐が好きなのに何で逆ハーレム?」
何だか話がおかしくないかと私は首をかしげるが、それに蒼一が、
「うん、選択肢を間違えているみたいで延々と逆ハーレムしちゃって。むきになるのは良いのだけれど……ちょっとまずいことになってね」
そこで蒼一が一度言葉を切ってから、
「このVRゲーム、リアリティがあるって評判の街並みの素材を使っているんだけれど……今はどこのVRゲームもそうだけれど、現実っぽい手評判じゃないか」
「うん、私がやった事のあるゲームもそうだったし」
「でも実はあれ、そこまで現実味があるわけじゃないんだ」
「? 意味が分からない」
「うーん、たとえばどんなに精巧に作った家の模型があったとして、現実に存在している家とは何が違うと思う?」
「……雨に当たったり、陽の光を受けたり、風に当たったりして……汚れたり、風化、劣化する?」
「その通り! でもそこまでの現実世界の自然現象全てをこのゲームの世界に落とし込むことなど出来るわけがない。だってまだこの地球の自然現象全てを完璧に調べつくしているわけではないし、精密に再現するプログラムもまだ作られてはいないからね」
「でもここに映し出されている風景では、風がそよいでいるように見えるけれど」
「一応はゲーム内で風を起こしたりといったものは存在しているのだけれど、そちらに技術の比重を傾けるのは難し……その結果、別の手を講じる事になったんだ」
そこまで情熱的に説明された私だが、ようは、現実を完全にゲームにする事は出来ないので別のトリック? を使ったらしい。
私が早くと思いながら次の話を待っていると、
「その方法は、“脳の認識”を低下させる事なんだ」
「……つまり?」
「今目の前にある偽物っぽい張りぼての家を、ゲーム内では本物だと認識させるんだ。そしてその、そう認識させるというのは役の性格を演じてプレイするのにも役に立つんだ」
「えっと、自分はこういう性格だって思い込むの?」
「そうそう。他には、例えば悪役ミントの場合だと頭脳明晰、だろう? だから問題集などを開いたりテストが起こってもそれが全て完璧に出来ていると本人も認識するし、他の人達、モブも含めた全員もそう認識する、といった具合かな」
「うーん、でもそれだと長時間やっているとそのゲームのキャラだと自分を認識してしまいそうね」
ふと呟いた私の言葉に蒼一は、
「由紀は意外に賢いな。そう。その危険はある。でも優先順位は本人の意思なので、望めば全員がログアウトしてこちらに戻ってこれて、後は自動で攻略キャラが動く事になるんだけれど……」
「じゃあ皆戻りたいって思わないの? 逆ハーレムになったのに?」
「戻りたいと思ったけれど戻れなかったのかもしれない。……まず一番重要なのは、このゲームで最優先されるのはローズマリーの意志なんだ。主人公だからね。そして心ちゃんがまず、このプレーヤーでのゲームを望んだとする。そうするとこのゲームを支配する主とするプログラムが、その通りに動いて皆が演じたままにさせられて、更に、そのキャラだという認識が強くなってしまったみたい……というか、どうもその、ゲームを支配するプログラムが心ちゃんに乗っ取られて、そのゲームのキャラクターと世界を本物と強く誤認させられているようなんだ」
「ええ! 早く連れ戻さないと危険なんじゃ……」
「殺人等を行うゲームじゃないから、そこまで危険はないし、最終的には強制ログアウトモードを使えば全員戻ってこれるけれど……、出来ればそれをしたくない」
「なんで?」
「色々書く書類が面倒なんだ。それにそうすると、痴情のもつれでプレイヤーが、といった心ちゃんの恥ずかしい話も書かないと行けなくて」
「……前者の気持ちが強いんじゃないかな―という気もするけれど、それで、どうするの?」
「うん、さっきまで僕はモブになりながら手助けしようとしたんだけれど、ミントと親和性が良い美奈ちゃんに置きかけ回されたり邪魔されたりしてね。最後で気付いたけれど、一応彼女なりにこの状況を打開しようと、美奈の記憶はないけれど予想外の行動をとっていたんだ。ミントの性格の“矛盾”に影響されたらしいんだけれど、それでも結局はミントは悪役のままだった」
「……今、記憶が無いって言っていなかった?」
「うん、そのキャラだと認識させるから自身の記憶を思い出せないような状況になっていて。うっすらと少しは今はある状態でさ。おかげで攻略キャラも含めて全員、戻る事を知らない状態なんだ」
「このゲームってこんな怖いものだっけ」
「優先順位を付けたのがまずかったのかもしれない。それは今後の調整かな。それで、とりあえず中に入ってローズマリーに戻ってくるようモブになって説得したのだけれど、排除を何度もされちゃって。それで心ちゃんと仲のいい、由紀にも手伝ってもらおうかと思って」
「ええ! そのキャラだって認識しちゃったら私も出られないんじゃ……」
「その点は大丈夫なようにモブA子には設定しておくから大丈夫さ。僕とも連絡が取れるようにしておくし。本当なら、心ちゃんが戻ってこざるおえないような何かがあるといいのだけれど」
それを聞いて私はピンときた。
心ちゃんが戻ってこざるおえないような事情はある。
ただまだ時間は数時間しかたっていないので、蒼一に、
「もうすでに何日も経過したって事で良いかな」
「? 理由は?」
「心ちゃんが恥ずかしがるから言えないけれど、それで戻ってこざるおえなくなるの」
「うーん、それならまあいいかな。頼むよ」
「うん! ゲームの中に囚われた友達を助けるヒーローみたいで楽しみだし」
「……由紀らしいけれど、陸がとられてむっとしている部分もあるんじゃないのか?」
「べ、別に陸の事なんて私何とも思っていないし」
「はいはい。それじゃあ、よろしく頼むよ」
そう、蒼一兄ちゃんに頼まれたのも含めて、私はこのゲームを始めたのだが……。
「由紀!」
私はモブになる前に何かに弾き飛ばされて、気付けば、ミントになっていたのだった。




