これって出まかせなんだよね
とりあえず作戦を変更して呼び出したユーマ君は警戒していた。
それはそうだろう、好きな少女を苛めていた女がいきなり仲よくしましょうと言ってきたなど、それも悪役ヒロインというか、“暗黒女帝ミント”などとあだ名される私だとしたなら当然である。
そんなわけで呼び出した幼馴染のユーマ君。
そういえばよくこのキャラの性格とか読んでいなかったなと思いながら、私は鞄から攻略本を取り出した。
現状で一番手っ取り早いのは、この本の存在を明らかにして彼に信じてもらう……予定だったのだが。
「? ミント、何をやっているんだ?」
「だからこの本のこのページに貴方のプロフィールが……」
「……そこにはミントの手しかないじゃないか」
この素敵な攻略本は、私にしか見えないような代物だったらしい。
つまり現在私は目の前のユーマ君にとって、幻覚か何かを見ているように見えるわけである。
そこはかとなく可哀想な人を見るような目でユーマが私を見て、
「ミント、その“暗黒大魔神ミント”と呼ばれるお前が友達になろうとローズマリーを誘うのがおかしいと思っていたが、もしかして実家が傾いたか何かしたのか?」
新たなあだ名を聞きつつ、ユーマにそう言われて私は思い出す。
私のキャラは有名な企業の社長令嬢だった気がする。
つまり彼は社長令嬢でなくなりそうだから、庶民にすり寄ってきていると思っているらしい。
「……浅はかな考えね」
「なんだと!」
「どう考えても現状で彼女についた所で、私にメリットはないわ。もっと良いくっつく相手がいるでしょう?」
「それは……確かに」
「それにこの美貌を持ってすれば玉の輿なんて容易よ。そんな私がたかだか実家が没落した程度で彼女にくっついてどんなメリットがあるというの?」
言い放ちつつ、うん、これって出まかせなんだよねー、だってローズマリーと一緒にいるのが私が人生イージーモードで平穏に暮らしていける一番の方法だし、と心の中で思う。
そして黙ってしまうユーマに私はさらに彼の信頼を得るために、
「私は彼女の才能に気付いてしまったから、今のうちに彼女と仲良くなっておきたいと思っているの」
「才能……ローズマリーに?」
「ええ、人の信頼を得る才能。現に貴方以外の何人もの男性がこれからあのローズマリーを狙う事になるわ」
「なんだと……いや、別に俺はローズマリーを好きというわけでは……」
「あら、お手伝いをしてあげようと思っていたのに、残念ね。じゃあ他に行くわ」
あっさりと私はユーマを見捨てるふりをした。
それにユーマは引っかかる。
「ま、待て、ミントを敵に回すなんてシャレにならない! ……本当に俺とローズマリーの仲を取り持ってくれるのか?」
「それは貴方次第よ」
そう告げて不敵に私は笑って見せる。
そこでユーマが私を見て、
「やっぱりこのミントは偽物なのでは? でないと、このミントが誰かのために動くなんて……」
「仕方がないわね、他を当たりましょう」
「ま、待ってくれ! だがお前の事だ、何か企みがあるんじゃないのか?」
探るように私に聞いてくる彼に、私はさらに笑みを深くして、
「あら、企み? あったとしても愛する彼女のためにそのたくらみを阻止してやろうという気概は貴方にはないのかしら」
「! 良いだろう、お前の誘いに乗ってやる!」
挑むように睨み付けている彼に、私はふふっと余裕めかした笑みを浮かべる。
もっとも私は心の中で、よーし、これでくっつける相手を上手く誘導できるようになったわー、これでサクサク進められるといいわねーと、この時、気楽に思っていたのだった。