不良君の、ささやかな秘密(はーと)
押し黙ってしまう不良君だがそこで、
「……俺は、不良だ」
「あら、隠さなくても良いのよ? 私、貴方の一人称が僕なのは知っているから」
「だからさっきから“俺”だって……」
「だから全部知っているんだって。いい加減諦めれば良いのに」
「諦められるか!」
「でも、貴方のプロフィールは(事前に攻略本で)全てお見通し。そう、貴方の恥ずかしい秘密はすべて私の手の中なのよ?」
全く物わかりが悪いわねとそう告げると彼は警戒したように、
「何で俺なんかにミント様は注目しているのですか?」
ここで、貴方もローズマリーの攻略対象なんです、だから攻略本を見て知っていましたと本当の事を正直に言っても良いのだが……間違いなく彼は怒るだろう。
嘘も大概にしろと。
だって私が彼の立場なら怒ると思うし。
なので、そこそこ説得力があって、ローズマリーと関係のない当たり障りのない理由といえば、
「暇だったから、試しに適当に調べてみたら面白い話が分かって、それでつい調べてしまったわ」
「……それだけで調べようとするとは思えないんだが。それに理由も嘘臭い」
「暇つぶし以外に理由は無いから私だって黙っていたし、貴方に何も言わなかったでしょう?」
そう微笑みながら彼に私は、息をふうっとはいてから、
「貴方、実はオタクよね」
「な、何でそんな根暗な……」
「大丈夫、明るいオタクもいるから私に偏見は無いわ。そして、オタクな貴方はある日自分の特殊な嗜好に気付いてしまった。そう、女性の足が大好きという、ね」
「な、何を言って」
「そして女性の白い足で踏んで欲しいという願望を貴方は持っている。でも痛いのは嫌だからマゾではない」
「い、言うな」
「だから、またある日気づいてしまった。だったら喧嘩しても大丈夫そうな不良になれば、多少痛い思いはするけれど踏んでもらえるのでは、と」
「ち、違う」
「しかも不良っぽく明るくなれば彼女の一人や二人は出来るかもと思っていたりしていたのよね。そして髪を染めてピアスをして、それっぽく形から入った貴方は……理想と現実の差を思い知る」
「や、やめろ」
「喧嘩を吹っ掛けてくるのは、“男”しかいないという事実に気付かされてしまった。けれど、もともとオタク狩りに備えて体を鍛えていた貴方には、彼らは敵ではなかった。そして気付けば一匹オオカミの不良の頂点に……そして怖がられて女子ともお話は出来ずに、彼女は未だにいない、と」
「う、嘘だ」
「そしてオタクな自分にはあらがえず、不良な見た目を隠すために、時々黒い髪のかつらと眼鏡をかけて、メイド喫茶にも行っているのよね?」
「やめろおおおおお、なんだ、目的はなんだ!」
悲鳴を上げた彼に私は肩をすくめて、
「ただ調べただけだって言ったでしょう? そもそも知らなければ平穏に過ごせたはずなのに、それなのにわざわざ私に聞きに来てしまうなんて……本当にいけない子」
「う、ぐ……」
「それで私に話したい事って何?」
大した内容じゃないんだろうなと思いつつ私が聞くと、
「……あの女は、あの生徒会長、お前の忍者と協力してお前の正体を探ろうとしている」
「それだけ?」
「それだけだ」
「……そう、問題ないわ、じゃあね」
やっぱり大したことは無かったわと、そこから去ろうとする私に彼が何かを言おうとするが……そこで私は気づいた。
見覚えのある人影が一つこちらに歩いてくる。
「はあ、とりあえず出来るだけあのミントとは接触しないように……ぎゃああああ」
何故かそこにモブモブ君(仮)が現れた。
そこで私はくるりと首を回し、にやぁと笑う。
「私に会いに来てくれたのね、嬉しいわ! 早速貴方が自分で言いだしたくなるまで、じっくりいじめてあげるわね!」
「な、何をする気なんですかぁああ」
「大丈夫よ、きっと気持ち良くなるわ」
「いやぁあああ」
そう叫んで逃走するモブモブ君(仮)を、私は満面の笑みを浮かべて追いかけて行ったのだった。