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カモミールと愉快な仲間達・その1(主人公であるミント以外の視点)

 ミントとユーマが二人で食堂から出て行くのを見てから、ローズマリーが何か思う事があるように彼らの後ろ姿を見つめていた。

 だからカモミールは彼女に、


「ローズマリー、気になるのであれば追いかけて行って様子を見る?」

「え、ええ! いいよ、別に……いいの」

 

 遠慮してしまうローズマリーにカモミールは、やはりミントは警戒対象ねと呟く。

 そもそも、あのミントがローズマリーと友達になりたいなんておかしな話なのだ。

 あの高慢でその美貌と優れた頭脳、身体能力も相まって、熱狂的に憧れる者達がいるような小悪あの女。


 友達なんて概念があの女にはあるとは思えない。

 そして恋愛であれば恋人同士を引き裂くようなことばかり、遊び半分でするような女だ。

 本物の悪女というべき、恐ろしい女なのだ。 


 だが今のあの姿は、まるで別人のようだ。

 そもそもあのローズマリーの起こした惨劇の日を覚えていないなんて、まるで人が変わったとしか思えない。


「……そうかもしれない」

「どうしたの? カモミール」

「いえ……あら、ミナト先輩、どうしたのですか?」


 そこで現れた生徒会長のミナトにカモミールは問いかけた。

 そこでミナトは、


「……“先輩”か」

「? どうかなさいましたか?」

「いや、ミントは以前は先輩呼びだった気がしてね」

「……少しお話しませんか?」

「それはこちらも望むところだ」


 そこでカモミールはローズマリーに、先に教室に言っていてと話す。


「カモミールも、早めに来てね。でないと授業に遅れちゃう」


 ローズマリーに言われて、そうね、ありがとうと答えるカモミール。

 次は合同体育なので、体操着に着替えないといけないのだ。

 なので早く話し合おうと、カモミールはミナトと一緒に校舎裏へと向かったのだった。






 去っていくカモミールを見つめながら、ローズマリーは呟く。


「……私だけ仲間はずれの気がする。でもいい、ここは私にとって優しい世界だから」


 それでも気になってしまうローズマリー。

 でも勝手に追いかけて聞くのもいけない事のような気がして、この時はローズマリーは彼らを追いかける事はしなかったのだった。







 校舎裏でカモミールは、


「それで、話は……ミントが別人のようだという事?」

「ああ、そうだ。まるで別人じゃないか」

「私もそれが疑問なの。まさかあの悪女、悪役として存在しているミントが私達に近づいてくるなんて。しかもユーマと何やら画策しているみたいだし」

「……ユーマに何か酷い事をさせようとしているのか?」


 ミナトがやけにユーマを気にしているようだったのでカモミールは、

 

「現状ではローズマリーとの恋の応援をしているみたいです。でもミナト先輩も妙に、ミントが気になっているようですね」

「……そうだな。もともと私はあのミントに恋情を抱いているようだから。だから皮肉を言ってしまうのだが」

「……悪趣味ですわ」

「自分でもそう思う。だが、最近ミントの様子はおかしい。前は私を先輩付けで呼んでいたのに、今では腹黒生徒会長と……」


 そこでカモミールは、ミナトがやけに嬉しそうなのに気づいた。

 これはもしやと思いつつ、


「ミナト先輩は、まさかそれで距離が近づいたと思っていませんよね? むしろ今のおかしい状態が気になりますよね?」

「……ただ別人と言うにはあのような姿の人間が、何人もいるようには思えない」

「でしょうね。本当に、何なのだか」

「けれどあの今のおかしい性格も私は気に入っているんだ。由紀に似ていて」

「ええ、由紀によく似ていて……」


 そこまで二人は呟いてみて、カモミールが疑問を口にする。


「由紀って、誰でしたか?」

「由紀は……だれだったかな」

「先輩が言ったのでしょう? 私も何処かで聞いた事がある気がするのですが」


 そう呟くも、答えは出ない。

 なので話を戻すカモミール。


「それでミントが偽物というよりは、何かがあって性格が変わってしまったと考えた方が良いかしら」

「そうだな。するといずれは正気に戻り、また以前のような凶悪な性格になるか……だが完全に別人説は捨てられないから探るか」


 そこで呻いて黙る二人。

 出来れば今の性格のままの方が、世の中は平穏なのだ。

 人格が変わったにしろ、別人になったにしろ……けれど、それが何の目的によって行われるかは、重要だった。


「お互い少しずつ探って情報交換していくのはいかがです?」

「そうだな。それは必要かもしれない。あのミントなのだから」


 二人して約束を交わす。

 そんなカモミールとミナトの背後に、ふっと人影が現れる。

 それに気付いた二人が振り返りカモミールが、


「! サトル君? 確かあのミントの下僕の」

「……はい。だが最近主は俺にもお礼を言うようになってしまって」

「「あのミントが!」」


 カモミールとミナトの声がはもる。

 それを聞きながらサトルは頷いて、


「そうなのです。ですからお二人の話は興味深かったです。……俺もいつもお主についてばかりではいられないので、主の様子について情報を交換して頂けませんか」

「それは構わないけれど、貴方は主に忠実なのに、疑うの?」


 それはこちらの情報がミントに伝わるかもしれないと危惧してのことだが、


「俺もあの主では……異和感があるのです。そもそも別人だと貴方方に気づかれていると主に言ってしまえば、結果として主はミントとは別人でないように振る舞い、余計、別人かどうかが分からなくなります。その違いを見つけるためには俺が告げ口するのは逆効果でしょう」

「なるほど、確かに目的には反する……理にかなっているか。分かった、私は組んでもかまわない。カモミールは?」


 ミナトは彼に協力するといっており、どちらにせよ情報が集まるのならば人数が多い利点もあるかと、カモミールも協力すると答えたのだった。






 三人が分かれていなくなった頃、その傍の木の上で一人の人物があくびをする。

 鮮やかな髪の、耳にいくつもピアスを付けただらしなく制服を着崩した男だ。


「うーん、たまたま昼寝しちゃったけど、良い事聞いちゃったな~」


 そう、その男は楽しそうに笑い、背伸びをしたのだった。

 


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