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巫女とメイド




我が国が異世界から巫女を召喚した


けれどそれがなんだろう。一介の王宮勤めである私には何の関係もなかった




「……しーちゃん!?しーちゃんでしょ!?」




偶然私を見かけた巫女が、そう言うまでは





『異世界からの召喚〜とあるメイド〜』





私は巫女の世界の、巫女の友人によく似ているらしい



急に異世界に飛ばされて、知り合いが居ない中での生活は大変だろうから慣れるまで世話をしてやってくれ



そう若き国王に頼まれたから………仕方なしに期間限定で巫女付きのメイドになったわけだけど





「ねぇ、フーティ!!向こうに綺麗なお花が咲いてるわ!!」


「……巫女様、そちらは王族の離宮があるため一般人の立ち入りは禁じられています」


「だってアシュリーは好きにしてくれて良いって言ったもん」


「……それでも、入るためには書類を提出せねばなりません」


「やだやだ!!いますぐ向こうに行きたいの!!」



このくそガキが


良い年頃であるのに、配慮に欠けるというか幼いと言うか……

頬を膨らませてむくれて睨んでくる巫女は、もう完全にこちらの世界に馴染んでいませんか?と国王に問いただしたい。いや、問いただした。それでも元の職場に戻してはもらえない



「だめです。」



きっぱりと言い切り、城に戻るように促すが私とそう変わらない歳の筈の巫女はやだやだと我儘を言う


感情が表情に出ないタイプでよかったと常々思う。出なければ私は常時彼女を睨み付けていただろう



巫女は本当に幼くて私から見たら我儘が過ぎる



けれど彼女がここまで我儘になったのは間違えなく




「かてぇなぁ、フーティ。巫女さんがねだってるんだから見逃してやれよ」


「そうですよ、彼女が入ったとしてもアシュリー様は咎めませんよ」



国王を筆頭にした、巫女につきまとう有力者達だ



案の定金魚の糞のごとく現れた第二騎士団長と外交大臣に内心全力でうんざりとする

まだ職務時間ですが



「エベラ!!サウェイ!!もうお仕事終わったの!!」


「まだ終わってねぇが、巫女さんに逢いたくなったから休憩だ」


「アシュリーは謁見がたてこんでいるから来れないそうですよ」



明らかに獲物を狙う目をする男たちに気付かないのか、巫女は嬉しそうに声を上げて有力者たちに抱きつく



巫女の特殊効果なのかは知らないが、何故か巫女は王宮のあらゆる老若男女に可愛がられている。そして年頃の男性には明らかに求愛されている




そんなの関係ないので好きにしてくれって話だが



彼等が全力で巫女を甘やかす→我儘になる→私にも我儘を言う


の、連鎖攻撃には参る



「ほら、巫女さんこの花か?」




そして呆れ果てる私の前で堂々と王族の離宮がある庭園に侵入して遊ぶ三人




私にはこの幼稚な少女の良さが全く分からず



ねだられる我儘に日々困り果てていた















──────



そんなある日

数ヵ月に渡り、国の西の街道を困らせていた山賊が捕縛され城へ連行された




この山賊たちに殺された人数は三桁に達していて、情状酌量の余地も無く斬首刑が確定していたのに………




「だめよ!!人を殺すなんてよくない!!」



巫女は愚かにも、処刑執行人の前に飛び出した



一応は王族並みに権威がある巫女の暴挙に、私を含めた王城勤務で刑を見守っていた人々は揃って混乱する



何をやっているんだ、あの人は



「邪魔だ、どけ」


「退いたら殺しちゃうでしょう!!絶対に退きません!!」



生かしてどうするつもりなのか。まさか罪を償わせるとでも言うのか

そんなもの、遺族が許すはずもないし山賊を保護するとなると、今まで彼等が強奪してきた金品を国が被害者に払わねばならない



犯罪者を守るために、国民の血税を使ったとなれば国民の心は国から離れてしまう



彼女はそれを理解……してるわけが無いな

か弱い少女でありながら、ガタイが良く強面で愛想が全くない彼の前に飛び出したことは凄いと思うが……うん


唯一の救いは処刑執行人の彼は、巫女の虜になってるような人間じゃないことだろうか



まだ刑を執行した訳じゃないのに赤く血塗られた剣を巫女につきつける彼に、僅かに眉をしかめる



………あの人も仕方がないお方だ



「庇うつもりなら、お前も殺すぞ」


「っ、それでも嫌!!貴方だって同じ人間でしょ?どうしてそんな簡単に殺そうとするの!!」


「決まりだからだ」


ぶわっとした殺気を彼が放つと巫女が涙目になり

剣を振り上げた瞬間、



「スティィィィブ!!やめろ!!」




精神的にも権力的にも執行人の彼を止められる人が、ようやく現れた


アシュリー・サディン・シャル



我が国の国王陛下その人だ


見ていた人たちが安堵の吐息を吐くのと同時に、駆け寄り巫女を抱きしめる国王と表情一つ変えずに剣を収めた彼




「あ、アシュリー!!人を殺しちゃ、ちゃ、だめ、だよ、」



安堵しながら泣き出し、国王に抱きつきながらバカなことを訴える巫女


そんな巫女を慰めつつ、執行人を見上げて困る国王




………困る余地なんか無いでしょうに




「あー、うん。だけどこれは決まりでな?」


「決まりなんか、いつも破ったって大丈夫じゃない!!お願いアシュリー、あの人たちを助けて?」


「いや、それは……うーん」





ば か か 。


呆れ果てたのであろう執行人は剣を納めてスタスタと立ち去っていった

それが正解だ。どんな正論に対しても彼女は駄々をこねて、しばらくは処刑執行出来ないだろう





困り果てる国王と、泣きながら助命をねだる巫女と

目を輝かせてなりゆきを見守る山賊たち





さすがに今回の件は私もあきれ果てて




馬鹿らしい茶番劇の終演を待たずにメイド長のもとに歩みを進めた












────



「戻ったか」


「只今戻りました。そんなことより、あんなに血糊が着いた剣をそのままにしていたら錆びてしまうでしょう?」




数週間ぶりに、長年馴染みのある部屋に戻ってきた

来客用の対面式のソファと、それに挟まれた低い机の向こうの仕事机に………先ほど巫女に剣をつきつけた彼がいる



ぺこり、と礼儀上頭を軽く下げてから


大理石の上を音をたてずに歩いて、スティーブの後ろの窓辺に立て掛けられた剣に手を伸ばすと……ひょい、と私より二回りも三回りもガタイの良いスティーブに担ぎ上げられた


「スティーブ?」


「俺の剣を磨くのはお前だけだ。そんなことより補給をさせろ」



無表情のまま私を担いだ彼は、結構な重量があるはずなのに普通に歩いて


私を来客用のソファに座らせると私の膝の上に頭を置くように転がった



ガタイの良い彼の身体は当然ながらソファからはみ出し、お世辞にも寝心地が良いとは言えないだろう


それでも彼はその状態で休息をとるし。私も彼のごわごわしてる固い髪を優しく撫でた



「昔から甘えん坊ですね」


「そんなことを言うのはお前だけだ」




あくまで二人とも表情を変えずにたんたんと喋る。けれど、かなりの上機嫌なのはわかってるし私の機嫌もかなりいい



「馬鹿国王がお前を永続的に巫女付きによこせと言ってきたぞ。たいした気に入られっぷりだな。無論断ったがな」


「嫌ですよ、あんな我儘な子。メイド長に今すぐにスティーブ付きに戻さないと職を辞しますと言ってやっと逃げて来たんですから」


「お前が辞めたら俺も辞めるから、それは戻さざる得ないな」



珍しく、小さく笑った彼の頬を撫でる

栗色の鋭くて細い目に映った私も小さく笑っていて

差し出された手に甘えるように頬を寄せた



「いや、いっそのこと王宮勤務をやめて俺の妻になるのもありだな。それだと共に居られる時間は少し減るが」


「もらってくれるんですか?」


「お前以外を傍に置く気は無い。手放す気も無いな」



堂々と甘い言葉をはく彼と私は家柄は到底釣り合わない。けれど産まれてからずっと傍に居る。乳姉弟、友達役、競い合うライバル、恋人、上司と部下

様々な関係になったが、それでも私は彼の傍にいて彼に尽くしたいし

彼もそれだけを望んでいる


私を隣に置く

ただそれだけのため、家を納得させるために出された条件……城でしっかりした役職になるため……彼は誰もが嫌がり余っていた処刑人になった



“騎士団長なんか目指したら、いつなれるかわからない。俺がお前に傍に居てほしいだけだから気にするな”



初めて人を殺したとき。彼はそういった

溢れる私の涙を拭いた彼の目は、誰もわからないだろうが明らかに傷ついていて



“では私はスティーブの心を支えます。剣の手入れは任せてください”



こんなに深く愛してくれていて

こんなにも激しく求めていてくれて



どっぷりとはまらない人はいるんだろうか?





「私がスティーブから離れるのは、死ぬときだけですよ」





きっとすぐに巫女は、ぞろぞろと取り巻きをつれて私を連れ戻しにくるだろう

優しくした覚えはないのに彼女はやたら私になついているから



けれど二度目は無い

そう固く誓いながら、私はそっと愛しい彼の唇を奪った


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