細胞分裂
石のように固まったミント2号に私はどうしようかなと考えつつ、そこでミント2号が不気味な声を上げて笑い出し、
「勘違いしないで下さる? この私があんな小物の下僕を相手にするとでも!」
「いや、もうそのキャラはいいから」
そう私が告げるとミント2号はその瞬間ふにゃっと表情を崩して泣き出しそうになりながら私に、
「どうしようどうしようどうしよう! 私サトルがいないと生きていけない!」
「……ものすごく依存をしているわね」
「うう……だって、好きだし」
「人間失恋する時もあるわよ。そもそもお嬢様で悪役だから、男をはべらせたただれた生活をしたいと思わないの?」
そう問いかけた私に、ミント2号がきょとんとして、
「いえ、特には。ああ、今はやりの逆ハーレムですか? あれ、読む分には構わないし面白いのですが、実際に現実にそうなりたいとは思わないんです」
「一見まともそうな答えだけれど、理由だけ聞いておくわね」
「だって男の人……怖いじゃないですか」
やっぱりそっちの理由かと思いながら、しばし考える。
このミント2号がもしもサトルとくっつけばローズマリーと接触しない。
そして今後の、私が元の世界に戻った後のミントも円滑な人生を歩めて、かつここで私はこのミント2号という協力者を得られる。
その場合、もっとも障害になりそうなのが、ミント2号のこの性格だ。
「よし、それで行こう」
「な、何がですか?」
「貴方のその上がり症をまず克服、正確には私が相手をしてまず克服をしましょう」
「で、でも……」
「鏡に話しているようなものだから問題ないでしょう? そして、その次の段階で貴方には……サトルに告白してもらうわ」
そう告げたと同時に真っ蒼な顔をしてミント2号が顔を机にうつ伏した。
よほど大きなハードルだったらしいのだが、
「寝取られ」
「私、頑張ります!」
こうして私は、ミント2号の協力を手に入れたのだった。
ここまでもってくればそろそろ聞いていいだろうと私は思って、
「それで何で私を監視していたの?」
「えっと、初めから話すと長くなるのですが……数日前、私は酷いめまいに襲われました。違う記憶が大量に流れてくるような、そんな気持ち悪さがあって」
「私にはその時の記憶がないわ」
「そうなのですか?」
「ええ、あと、ローズマリーの起こした惨劇の日も知らないし」
「……通りでローズマリーを呼んで自宅でクッキーを焼くという自殺行為をしたわけですね。あまりにも危険過ぎて、あの惨劇の日には心を鬼にしてあの時も捨てたというのに……記憶がなかったのですか。私と別れた時に記憶がだいぶ抜け落ちているみたいですね」
「そうなのかしら。でも今の話だと初めは一人のミントだったような」
「はい、体調が悪くてふらふらしている時に頭をぶつけて、その時貴方がぽこっと私の中から分裂して」
「……細胞分裂」
「ですね、それでもう一人の貴方が生まれた時に私は……機会だと思いました。私がもう少し変われる機会。そして貴方の発言から、この世界の人間じゃないんじゃないかという好奇心も湧いて、ずっと観察していました」
そう恥ずかしそうに言う彼女だが、その話から、
「貴方もしかして、漫画とか小説とか好きなタイプ?」
「女オタクという物です。ただまだ、男同士のごにょごにょには手を出していませんが、ネットの友人にはそういう人もいますね」
「そうなの」
「ええ、この前はボーイズラブの小説を書きたいのに、読んでいる時には気にならなかったのに書いていると、こいつら男同士でどうやって増えているんだろう、細胞分裂か? とか、どんなに男だらけでも男って女の話をしているよねって苦悩していました」
「そ、そうなの」
「なので、男でも子供が産めれば問題ないよねって乗りきっていました」
「……いいの?」
「本人が納得していればそれでいいのでしょう。そんなものです。創作はファンタジーなのです」
意外にもミント2号は懐が深いらしい。
それから、私はこのミント2号に更に聞きたい事を問いかけたのだった。




