からかって煽るので忙しい
そこに立っていたのは、チャラい男だった。
明るい茶髪にピアスをした男で、きている体操服も同じなのに妙に着崩しているように見える。
もしかしたなら体格に対して、体操着が大きいのかもしれない。
いつかもっと背が伸びるのだと思いながら、必死で牛乳を飲んだりカルシウムをとったり、時にダンベルを持って運動したっりといった涙ぐましい努力を重ねて、大きな体操着を着ている不良もどき……。
そう考えると私は少し萌えてしまった。
そこで彼は怪訝な顔で、
「何がおかしいんだ」
「いえ、着崩していらっしゃるから……それよりも何かご用ですか?」
本来は接触してくるはずのない彼が、この場に現れて私に何かを言いたいらしい。
彼の目的は何か。
笑顔を装いながら警戒を強める私に彼は笑みを深くして、
「場所を変えないか? 少し耳寄りな話があるんだ」
「そう……こんな授業中に美少女な私を呼びだすというなら、それだけのお話なんでしょうね?」
「別にとって食おうというわけではないんだ」
「ええ、でないと貴方……喜んでしまいますものね?」
にこっと微笑みながら私は、最後の方に一言付け加える。
それにチャラ男なレイ君はそこはかとなく顔色を青くしながら、
「まさ……いや、そんなはずは……」
「隠した恥ずかしい本は、お母様にばれてしまうもの……」
「全く関係のない別な怖い話をするな! だが、俺はある秘密を知っているんだ」
「そう、それで?」
「だから俺と話をしないか?」
そう笑う彼だが、別に彼と取引しても、私には攻略本があるので大した問題ではない。
だから彼の話を聞く必要などなく、なので、
「興味は無いわ。私は今、ユーマをからかって煽るので忙しいの」
「……俺、からかわれて煽られていたのか」
ユーマが今更気付いたらしく、うな垂れていた。
正直煽るだけ煽って、そのまま一気に告白まで持ち込んでしまえばこっちのものだという計算が私にはあるのだが、それを本人の前で言うわけにはいかない。
そんなユーマにヒュウガ君が、大丈夫です、僕も応援していますと言っている。
本当に良い子で可愛いし、もしこの世界に残るんだったらヒュウガ君を彼氏候補にしよう、あんな腹黒生徒会長とかではなくと私は思った。
そこで目の前にいた不良な感じのレイ君が、
「いいのか? 俺の話を聞かなくて。後で後悔するぞ」
「後悔したら聞きに行ってそれが関係があるか調べるから、その時教えてちょうだい」
一応彼自身もローズマリーとのフラグがまだ残っているので逆ハーレムにならないよう注意しないといけないのだ。
こんな私の涙ぐましい努力を誰も分かってくれないと、私は心の中で、悲しいわ―、本当に悲しいわ―、と二回呟き思考を切り替える。
彼とは極力接触しないようにしよう、そう私は思っていたのだが、
「へー、だったらその話、あそこにいるカモミールって女に聞いてやる」
そう、ローズマリーより先を走っているカモミールを指さすレイ君。
ここで彼女に彼が接触し、その関係でドミノ倒しのようにローズマリーとの接触。
面倒臭い。
実に面倒臭い。
だったらここで素直に彼の話を聞いて適当にあしらった方が、楽なのではないだろうか。
だから私は不敵な笑みを浮かべて、
「良いわよ、相手にしてあげようじゃない。レイ君?」
そう私は、彼に告げたのだった。




