疑問を数十メートル先に放り投げて
目の前にある事から一つずつ片付けて行く事にした私は、ミント0号の上がり症を、それこそ即席ラーメンのごとく治さなければならないという使命に、燃えていた。
「さて、それではミント0号、貴方の上がり症を治すは!」
「はい! でもどうやって?」
「うーん、私には結構、すぐに普通に話しているのにね。何で人見知りなのかしら」
「だって同じ姿じゃないですか。性格はまるで違いますけれど」
そこで私は小さく呻いて、
「周りにいる全員が、カボチャだと思い込むように努力するわけにはいかないの?」
「……思えたらこんな風にはなっていません」
「でもとりあえず、かぼちゃだって思いこむようにしましょう。だって……カボチャに向かって、『貴方なんかが、私に勝てる訳ないのだからね』って高笑いしていたらそれはそれで恥ずかしいと思うから、結果的に出来なくなるだろうし」
「……難しいわ」
黙ってしまう、ミント0号に、私はどうしようかなと思って、サトルに、
「カボチャのかぶり物ってないかしら。ほら、ハロウィンにかぶっていそうな着ぐるみのようなもの、サトルは持っていないかしら」
「あります」
そう答えてサトルは何処からともなくかぶり物を取り出しました。
この大きさのものが何処に収納されていたのかは謎だが、これは必要なのでありがとうと私は疑問を数十メートル先に放り投げて、それをかぶり、
「さあ、私相手にかかってきなさい! とう!」
そこで私は軽く痛くない程度に手を振りおろした。
それをミント0号は防ぎ、跳ね飛ばす。
手を抜いているとはいえ、とっさに良く防御できるものだ。
「ふふ、なかなかやるわね」
「舐めないで頂ける? 貴方なんかが、私に勝てる訳ないのだからね!」
気付けば悪役令嬢モードに変化している彼女。
どうやらこれをかぶると、私とは認識するのが難しくなるようだ。
なので試しに私は、
「そんな中二台詞を言っていて恥ずかしいと思わない? しかも真面目にこんなカボチャ人間に」
と言ってみた。
まずは現状認識で、こんなカボチャのような変な存在に真面目に語っている自分を認識させ、こんなの嫌だと思わせようと画策した。
そこでミント0号は顔を赤くして、
「何で今更私にそんな事を言うんですか! 恥ずかしくてそんなこと言えなくなっちゃうじゃないですか」
「それが狙いなのよ! 私がただこんなものをかぶっただけで、そんな妙な上がり症が出てしまうのだから、これが恥ずかしい事だと思えば出来なくなって普通に話せるでしょう」
「それは……そうですけれど」
「そして周りはカボチャだと思えば、他の人にそんな事を言えなくなるんじゃないかしら」
「……それは……分かりません」
「でも悪役、止めたいんでしょう? 他の人と仲良くなりたいなら、そうしてみるのも手かもしれないわよ?」
「……頑張ります」
そんな調子で、今度は別の着ぐるみをサトルに出してもらい、ミント0号と私は闘った。
攻防は長きにわたって続き、そのたびにミント0号が呟く中二台詞に私は舌を巻く。
だが私も負けてはおらず、更にそれを指摘しミント0号の羞恥心を煽る。やがて、
「も、もう、らめぇ~」
「ふ、結局は責め立てる私に勝てなかったようね」
顔を上気させて息も絶え絶えなミント0号に私は得家げに答えた。
幾つも連続してやってみて、段々と慣れてきた感があるのでこの調子でやっていけばミント0号もだいぶ慣れては来たようだ。
「この調子で頑張りましょう?」
「……はーい」
嫌いな野菜を食べないといけないというような子供の顔で、ミント0号は呻いたのだった。




