モブモブ君(仮)
教科書を見ているように見せかけて、攻略本を端から端まで私は確認する。
やはり彼らの言う、“惨劇の日”については記載されていない。
「メシマズ、だけか……微妙に役に立たないわね。……私が直接調べるしかないか」
聞き込みを適当にすればいいのだが、私自身当事者だった……という事になっているので、聞き方には気をつけねばならない。
そこでたまたまめくったページを見て、私はにたりと笑みを浮かべた。
「そうね、“彼”がいたわね」
出来れば“彼”との接触もあまりしたくは無かった。
理由は、彼も攻略対象だからだ。
さっそく私は、授業の休み時間に椅子に座ったまま小さく呟く。
「サトル・小野、いるかしら」
「ここに」
何処からともなく天井から一人の男子生徒が現れる。
サトル・小野。こい青色の髪に金色の瞳の目鼻立ちの整った少年で、寡黙で忠義に尽くすタイプの、いわゆる、忍者の末裔らしい。
昔、気まぐれにミントが彼を助けて以来、ミントを主と仰ぎ忠実に命令に従い、時に汚れ役もさせられているという設定だったはずだ。
この健気っぷりは設定だけでも私にとって、とてもとても好みな何だよなと思いつつ……確か途中で主人であるミントに愛想を尽かして、ローズマリーの温かさに惹かれてしまう攻略対象キャラだと思いだした。
でも初めの方はミントに忠誠を誓うというか、仄かに主に恋心があるように見えるような描写もあって……それを考えると、寝とられ――NTRになるのだろうか。
ローズマリーから見ると、愛に忠実なラブロマンスに見えるが、ミント視点で見るとローズマリーは物凄い悪女っぽくなる。
そういうドロドロ展開はあまり好きじゃないのよねと思いながら、そうするつもりもない私は彼に問いかける。
「貴方に聞きたい事があるの。ローズマリーが引き起こした『惨劇の日』を知っているかしら」
その問いかけに、寡黙な男は更に寡黙になったようだった。
一分程度の沈黙後、サトルは重々しく口を開いた。
「地獄でした」
「えっと、もっと具体的に言ってもらえないかしら」
「地獄でした」
ゲーム内の、プログラムされたキャラのように同じ台詞しか、彼は言いやがりませんでした。
寡黙な彼だから仕方がないのかもしれないが、もう少し言いようがあるのではないかと私は思う。
仕方がないので、彼に別の事を頼む事にした。
「ヒュウガ・如月がどんな状態か、様子を見てきてもらえるかしら」
「彼、ですか? 彼が保健室以外でいるのは図書室かと」
「そう、知っているわ。時間が空いた時で良いから彼の様子を教えて欲しいの」
「……分かりました」
そう答えて去っていこうとする彼に私は、
「いつもありがとう」
微笑む私に、サトルは凍りついたようだがすぐに一礼して去っていく。
そして私は授業を再び受けて、お昼はローズマリー達と食べようかなと思って廊下に出て食堂に向かう。
そこで私は、以前ローズマリーの教室や食堂で出会った野生のモブに出会った。
「あら、モブモブ君、どうしたの?」
「モブモブって……いえ、どうしてその他である僕をミント様は気にかけているのかなって」
「貴方が怪しいから」
「……」
「……」
次の瞬間、そのモブモブ君(仮)は私から走って逃げだした。
なるほど、お前がそういうつもりならば、
「逃がすかぁあああああ」
私はそう叫んで、モブモブ君(仮)を追いかけて行ったのだった。




