カブ
「…分かったか。」
クワを肩に担いで、サニエルは目の前に居るフィリアを見た。
そこには真剣に土に向かってクワを振り、細々と周りにある岩や気をどかしながら少しずつ土を耕して行く彼女が居て、サニエルはふむと顎に手を持って行った。
…正直、こいつがどれだけ出来るかを見くびっていた。
都会育ちは何かと周りが便利であるから、人や物に依存し何も出来ないものだと思っていた。
初めの方こそやたらと根性の据わった女だと思っていたが、今この一時間で教えた事は全てマスターしてしまっていた。
畑仕事は地味な労働と思われがちだが、力は要るし無理な低姿勢でしゃがんだり立ったりを繰り返す事もあるので決して楽ではない。
サニエルは未だクワを振り回すフィリアの側によると、無心になっている彼女の腕を掴んで止めた。
「…………?」
それに我に返って不思議そうに首を傾げたフィリアは、サニエルを見上げてきょろきょろと当たりを見回した。
「どうかしたんですか?」
「取り敢えず流れは分かったか?」
「はい!」
無邪気に答えると、クワを抱えて頭を下げた。
「…取り敢えず今日の所はこれを植えろ。」
「…これは、何の種なんですかっ?」
掌に受けた小さな黒い粒を見て、フィリアはさっきとは比にならないくらいのキラキラした瞳をサニエルへ向けた。
それに眩しそうに目を細め、疲れた様にため息をつくと「それはカブだ」ともらした。
「春に育つ作物で、比較的早く育つ。
まあ…一週間くらいだな、葉が青くなってくれば収穫だ。」
「…わあ。」
カブの種を見つめながら感銘のため息を漏らすフィリアにまたため息をついてから、サニエルは種の蒔き方から水をやる頻度等を教え込んでいった。
「…ま、こんなもんか。
次は収穫の時期になったら来る。
このクワとハンマーとオノはエバさんからのお下がりだが…お前にやるって言ってた。」
「エバさんが?ありがとうございます!」
「これは家の外にある道具倉庫に入れとけ。」
言ってサニエルはクワとハンマー、オノをフィリアからひったくると道具倉庫に詰め込んで行った。
それを笑顔で見守っていたフィリアに「…今日は研修終了だ」と伝える。
「明日は出荷箱について教えてやる、んじゃまたな。」
「ありがとうございました!!」
「おう」
サニエルは後ろを向いて歩きだす。
しかしふと思い立って歩みを止め振り返ると、フィリアに聞こえるか聞こえないかの大きさで呟いた。
「…朝飯、食いに……行くか…?」
その問い掛けに、フィリアは目一杯の笑顔で頷いたのだった。
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「…ここは?」
「この街唯一のレストランだ」
言いながら、サニエルさんは扉に手を掛けた。
明るい色の扉を開け中に入ると、エプロンをかけた男の子がちらりと扉の方へと視線を向けた…のをサニエルさんの後ろから見ていた。
男の子が私達の方へと歩いて来ると、ようやく私はその人の全貌を見る事になった。
黒い髪と黒い瞳の男の子はサニエルさんへ視線を合わせると、首を傾げながら呟くように言った。
「……彼女?」
「ちげえよっ!!」
即刻突っ込むように返した男の子に、私もいえいえと首を振った。
「サニエルが女の子といるなんて…今日は雷が鳴るのかな。」
「…失礼にも程があるだろうが、テメェ。」
「そうかな?」
きょとんと首を傾げた男の子は、私に向かって「初めまして」と頭を下げる。
「わっ、私こそ初めまして、昨日こちらの北の牧場の管理を任されたフィリアと言います。
引っ越して来たばかりで右も左も分かってませんが、よろしくお願いします。」
「…………」
同じく頭を下げたフィリアをじっと見て、黒髪の男の子はうんうんと頷いた。
「彼女、いい子だね。」
「ボケ、なんでそれを俺に言う。」
「だって、いい感じにサニエルが飼い慣らされてるから面白くって。」
「飼い慣らされてるって…お前な……。」
がっくりと肩を落とすサニエルの隣でおろおろと二人を交互に見るフィリア。
そしてそれを見て面白そうだと心の中で呟いた彼は微笑んだ。
「僕はアヴェル。よろしくね、フィリア。」
「よろしくお願いします!」
笑顔で二人が握手をしているのを、サニエルが少し面白くなさそうに見ていた。
Ruru.echika.です!どうもどうもっ
ささ、色んな施設やお店などを出して行きたいと思いますよっ
そしてそして色んなキャラクターも出して行きたいと思います!!
ではでは次回をお楽しみに!