新たな土地
バスと電車、そして船を乗り次いで、約半日と言ったところか…。
周りにはもう、自然しか無い。
どこか牧歌的な風景が永遠に続いて行きそうなこの場所で、私はキャリーバックとリュックサックを背負ったまま黙々と歩いていた。
カラカラと軽い音がするのと、コツコツとショートブーツの少し重い音が木霊する。
…季節は過ごしやすい春。これだけ歩いているのも関わらず、時折凉風が頬を撫でるので汗はかかないでいられた。
…地図を見直して、そろそろ現れるはずの大きな看板を探す為周囲を見渡そうとする。
すると目の前に大きな看板が現れて来たので安堵し、少しだけ早足になってその場所へと急いだ。
「…あなたが、フィリアさんかしら?」
「はい!」
入口に立っていた人の良さそうな老婆に問い掛けられ、フィリアは笑顔で頷いた。
それに柔らかく笑みを返して、老婆は一歩フィリアに歩み寄った。
「フタバタウンの村長をしている、エバよ。
これからあなたの住む家へ案内するわね。」
「お願いします、エバさん!」
ぱああっと瞬時に笑顔になったフィオナに、エバは笑い掛けながら「こっちよ」と言って街に入って行った。
街の入り口から真っ直ぐ進むと、小さな噴水の周りを囲むように街の人達が集まっていた。
左右に小さな家があり、それぞれが看板を掲げていた。
噴水の周りに居た一人の女の子が、こちらに気付くと話しを中断させてエバの元へ駆け寄って来た。
「…エバさん、この人がこの間言っていた人っ?」
女の子は桜色のカーディガンをはためかせながら、くるりと私の方へ方向転換すると。
空いていた左手を取って大きく振った。
「私はメロウ!仕立て屋で服を作っているの!」
「これこれメロウちゃん、フィリアさんが驚いてしまっているよ。」
苦笑と共に窘めたエバは、ぞろぞろと集まって来た住人達にフィリアを紹介し始めた。
「彼女は今日から北の牧場を管理する事になったフィリアさんよ。
牧場の事に関してはサニエルから指導があると思うけれど、分からない事だらけだと思うから皆で支えてあげましょうね。」
「…皆さん、今日からよろしくお願いします!」
温かい拍手で迎えられ、私は心からの笑みで答えた。
そしてすっと伸びて来た細い腕に驚かされた。
ひょいと私の背中から消えたリュックサックと、キャリーケースの居る場所を見て目を白黒させる。
エバさんの隣で端正な顔を笑みの形にしている男の人は「俺はヒュディベルだ」と自己紹介した。
「家に向かうんだろう?途中の坂でひっくり返っちまうぞ。」
「…あ、ありがとうございます!」
「ちょっと待ってよヒュディベル、それなら俺も一個持つ。」
その隣から出て来た可愛らしい男の子が、ヒュディベルからリュックサックを奪い取る。
「おいおい…」
「俺だって恰好良いトコ見せたいからね!」
ヒュディベルとはまた違ったタイプの可愛らしい感じの男の子は、そう言ってヒュディベルとフィリアの間に入って来た。
「自己紹介はまた後で各々するんだろ?
先ずは荷物を置いて一休みしときな。」
ぱちんっと片目をつむったヒュディベルさんは、そのままエバさんの後に続いた。
私も促されるまま、リュックサックを持ってくれている男の子と共に先を急ぐ。
もちろん、苦笑している皆さんにお辞儀は忘れなかった。
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噴水の広場を通り抜けると、長い坂にさしかかる。
エバさんは右側を指差すと「こっちには海が広がっているの。もう少し暖かくなって来たら、海開きと魚釣り大会。そして花火大会などが開催されるのよ」と言って楽しそうに笑う。
「この街では、季節によって様々な祭りをやっているんだ。」
「僕達牧場主も、春夏秋冬腕によりをかけた作物を持って作物祭で品質を競ったり。
牛や鶏、羊、馬達のお祭りもあるよ!」
「街の住民全員と話せる機会だから、フィリアさんも是非参加して頂戴ね。」
「はい!もちろん!…あの、それで、僕達と今言っていましたが、もしかしてヒュディベルさん達も牧場を経営していらっしゃるんですか?」
「僕達は牧場だけじゃないよ!あ、そう言えば名乗って無かったね…僕はアルト!
ヒュディベルの育てている家畜達から副産物を取って、それを加工したりして店で販売しているよ。
他にも家畜達を売買したり、餌や便利な道具なんかも売ってる。」
アルトは得意げにそう言うと「今度店に来てくれたら、いい物をあげるよ」と微笑んだ。
「俺とアルトは兄弟でな。…今似てないと思ったろ?」
ニヤリと笑われて、私はうっと言葉に詰まった。
それに豪快に笑って、アルトの頭を優しく撫でる。
「母親が違うんだ。俺達は兄弟二人、エバさんに拾ってもらった。」
「えっ?」
いきなりの暴露に、私はどんな表情をしていいのか分からなくなって、感情のまま…悲しくて俯いてしまった。
「あっ、フィリアそんなに悲しい顔しないで…。」
「ありがとうな。でも心配無用だ!今はこのフタバタウンで思う存分良い仕事させてもらってるんだからよ。」
「フィリア、きっとフィリアもこの街を好きになるよ!
エバさんはすごいんだ。この街を盛り上げる為に、いつもいろんな事をしてるんだよ。」
「…フィリアちゃんがこの街を好きになってくれると、私も嬉しいわ。」
三人は笑っていた。
過去が辛くても、笑っていられるなんて…どうしてこの人たちは強いんだろうか。
「この街のフタバと言う名前はね?まだまだ可能性を秘めている苗の事を言うのよ。
この芽はきっと大きくなるだろうって意味なの。
これからこの街は、もっと大きくなって行くと思うの。
…だからフィリアちゃんも、一緒に楽しくこの苗を見守って行きましょう?」
ふわりと微笑んだエバに、フィリアも笑顔で答える。
暖かなおばあちゃんの居る街には、過去に傷を持つ者が多く居るらしい。
だけど多くの人はその傷を自分なりに癒して、この土地に癒されているらしい。
自然豊かなこの街で、私の人生の一日目がスタートした。
遠く離れたこの土地で、私は…私の持つ過去の傷を癒す事は出来るのだろうか…。
どうも、お世話になっています!
Ruru.echika.ですーvV
他の作品も書いてます…書いてますよぉお泣
今回のは私の大好きな空間、牧場で繰り広げられる牛、鶏、自然、海!
に囲まれた女の子のお話です!!(気合)
これからごちゃごちゃ停滞気味に進んで行くと思われますが、気が向いたら…覗いて頂けると嬉しいです((((照
それではさよなら、また次回!