ターゲット、ロックオン!
その教室内で見つけたのは、淡い水色の髪をした、紫色の瞳の大人しそうな少女である。
彼女がこの乙女ゲームの主人公、ローズマリー・山田だ。
このゲームのヒロインは全てハーブの名前が使われているのでそのような名前である。
ちなみに私の名前は、ミント・鈴木だ。
さてさて、そんな私は彼女を呼んでもらい、話しかけようとした。
さすがに他のクラスに堂々と入るのは気が引けて、クラスから出て行こうとしたモブ……主人公のクラスメイトという役割の男子に声をかけるのだが、
「ひいっ!」
まるで暗い夜道でお化けか何かにでも出くわしたかのような表情で、悲鳴を上げられた。
どうしてそんなに恐ろしがられているか。
思い当たる情報といえば、確か、先ほど攻略本にまたの名を“暗黒女帝ミント”と書かれていたとおりに気に入らない人間は退学に追いやるからなのかもしれない。
しかも、ミントはその美貌で学園内の男を虜にもしているという。
でも虜にしているなら何であのモブは私を見て怯えたような声を上げたのだろう。
実はこの少年、モブではないのだろうか。
「あの、ミント様がこの教室に何の御用で」
「ローズマリーさんを呼んで下さる?」
「は、はいっ!」
私がにこりと微笑むと、モブな彼は頬を赤く染めて目的の人物に向かう。
ふっ、落ちたなと私は思う。
このミント・鈴木はこの世界に並ぶ者のいない美少女という設定だ。
微笑むだけで次々と男が落ちるという、周りがチョロい男キャラに変化するのだ。
この設定は、主人公を平凡にしたいので、対極の存在として美少女に悪役ヒロインな私が作られたと書かれていた。
もっともよく平凡と称してキャラクター絵を見ると何処からどう見ても美少女じゃん! というのは良くあるように、主人公の平凡キャラは可愛い。
とはいえ、美少女と称されるだけあって、この悪役キャラのグラフィックに私は満足している。
この状態で色々おしゃれも出来れば良いな、スタイルも良いし楽しそうと思っていた所で、先ほどの彼がローズマリーを連れてくる。
さて、まずはどうやって彼女に取り入るかだけれど……なんだか怯えているような気がする。
「あ、あの、ミント様が一体どんな御用なのでしょうか」
小動物がプルプルと震えているような彼女を見つつ、私は何かやったかなーと思いつつ後で確認しておこうと思う。
まだ私が進めた範囲でのゲームでは、このキャラは悪役美少女だというくらいで全貌は明らかではないのだ。
なのでまずは彼女の警戒心を解くために、
「こんにちは。実は今日、私は貴方にお願いがあってきましたの」
「お、お願いって、また教室の掃除を代わって一人でやれとか……」
「いえ、違うわ。今日は仲直りをして、ローズマリーさんに友達になって欲しくて来ましたの」
結構色々やっていたらしい設定のようなので、仲直りと私は言っておく。
それにローズマリーが更に不安そうに私を見る。
……このキャラ本当に何をやっていたんだろう、と私が思っていると、
「ミント、またお前か! ローズマリーをいじめに来たのか!」
この声優さんの声は……じゃなくて、ローズマリーの幼馴染君の声だ。
明るい茶色の髪に青い瞳の少年で、スポーツ万能な明るい彼はユーマ・伊吹である。
そこで私は閃いた。
将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、このローズマリーが信頼している幼馴染の彼から手を打っていくのも良いかもしれない。
だから私はユーマに男を落とす頬笑みを浮かべながら、
「そうね、少しユーマ君と二人っきりで先にお話しさせていただいてもよろしいかしら」
そう告げたのだった。