そう、それは惨劇の日
校舎裏にやってきた私とカモミール、ミナト。
そこで深々とカモミールが溜息をついて、
「それで、どうしてあの子に近づくの?」
「優秀な人材とは今の内に仲よくしておきたいからよ」
「……それで、どうしてあの子にお菓子を作らせようと思ったの?」
「別に、お菓子なんて普通に作れば作れるものでしょう?」
首をかしげる私に、カモミールとミナトは息を飲んだ。
そしてお互い顔を見合わせて、こくりと頷き、
「ミント……貴方、疲れているのよ。あの惨劇をまた繰り返したいの? いえ、やっぱりお友達になりたいなんて言いだすからおかしいと思ったの。何か辛い事でもあったの?」
突然カモミールが優しげな微笑を浮かべながら、憐れむように私に言ってくる。
そのすぐ隣でミナトも何か憐憫を込めたような目で私を見ている。
何故に私はこんな風に心配されないといけないのか分からず、
「特に何も。元気にやっていますが何か?」
「……そう、そういえば貴方ローズマリーの作ったものは即座にゴミ箱に捨てていたわね。でもそんな貴方がいたからこそ、あの惨劇は大人し目なもので済んだのね」
「惨劇って……何かあったのですか?」
それにカモミールは黙ってしまう。
随分と凄惨な出来事が、私がローズマリーの作ったものを捨てた事によって幾らかは回避できたらしい。
今の話から、そんな恐ろしいものをローズマリーが作っているような気がするが、私が作るのを手伝うのだから変なものを混ぜる事は無いだろうと思うのだ。
そこでカモミールが恐る恐るといったように、
「全く記憶にないのね」
「何故念を押すのですか? 私が教えるなら大丈夫です。それにユーマも来ますし」
変なものが混入されないか、私以外にもユーマがローズマリーを見はればいい。
そう思って私は言ったのだが、そこで何か思う所があるようなミナトに、
「その、一つ聞いていいか?」
恐る恐るといった風に私に聞いてくる彼に頷くと、彼は意を決したかのように、
「ユーマに気があるのか?」
「え? ないわよ」
「……」
「ないない」
何をどう見てどう考えたらそうなるのか分からないが、彼にはそう見えたらしい。
なので即座に何を言っているんだこの人という風に、私は答えた。
そんな私を見て何処か安堵したような彼が、そこで意地悪く笑い、
「そうだな、あのユーマがこんな性悪に落とされるわけがないしな。私の勘違いか」
「あら、腹黒生徒会長様は、恋愛脳なんですの? もう少し現実的な方だと思っていましたが」
「……そのお菓子作り、私も参加してもかまわないか?」
「え? 嫌です」
だってローズマリーとミナトの間に接点が出来ちゃうし、と私は思うのだけれど。
ミナトがむっとしたように私を見た。
そこでカモミールが探るように私を見てから、
「なるほど、ミント、貴方はミナトに来て欲しくない企みがあるのね?」
それは好感度に関係するからですと私は心の中で思ってはみるが、そこでカモミールが笑う。
「それならば余計にミナトを連れて行かないといけないわね。貴方の潔白を証明するためにも、ミナトを呼んでもらえるかしら」
そう来たかと私は思いつつ、かといって勘違いしたカモミールにいつもいつもミナトを連れてこられてもローズマリーと接点が出来てしまう。
ならば今回は穏便に済ますために、彼を連れて行くのも手だろうと私は判断した。
「そうね、仕方がないわ。ミナト、貴方を明日私の家に招待するわ」
そうとしか私は答えられなかった。
そしてそこで話は終わり、各々の教室へと向かい、私は、
「惨劇の日、か」
そう呟き、攻略本に手を伸ばしたのだった。