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私が行く・異世界冒険譚  作者: ちょめ介
蒔かれた種はどんな木に育つのか
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第八十一話・彼女の戦う理由とその必要性

はい、第八十一話投稿いたしました。

なんだか、1か月~2か月に一度の投稿がデフォルトになってきとる…

風邪をひいて熱出すたびに頭が働かなくなるし、もうダメかも分からんね。


それはともかく、第八十一話始まり始まり…

少し歩いた先に【エルフ】のお爺さんがイスに腰かけていました。


ロッキングチェアに深く座り、ユラユラと揺られながら何かの本を読んでいます。


「ああ、君か。なんの用だね?」


「いえ、特に用事はありません。頭を冷やしたいと思まして。」


このままあの子の下に行ってしまえば、溺れてしまいそうで。


少しだけ、見つめ直したくて。


「ふむ、何があったかは聞かんよ。イスは必要かね?」


「いえ、必要ないです。座ると眠ってしまいそうで。」


あれから一か月ほど経ちますから、そろそろでしょうし。


樹の根に腰を下ろします。


一抱えも二抱えもありそうな太い幹、何千年も生きていそうな巨大さ、生命の神秘が感じられます。


「この樹ですが…」


「ああ、サクラというらしい。わしの友人が持ってきたものだよ。」


「へえ…」


この世界にも桜の木があったんですね。


春には花が咲いて、お花見が出来るのでしょうか。


「植えられて百年ほどか。枯れもせず、咲きもせず。何も変わらずにここに在り続けているのだ。」


それにしては巨大すぎる気もしますが。


と、言うより…


「しかし、以前ここに近づきましたが、こんな巨木は見えませんでしたよ?」


このような何百キロ先もの遠方からでさえハッキリと分かるような巨木です。


あれだけ近くに寄って、見えないわけがありません。


「ああ。ここ数日でここまで育ったのだ。このような事は初めてだよ。他の者には見えないだろうが。」


「見えない、とは?」


「言葉通り、わしと君以外にこの樹は見えんよ。そういう風にしておいた。」


「ふぅん…」


「それと、あの眼鏡だが直しておいたよ。ほら…」


そう言われて投げ渡されたのは、黒い眼鏡ケースです。


開けてみると見慣れた黒縁眼鏡が入っていました。


「しかし、君も物好きだな。度も何も入っていない、ただ【魔力】を見ることしか能がない、そんな伊達眼鏡をかけたがるとは。」


「昔から眼鏡に憧れていたんですよ。こちらに来るまでは」


かけると、視界から入ってくる情報量が増大します。


空気中に漂う色取り取りの粒子。綺麗ですがこのままでは邪魔なので、ピントを合わせるように意識をすると、徐々に薄くなり目に視えなくなりました。


「きちんと動作していますね。ありがとうございました。」


「いや、簡単な修繕だったよ。しかし、何をどうやったらあんな風になるのかね? 【魔法陣】が焼き切れるなど、そうそう起こる事態ではないはずだが…」


「カンナの癇癪です。高密度の【魔力】の爆発を間近で受けてしまって。恐らくその影響でしょうね。」


「【魔力】の爆発か…失われた技法を易々と真似る【魔眼】にも困ったものだ。」


「全くです。【霊力障壁】を易々と貫いてくるんですから。おかげで死にかけました。」


私の防御の全てを担う【霊力障壁】ですが、その性質上、この世界に満ちる【魔力】と打ち消しあいます。


しかし、膨大な量の【魔力】が物理的な側面も持って迫ってくるものですから。さすがに打ち消しきれませんでした。


圧倒的な熱量と尋常ではない衝撃をこの身に受けました。おかげで死にかけましたね。


「ところで、ひとついいですか?」


「ああ、なんだね?」


ザワザワと、風が木々を揺らしています。


こういった、静かで自然に満ちた場所はいいものですね。


「あなた、何者です?」


「…ふむ。」


読んでいた本をパタリと閉じた途端、空気が変わりました。


ピタリと風が止み、何やら不穏な感じがしてきますね。


「前にも言ったはずだが? ただの、しがない【エルフ】だと。」


しがない、ですか。


「まったく、言葉とは面倒な物です。自分が思っている以外の意味では受け取りにくいんですから。」


取るに足らないという意味でなく、そのままの意味で。


「【吸血鬼】…とは少し違うようですが、似たようなものですね。同類です」


今までに視た【吸血鬼】はその体を構成する【魔力】が反発するのを無理矢理に押し留めている感じでした。


しかし、目の前の物体は違います。


とても調和のとれた、バランスのよい【魔力】が渦巻いています。


この世界の一部といっても過言ではありませんね。


まあ、そんなことはさて置き。


「最期の言葉くらいは聞きますよ? あなたには【家族】がお世話になりましたので。」


右腕に【魔具】を出します。


少しだけ強力な、蒼い刀身を創り出すレーザーブレードです。


二体の【吸血鬼】を消してきて思ったんですが、なぜあんな物に成り下がるのでしょうか?


「模造品の劣化品…そんな【吸血鬼】と同じにしてもらっては困るのだよ。」


「同類でしょう? 他の生物の【魔力】を奪い取ってでしか存在する事の出来ない物体が。私、気に入らないんですよね。だから消えてください。」


【霊力急進】を起動、瞬間で【エルフ】であった物体の接敵し【魔具】を振りました。


―――ギン!ヂヂヂヂヂ…


実体を持たないハズの蒼い刀身がナニカとぶつかり合い、蒼と虹の閃光が飛散しました。


とてつもない強度の【魔力障壁】…これは貫けませんね。


後方に【霊力急進】を発動して距離を取り、左手にショットガンを出して…


「なるほど【彼】と同じ…それならば、これは効くのだろう。」


瞬間、眩い光が発せられました。視界が白色に染まり、目を開けていられません。


なるほど、どんな生物でも視界への防御は緩いですからね。普通なら効果的でしょう。


しかし、この眼鏡のおかげで、たとえ視界を潰されても【魔力】だけは追えます。


【魔力】の塊とも表現できる【エルフ】だった物体は、付かず離れずの距離を保ったままです。


「ふむ、効果は薄いか。しかし、これならどうだね?」


「―――っ!」


―――ズグン!ギギ…ギ、ギ、ギ…


足元に【魔法陣】が展開された瞬間、途轍もない負荷に襲われました。


体全体が地に引き摺り込まれるような超重力。両足が地面にめり込み、少しでも気を抜けば体が潰されてしまいそうです。


「いかに素早く動けようが、いかに強力な【魔具】を使えようとも、動くことが出来なければ意味がないだろう?」


悠々と、自分の優位を示すかのように大手を広げて、こちらに歩いてきます。


その腕には異質と言っても過言ではない【魔力】が込められていました。しかし、それに対しては悪意が感じられません。


まっさらな、あらゆる色に染まっていない白い【魔力】です。


しかしながら、私に対して敵意があろうとなかろうと、たとえ【吸血鬼】ではないと言っていようが、同類であることには変わりありません。


―――消さないと、消さなければ。


そんな私の殺意も知らずに【エルフ】だったであろう物体が間近にまで寄ってきました。


「殺しはせんよ。少しの間眠っていてもらうだけだ。」


何をするのかなど知ったことではありませんが、白い【魔力】で覆った右腕を私の頭に乗せようとしています。


全く、油断も甚だしい。


左腕に【魔具】を出し、異常なまでの強度を誇っていた【魔力障壁】を打った。瞬間―――


「―――!動けるか!?」


緑色の閃光が爆発し、同時に体に掛かっていた負荷が消滅しました。


どうやら、足元の【魔法陣】も消失したようです。


そして、心底驚いたような物体が体勢を崩しました。


「慣れましたので。おかげで筋肉痛ですけど。」


右腕の【魔具】から迸る蒼い光が【エルフ】だった物体の胴を両断しました。


上半身と下半身が分断され、切断面からは白い【魔力】が止まることなく垂れ流れています。


血液とは違い、地面に広がる前に空気へと霧散してしまうそれは、それだけを見れば本当に幻想的です。


「強い…【彼】と同じ…だけ、は…」


物体がボソボソと何かを呟いています。


以前も言っていましたが、これが言っている【彼】とは一体誰でしょう?


…まあ、別に構いませんか。


それの首を掴んで持ち上げます。ほとんど重さを感じないのは、これそのものが【魔力】で構成されている証でしょう。


「消えなさい、生きてもいない物体は。この世界から微塵の欠片も残さずに。」


【霊力爆発】を起動。周囲に展開されている【霊力障壁】が収縮し、臨界まで圧縮されます。


「やはり、君も…あの、世界から―――」


最後の言葉も無視し、それは閃光に呑み込まれて行きました。




―――




「終わりですか。呆気もないですね。」


【レーダー】で確認をしても範囲内に反応はなく、眼鏡にも何も映りません。


高密度の【霊力】を爆発させ、存在している【魔力】を消し飛ばす【霊力爆発】を至近距離で直撃させました。


【霊力爆発】は、その存在定義が【魔力】に依存している【吸血鬼】にとって大打撃になります。


これも【霊力】と【魔力】が互いに打ち消し合う性質を持っている為らしいです。


もちろん、この【霊力爆発】もメリットばかりではありません。


防御の要の【霊力障壁】を攻撃に転用する為、使用後はこれが展開できなくなってしまいます。


体調次第で再展開までの時間は伸びたり縮んだりしますが、これが無い状態では私は丸裸と言っても遜色のない状態になりますね。


また、近距離・多数・一斉攻撃ならば相性がいいのですが、遠距離・多数・波状攻撃には面倒が増えることになってしまいます。


なるべく【霊力爆発】を使うのは控えてきましたが【吸血鬼】を消す為ならば躊躇する必要はないですね。


「さて…セルナにはなんと言えばいいでしょう?」


二つの()の関係など知ったことではありませんが、とにかくこれで消えた事でしょう。


セルナ、何故だかあれ(・・)にはすぐに懐いていましたから、消したと言えば怒るでしょうね。


あれが【吸血鬼】と同類だったと言えばいいでしょうか?


あれやこれや考えていると、ナニカが聞こえました。


【―――】


まるで耳元で囁くような声が。


しかし周囲には誰もいません。


視えるのは【魔力】と、天を衝くかのように巨大な大樹だけ。


「はぁ…これでも全力だったんですが。しぶといですね、まったくもって【吸血鬼】という物体は。」


その【魔力】が、まるで生物のように蠢きだしました。全てが互いに寄り添い、まるでアメーバのような。


そして、徐々に人の形が作られていきます。今さっき消したはずの【エルフ】だった物体が、再び。


「これはこれは、怖いことだ。確かに強い。恐らくは、この世界の誰もが敵わないだろう。その力はそれほどの物だ。」


まるで消耗がないように、少し離れた位置で手を組んでなにやら考え込んでいます。


「しかし、分からないことが一つだけある。君の…君が言う物体か。その物体への敵意はどこから湧いてくるのだね?君の言う…【家族】か。それに手を出した【吸血鬼】はともかく、わしは君に何もしていない。それなのに何故、敵意を向けてくるのかね?」


「決まっているでしょう。気に入らないんですよ。生まれ持った生命を捨ててなんの益もない物体に成り下がって。ムカつくんですよ。それだけです。単純でしょう?」


ああ、面倒くさい。何故分かり切ったことを聞くのでしょう、この物体は。


しかし、対処法は思いつきました。止めを差しましょう。


そう思った瞬間、突然に地面が迫ってきました。体に力が入らず、パタリと。倒れ伏してしまいました。


なんでしょう、これは。


まるで今までに倒してきた人たちの様に【魔力】でも無くなったかのような…


「ようやくか。イヤに時間がかかると思えば。果たして、君の()の底はどれほどなんだね?無限とも思えるほどだよ。」


「…なにを?」


「まだ喋る気力があるとは…なに、君の()を枯渇させただけだ。」


倒れる時にズレ落ちた眼鏡を拾い上げ、まるで宝物を扱うような手付きで恭しく折り畳み、いつの間にか手に持っていた眼鏡ケースに入れました。


「この眼鏡は、わしが創り上げた特別品だ。普段は【魔力】を視るしか能がないが、ある言葉で機能が開放される。」


ある言葉…あの時に囁かれた言葉。あんな、単純な言葉が?


「世界に存在するあらゆる法則、未来から過去、概念存在から物質存在までありとあらゆるモノを視通すことができる。その分、尋常ではない量の()が必要となるが…」


少しだけ、慣れてきました。力の配分を見直して、僅かな力で動かせるように調整を。


それでも、立っていることさえやっと体調。頭痛が止まりませんし、全身の関節に激痛が走り続けています。


「僅か数秒先の未来を視通すのに、膨大な()が必要なハズなのだよ。それをたった一人で賄い、あまつさえ動くことができるとは…君こそなんなのだ?」


右腕のブレードに【霊力】を流そうとしても、それが流れる感覚がありません。蒼い刀身が発生する素振りもなし。


本当に【霊力】が切れたのでしょう。つまり、もう限界というわけですね。


「自分のことなど、興味ないですね。私には【家族】さえいてくれれば…それで、いいんですよ。それ以外など、必要…ありま、せん。」


物を喋るのすらも苦痛な中ですが、しかし【家族】に害を及ぼす可能性のある、目の前の物体を消さなければ。


「枯渇してなお、戦おうとする姿勢には感服する。しかし…」


ザ、ザ、ザザ―――ザ、ザザザ…


まるで砂嵐のような、耳障りな雑音が聞こえてきました。共に、視界が徐々に白黒のノイズに侵されて行きます。


いっそ千切ってしまった方が楽になるような、動くことすら苦痛になる激痛など、どうでもいいのです。


私がここで、死ぬかもしれないことも、どうでもいい。


「っう、私、の…【家族】を、生きた、証を…」


ザザザ、ザザ―――


守ら、ないと。限界など、知った、こと、か。


ザ、ザザザザ―――ザザザ―――ザザザザザ…


まも、ら、な―――


ザザザザザ―――ザザザザ―――

はい、どうだったでしょうか。


以前からちょくちょく出没していた老人の【エルフ】ですが、なんと彼は死が無かったのですよ! ナ、ナンダッテー!?


…まあ、それはさて置いて、主人公は彼を【吸血鬼】と同類と断定しましたが、老人はそれを否定。同類とされては困るとは言いますが、彼自身に彼女と敵対する意思はない模様。非殺傷の閃光系と重力系で動きを制し、意識を奪うだけのつもりだったとか。

しかし結局は、彼女の異常なまでの敵意と強さにより、彼女に手をかけるしか無かったようです。いえ、死んでいませんよ?


そして、彼女の【吸血鬼】への異常な敵意は、ただ気に入らないから(・・・・・・・・)ムカつくから(・・・・・・)とのこと。狂ってますね、全く。


最後に、彼女にとって久しぶりのピンチ。無限と言われていた【霊力】も、実はそこがあった模様。そりゃ、容量が無限でも出力が一定では空にもなりますよね。嘘は吐いていない、ハズ?


感想、意見、その他諸々、お待ちしております。

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