誰だったか
上手くユーマはローズマリーを誘えたようだ。
カモミールは相変わらず私を警戒しているようだが、それはそれとして、
「何だかユーマとローズマリーの距離が近いような」
「な、何を言っているんですかミントさん! そんなわけないです!」
焦って否定するローズマリーは顔が真っ赤だ。
青春だなと思っていると、ユーマがちょっと落ち込んでいるようだ。
相手の言動に一喜一憂して、これぞまさしく友達以上恋人未満という、非常に甘酸っぱい展開である。
こういった状況は傍観者としてニマニマして眺めていたいのだが、残念ながら今日の私にそんな余裕はない。
まずは花屋でサトルをゲットするために、
「では私は用事がありますので、ごきげんよう!」
そう言って私はその戦線を離脱した。
目指すは、次の私の戦いの場!
私が走っていくこと数分。
その先にはサトルがちょうど花を買っているところだった。
「サトル、昨日はどうだった! 根掘り葉掘り聞いてやるわよ!」
「……もう一人のミント様か」
「そうよ、って、何? その花」
「……ミント0号が好きな花です」
「あら、今彼女自宅に引きこもっていてねと言っておいたから、今うちに来れば渡せるかも」
「てっきり貴方に助力をお願いされているのかと思っていました」
「うまく連携が取れればいいのだけれど、今回はちょっと色々厄介だから家にいてもらったの。それで、どうする?」
「……分かりました。俺も覚悟を決めて、恋人に直接手渡ししてきます」
「あらそう? 一緒に行かなくていいの?」
「先程の会話から、昨日の出来事をつぶさに聞かれそうだと判断しましたので、それをされるくらいなら、と」
「あら、残念ね。じゃあここでお別れだわ」
「はい、ミント様」
そうサトルは答えて目の前から消えていなくなる。
それを見送ってから、うまくいくといいわねと思いつつ私は歩き出す。
次は本屋なのだが、そこに入る前にばったりと私はミナトに会ってしまった。
「おや、こんな所で会うとはは奇遇だね」
「うげっ、何で本屋にいないのよ」
「これから行こうとしていたのだが、それで昨日は具合が悪そうだが大丈夫だったのか?」
「それはもう、こんな風にピンピンですわ」
「元気が良くて何よりだ。そういえば君こそ今日はどうしてここに?」
「ユーマ達の恋を少しでも邪魔が入らないように裏で私が動いているの」
「私や他の生徒がユーマ達に会って邪魔にならないようにか。ふむ、では協力しよう。君に付いて行けばいいのか?」
「ええ、話が早くて助かりますわ」
聞き分けのいいミナトだが、どことなく嬉しそうだ。
仲があまり良くなかったんじゃないかなと思いつつ、そこで、
「あ、ミントさん!」
「……またなんか俺巻き込まえるんだろうか」
そう、ヒュウガちゃんとレイに遭遇したのだった。
喫茶店にやってきた私達は、まずは飲み物を注文してから、
「でもミントさんとこうして話せるのが嬉しいな」
「ヒュウガちゃんは私のどこが気に入っているの?」
「活動的なところと優しいところです! 何となく由紀さんに似ていて……」
前半部分はいいのだが、楽しそうに言うヒュウガちゃんを私はまじまじと見た。
その由紀という人物はあのモブモブ君(仮)も言っていたのだ。
更に私はヒュウガちゃんから話を聞こうとするがそこで、
「確かに由紀にそっくりだな」
「君もそう思うのか? 実は私もそう思う」
そう、レイとミナトの二人も言い出す。
何この状況と思いながらも、その由紀という名前が何処か懐かしい響きがあるように思えて私は、
「その……皆が言っている、由紀って、誰?」
それに三人は笑い何かを言おうとして……三人揃って、不思議な顔をする。
「そういえば、由紀とは誰だったか」
「誰だったっけ」
「似ていると思ったのに、僕、思い出せない」
三人揃ってそう繰り返し、結局その由紀という人物が誰なのか、私は分からなかったのだった。




