一番確実で手っ取り早い
そして、本屋に戻ってきた私は、レイから鞄を受け取って、
「いったい何なんだ」
「もう一人の私を観察してきたのよ」
不良なレイ君が変な顔をした。
どうやら私の頭がおかしくなったと思われたようだ。
いや、気持ちは分からなくもないけれど、もう少し隠せば良いのにと思う。
それが処世術だ、キリッ!
「鞄ありがとうね。持っていくわけにはいかなかったから」
「……何でだ?」
問いかけてきたレイに、私はにやぁと笑う。
レイが、うわっと若干引いているが、私は一応美少女なんだからそこまで怖い顔にならないと思うのだ。
なのにいちいちユーマといいレイといい、私が暗黒微笑で怯えるのだ。
そこでサトルが見かねたように、
「ミント様、そのような黒い笑みを浮かべられますと、今度は一体何に巻き込まれるんだろうと不安になります」
「なるほど、確かに怖いわね。でもいつもいつも巻き込むわけではないでしょう?」
「……巻きこまれる場合がある時点で恐ろしいのでしょう」
「分かったわ、今度から顔には出さないように気をつけるわね」
「……」
そういう意味で進言したんじゃないというように、サトルは黙った。
残念ながら、良い人なだけでいるつもりではないので、少しぐらいは恐れられた方が良いのかもしれないと、適当にいい訳をして、そこで先ほどのレイ君がようやく怯えから立ち直ったように、
「それで、どうして俺に鞄を預けて行ったんだ?」
「そうね、じゃあ試しにこう考えてみたらどうかしら。もしも貴方が会いたくない人物Aがいたとするでしょう? その場合、貴方ならどうする?」
「それは……気を付けて、周りを確認しながら移動する、か?」
「方法としては良いかもしれないわね。でもそんないつか遭遇してしまうものよりも、もっと確実にその人物の居場所を把握しておきたい。なら、貴方はどうする?」
「分からない」
「GPS機能を使えば良いの。ついでに盗聴器もあれば最高ね。だって話している内容から次の移動場所を特定できる」
レイが黙った。
理屈上は、それが一番確実で手っ取り早いのだ。
そしてそれを仕掛けやすい物は、鞄の中にあるものだろう。
更に付け加えるならば、本来接触したくなければ隠れているのが一番なのだ。
けれどサトルの話ではもう一人の私は学校にも行っているらしい。
そして今日は買い物だ。
同じ屋敷内でミントが二人いる事に疑問を持たない辺りがゲームっぽいが、彼女は私の近くにいる。
私の近くにいて……私を観察している。
けれどいつもいつもそういった情報に夢中というわけではないだろうから、時折、私の居場所を確認するくらいだろう。
会話もいつも聞いているとは思えない。
彼女一人で行動しているのなら。
そしてミントには友人がいない。
つまりボッチであり、サトルくらいしか相手にする事は出来ない。
かといって私がもう一人いると知って探らせるような事はしていない。
私を倒したいとか、様子を探りたいならば自分の存在をサトルに口止めするはずだ。
それをしなかった。
「……彼女にも何か考えがあるみたいね。まあ、私もしばらく様子見かな? 特に私に危害を加えてくるようなホラー展開は無いと思うから、気長に待つわ」
「どうしてそういった結論に達したのか俺には分からないんだが。だって行動が監視されているって……」
そう言ってくるレイに、私は肩をすくめて、
「だってそれはまだ推測の域を出ていないもの。実際に見つけていないし」
「……推論だけで陰謀説作らないでくれ」
「あら、陰謀説はお嫌い?」
「大好きだよ! じゃあ、そろそろ新作のラノベを買いに行ってくるから」
「そう、また明日学校で」
そう手を振る私。次にサトルに振り返り、
「付き合はせて悪かったわ」
「いえ、色々分かりましたから」
「そう? またよろしくね」
「……はい」
そう言って消えたサトルくん。
そして私は次の目的地へと向かったのだった。




