納得してくれたかな?
入れ替わったミント0号はサトルの私服姿によだれが垂れそうなほどに目を輝かせていたが、
「後でデートの機会を作るから今は耐えてちょうだい」
「わ、分かっています!」
そう言ってうずくまるミント0号。
私はササっと木の影に隠れて、サトルがカモミール達を呼びとめるのを確認してから駆けだす。
事前にネットで場所やパンフレットを確認した私は、どこでその兄弟げんかが起こるかを確認している。
だがすでに時間が早まっており、違う場所かもしれない。
そんな不安を抱えながら私は、こっそり隠れて先回りした場所で様子を伺う。
周りには人が歩いているが、全てモブに見えて困る。
ふと遠くにモブモブ君(仮)に気付く。
彼もそんな私に気付いたらしく慌てて逃げて行く。
こんな場所でなければ、捕まえて癖になるくらい搾って情報を引き出してやるのにと私が思っていると、
「何でいつも何時もいつも兄さんは俺の前に立ちふさがるんだ!」
「私はそんなつもりでは……」
「結局母さんが兄さんを選んだのだって、兄さんが優秀だからじゃないか! 確かに倒産は家あしくしてくれているけれど、母さんは俺を捨てたんじゃないか!」
「だが、ユーマ、お前が連絡すればいつでも会ってくれただろう」
「ああそうだな! だけどな! いつだって何でもできる兄さんは、俺が欲しい物を奪って行くんだ! それが俺にはもう……耐えられない!」
叫ぶユーマにミナトは微動だに出来ないようだ。
そこでローズマリーがようやく現れる。
本来であればローズマリーがそこで止めに入り、ユーマとミナトの両方の好感度を上げる事になるのだが、そんな事をさせるつもりは私には毛頭なかった。
ローズマリーが二人の仲裁に入ろうとする所で私は飛び出し、
「歯を食いしばれ―!」
そう叫んでミナトに攻撃を仕掛けた。
けれどそれは容易に抑え込まれて、何処か機嫌の悪そうなミナトに、
「いったい何の用かな」
「貴方、本当にローズマリーをユーマから取ろうとしているの?」
ユーマがごふっと吹きだした。
多分完璧な兄であるミナトが怖くて、勝てないと思っていたからユーマは聞けなかったのだろうが、私にとってはどうでもいい問題だ。
その問いかけにミナトは目を瞬かせて、
「そうだな、ミント、君が私に抱きついてくれたら教えてあげよう」
「……セクハラ」
「良いじゃないか抱きつくくらい、減るものでもないし」
「……その発想自体が無いわ―、と思うけれど、そうね。きちんと答えてよ?」
そう付け加えて、私はミナトに抱きついた。
何となく落ちつくような幸せなような不思議な感覚。
頭をそのままミナトに撫ぜられて、私は幸せな気持ち……になるわけがない!
「も、もう良いでしょう!」
「残念だね。なかなか大人しい君は珍しいから。……それでユーマは、納得してくれたかな?」
今ので何を納得なのか、と私は思っていると、ユーマが何か性質の悪い夢か何かを見ていたような顔で、
「兄さん、本気か?」
「本気だとも」
「……分かった。うん、そうか」
どうやらユーマは何かを納得したらしい。
そこでローズマリーが、
「ミントさんのおかげです」
「そうなの? でもユーマとミナトが仲直り出来たならそれで……」
「そうですね、ミントさんもずっと一緒にいて下さいね?」
そこか含みのあるように言うローズマリー。
私は頭がくらくらするのを覚えながらも、やることはやったので、
「それじゃあ、私みんなの所に先に戻るから。さらばだ!」
そう告げて私は走る。
これ以上ローズマリーの傍にはいない方が良い気がしたし、ミント0号と入れ替わる約束があるからだ。
とりあえずカップリングは成功ねと私は思い、そこでようやく私は気づいた。
「片っ端からくっつけて行ったら、攻略対象の中でミントの相手になるのがミナトしかいないじゃん。……諦めて他探そう」
そう、私は衝撃の事実に気付きながらとぼとぼと歩き、ミント0号と隠れるように連絡をとって、一足先に帰宅したのだった。




