これは世に送り出してはいけない代物
カリッと揚がった出来たてのポテトチップス。
今は新じゃがの時期なのでとても美味しいと思いつつ、当たり障りのない雑談をして交友を深めた私達。
「何だか手作りのポテトチップスはつい手が伸びちゃうのよね」
私がぼやきながらカリッとまたポテトチップスを口に入れる。
軽く塩を振っただけなのだが、芋の味がとても濃厚だ。
それこそ塩がなくてもそのままで美味しい。
そこで珍しくカモミールが同意する。
「確かに美味しいわね」
「でしょう? 手間はかかるけれど美味しいでしょう?」
「そうね、でも太りそう」
「……そうね」
そう会話した所で、私とカモミールとローズマリーはそれを食べるのを止める。
残りは全て男性陣に美味しく頂いてもらいました。まる。
そして、ようやく本命のローズマリーのクッキータイムだ。
まず生地を伸ばして型を抜く。
それを鉄板の上にクッキングシートを乗せて上に並べて行く。
その間にオーブンはあらかじめ温めておいて……。
「ローズマリーと同じ鉄板に並べて、私とローズマリーのどちらのクッキーか分からないようにして焼く?」
「「「やめろおおおおお」」」
「みんな酷い」
悲鳴を上げるカモミールとユーマ、ミナト。
それにローズマリーはむすっとしたような顔をしてユーマを慌てさせていた。
結局それぞれの鉄板にクッキーを並べて焼き、美味しそうな色に焼けた頃。
ぽつりとユーマが、
「……匂いだけは普通なんだよな」
「そうなのよね」
「そうだな」
カモミールとユーマ、ミナトが口ぐちに言って、ローズマリーの機嫌を損ねる。
そして出来上がったクッキーを、網の上に乗せて冷やす。
「もう冷えたかしら、じゃあ、私はローズマリーのものをいただくわね」
「はい! ぜひ食べて下さい、ミントさん」
微笑むローズマリーとは対照的に、カモミールとユーマ、ミナトはごくりと唾を飲み込み真剣な表情で私を見守っている。
まったく、仰々しいわねと私は嘆息しながら口を開き、ローズマリーのクッキーに舌先が触れる。
目が覚めると、ローズマリーも含めた四人が心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
状況が分からず私は、私を抱きとめているミナトに、
「私、ローズマリーのクッキーを食べようとしたら、気を失っていたみたいなんだけれど」
そこで安堵したようなミナトが私に微笑んで、それに一瞬私はどきりとしてしまう。
何これと私が焦っているとそこでミナトが、
「……その通りだ。端を舐める程度の状態で、ミントは気を失った。多分メシマズ過ぎたんだろう」
「まさかー、普通の作り方をしてそんなわけないわよ」
「……自覚しないと命にかかわるぞ」
「一つ失敗しただけじゃない。他は大丈夫かも」
「おい、馬鹿、止めろ! 手を伸ばすな!」
ミナトの慌てる声が聞こえたが、再び私はローズマリーのクッキーを口にしようとして……気付けば先ほどのような状態に再びなっていた。
どうやら脳が味を覚えるのを拒否しているようだ。
これは世に送り出してはいけない代物なのかもしれない。
そうようやく諦めた私はローズマリーに、
「ローズマリー」
「何でしょうか」
不安そうな彼女に私はふっと微笑んでユーマを指さし、
「貴方、ユーマに養ってもらいなさい」
「「ええ!」」
二人して声を上げて顔を赤くするが、私はもう、この二人がくっつくべきだと悟った。
間違ってもあんな大量破壊兵器のような食べ物を、この世に送り出さないためにも全力でこの二人をくっつけると私は心に誓ったのだった。




