実に健全な学校生活
品行方正な学生な私が、授業をこんな風に抜け出すなんて……と思いつつ、私はなんちゃって不良のレイ君に誘われて校舎裏にきていた。
授業中なのだが、サボっている先約がそこにいる事もなく静かである。
実に健全な学校生活だわと思って私は立ち止まる。
「それで、この私のお話とは?」
「その前に、一つ、かの美少女で有名なミント様に聞いてもらいたいお願いがあるんだ」
「貴方を足で踏むのは嫌よ?」
まずは軽ーく先手を打ってみる。
するとその不良もどきな彼は小さくプルプルと震えながら、
「は、はは、何を言っているんだか。俺はただ……」
「足で蹴ったりするのも嫌だからね?」
「そんな! ……いやいや、何でそんな事をぼ……俺に言うのかわからないな」
そう言いながらも、目の前のレイ君は冷や汗がだらだらとこぼれている。
意外に打たれ弱いというか、チクチクとした圧力に弱いのか。
ああ、癖になりそうだわと私は思いながら、
「私、知っているのだけれど……そうね、まず貴方の情報からもらいましょうか」
「……ミント様が俺について何を御存じなのかを先にお話ししてもらえませんかね」
私に聞いてくる彼に、私は更にもったいぶるように、
「いいのかしら。人間知らない方が幸せな事ってあるのよ? レイ君?」
「こ、ここまでそこはかとなく匂わされたら気になるだろう!」
「自分を自制できず欲求のままに生きるのは、あまり良くない事だと思うの」
「く、もういい! この情報はあのカモミールという女に告げ口だ!」
そうこらえ性のない彼は、そのまま肯定へと向かおうとするが、私はそこで一言。
「貴方、自分の事、普段は“僕”と言っているでしょう」
「……俺は自分の事を俺としか言っていない」
僅かな間があったが、そう返してくる彼。
そんな風に隠しても、私には全部分かっているのよねと思いながら、
「そんなに私が知っている貴方についての情報を知りたいの? 聞かない方が良いんじゃない?」
「話す気がないなら先にあの……」
「貴方が先に話しなさい。でないと、貴方自身が話す気にならなくなってしまうかもしれませんもの」
そうくすくすと笑ってみる私。
悪役というか悪女なミント様が、秘密を知りながらももったいぶって話そうとしないという……しかも笑っているとか、きっととても怖く彼には見えているんだろうなと思う。
実際に彼は、威嚇するように私を睨みつけて、
「……そうやって俺を煽っても無駄だからな“暗黒魔女ミント”。お前が約束を守るとは思わない」
「あらあら、酷い言い草ですわ。私、とても傷ついてしまいました」
「良く言う。笑ったままのくせに」
「あら、嘘泣きでもして欲しいの? 眼薬は今、私は持ち合わせていないのでするのは難しいわね」
「……話しにならないな。もう良い、やはりあのカモミールと……」
そう踵を返す彼に私は深々と嘆息する。
それに彼はむっとしたらしく振り返り、
「何だその、全く分かっていないわね、というような溜息は」
「実際にその通りなんですもの。本当にどうしようかしら、実は私、貴方の弱みとなるものを完全に握っているんですもの」
そう、私が持っている情報は彼にとって、致命的なはずの内容なのだ。
そこで彼が私に近づいてきて、
「いい加減言えよ! 俺はここ一体で一番喧嘩の強い不良なんだぞ!」
「知っているわ。でも本当は……貴方、不良じゃないんでしょう?」
そう囁く私に、レイ君は顔を青ざめさせたのだった。




