傍観者な場合に限りご褒美
謎の人物、モブモブ君(仮)を取り逃がした私は、逃げた魚は大きいという言葉を思い出してさらに鬱になっていた。
そして、次に出会った時にはロープで縛りあげてしまおうと考えて、すぐにあの瞬間移動みたいな手を使われたら終わりだと気付いた。
敵か、味方か。
「それが確定するまで、下手な手出しは出来ないか」
あんな瞬間移動みたいな便利機能があるおかげで、また面倒な事になってるわねと私は思い、けれど、あまり使いたくないと彼が呟いていたのを思い出す。
にっと私は口角を上げて、
「そうね、だったらロープを常備しておくのは良さそうね」
準備しておいて、投げ縄をできるようにしておいて。
彼が現れたら即座にその縄で捕縛する……のも良いけれど。
そこで私は気づいた。
「サトルに頼めば終わりじゃないかしら」
「何がでしょうか、ミント様」
音もなく背後から現れる彼。
名前を呟いただけでも本当に来るんだなと思いながら、私は問いかける。
「さっきのモブモブ君(仮)を私は捕まえたいのだけれど」
「……モブモブ君(仮)とは誰でしょうか。構内の生徒は全員教師から用務員、出入り業者まで把握していますがそのような人間は存じませんが」
全員把握済みとか、本当に頼りになるな、サトル君♪と思いつつ、私はモブモブ君(仮)の名前を知らない事に気付いた。
後でローズマリー仁聞いておこうと思いつつ私は、別の事を彼に聞く。
「それで、ヒュウガ・如月の様子はどう?」
「相変わらず、保健室で休んで運動をしている人たちを見ていました」
「混ざりたい、みたいな事は言っていませんでした?」
「……言っておりました。そいて体操着も用意していました」
「なるほど……では私とローズマリーのクラスの合同体育の時間に、彼は来るわね」
そのヒュウガ・如月は私のクラスメイトなのだ。
なので私達のクラスのみんなと授業を受けにくる……と攻略本にはある。
けれど病弱さがたたり倒れてしまう彼を、悪役であるミント――つまり私が罵るらしい。
美少女の罵り、二次元で傍観者な場合に限りご褒美だという感覚は、多少は理解できる。
だが、現実的にというか、私自身がそれをしなければならない立場というと、正直、お断りしますレベルである。
いや、だって可哀想だし。
しかも病弱美少年で可愛い感じのキャラであの声優さんがががが……といった理由もあるにはあるのだが、それだけで彼とローズマリーとのフラグなのだ。
つまり、私に意地悪を言われたヒュウガ君がローズマリーに慰められてフラグが立ち、そしてちょくちょく保健室に行く事になるという……。
ぶっちゃけそんな風になったらユーマの出番が危うい。
それこそユーマ、先に帰っていて、私はヒュウガの様子を見てから帰るから、とか。
攻略本にも逆ハーエンドではなく、ヒュウガの場合は他のキャラとの接触が少なめになり、けれどヒュウガ自体の好感度は上げにくいので攻略本なしではきついらしい。
でもここに攻略本があるならそれで、ヒュウガとくっつけても良かったなと私は思う。
「でも、今更他のキャラに乗り換えるのもね?」
不誠実だし、それに何となくあのローズマリーとユーマの幼馴染で仲の良い様子が私は気に入っているのだ。
ふむ、今度はローズマリーをからかってみようかしらと思いつつ、様子を見てくれたサトルに、
「ありがとう、助かったわ」
「……いえ、ミント様のご命令とあらば」
そう彼が、何か思う所があるらしく少し黙って答えたのだった。




