二つ名がどれだけあるのか
そんなこんなで私は、ユーマ君という主人公キャラの幼馴染を協力者にしたわけだが……。
「それで、まずは次にローズマリーに接触してくる相手だけれど……」
「……やっぱりさっきから、ミントは自分の手を見てブツブツ言っているように見える」
「ここに攻略本があるの! ほら、試しに触ってみなさいよ!」
痛い子でも見るような眼差しでユーマは私を見たが、私にはある計算があった。
そして彼は、私の攻略本の方に手を伸ばす。
「やっぱり何もないじゃないか。ミントの手に触るし」
嘆息しながら私の手の平にに指を立てるユーマだが、それこそ私が知りたい事実だった。
彼にはその攻略本は見えていないが、私には、その本を突き破る、否、まるで霧かドライアイスの煙といった視覚的には見えるけれど、密度が薄く手を自在に入れられる存在と同じようにこの本は見えているのだ。
つまり、この攻略本は私にしか見ることは出来ず、私にしか触れることは出来ない。
それが意味するのは、どんな場所でも、どんな人物の前でもその攻略本を開いて内容を確認し、どの受け答えが正しいかを見極めることが出来るのだ。
今見ている範囲では選択肢を選ぶのに時間制限はないようだし、多少周りから中二病を患っているかのような視線を感じるかもしれないが、些細な問題である。
そんな私をユーマが見て、
「どこかで頭を打ったんじゃないのか? さっきの発言もそうだし、今のそのそれも……“暗黒物質ミント”が取る行動とは思えない」
「……さっきから思っていたけれど、貴方、勝手に新しいアダ名を作っているでしょう」
「え? 自分の二つ名がどれだけあるのか知らないのか?」
知らないわよ、攻略本にもないし、と私は言い返したい気持ちになりつつ、そこで私は別の事に気づいた。
今はおそらく初日の朝だと思う。
途中の教室で、外からちらりと黒板を確認すると6/1といった日付が見えたので間違いない。
私が正しければ、確か、朝はおおまかな主人公を取り巻く教室内などの状況と周りのキャラの説明で終わったはず。
そして次に状況が変化したのはお昼休みだ。
「ユーマ、今日は貴方も含めてお近づきの印に、昼食を奢ってあげるわ。購買で私がパンと飲み物を買ってきてあげる。屋上で食べましょう?」
「……どうして食堂じゃ駄目なんだ?」
「ここの学校の生徒会長、ミナト・橘との、ローズマリーが恋に繋がる接触があるの」
断言する私に、ユーマが口をひきつらせて、
「何でいきなり起こること前提で話が進んでいるんだよ。そんなのその時になってみないと分からないじゃないか」
「……脳筋ぽいキャラのくせに意外に鋭いわね。でもこれは予め決められたこと。でもそうね……一度痛い目に遭わないと、貴方は理解しなさそうよね」
「な、なんだよ」
ふふっと私が黒い笑みを浮かべてユーマを見ると、彼は後ずさる。
けれどこんな彼に、私だって妙なアダ名を散々言われた恨みもあるわけで……しかも私自身記憶に無い悪行でこういった態度を取られているわけである。
そう思うと、むかっときた。
そして攻略本を私は確認して、
「じゃあ、私が言っていることが本当かどうか、試してみる?」
そう、更に私は黒い笑みを深くしてユーマを怖がらせたのだった。