第八十話・嫉妬する少女とその理由
はい、第八十話投稿いたしました。
ACVDの発売日が迫り、日に日にテンションが高まって参りました。
まあ、二月の発表からずっとこのテンションなのですが。
ああ、レイヴンズミーティング行きたかったなぁ…
行けた方は羨ましいです。空気感というかなんというか録画を見ているのでは味わえない雰囲気というものが味わえて羨ましいったら羨ましい。
取りあえず、ネットワークテストを受ける事が出来ただけ良しとしています。
それと、古鷹さんと妙高さんが来てくれません…
さて、第八十話始まり始まり…
「イーナ起きろ!朝だぞ!」
「なんですか、セルナ。起きているんですから、朝から大声を出さないでください。」
早朝、ドアを勢いよく叩かれました。
開けると、初見では少年の様にも見える少女が立っていました。
頭からはネコ科動物の耳を生やし、私よりも頭一つ分程度には背が高い、大事な【家族】の一人、セルナです。
「で、どうしたんです。こんな朝早くから。」
「ん、腹減ったからさ。朝飯作ってくれよ。」
…この猫は。
「い、いや、そんな目で見んなよ!今日はランダルとカンナに【魔法】教えねえといけないんだよ!」
へえ、あの二人に【魔法】をですか。
「ならば仕方ないですね。セルナ、皆を起こして身支度を整えなさい。私は朝食の準備をしますので。」
私がそう言うと、セルナは耳をピコピコと動かしながら喜び勇んで去っていきました。
リリウムとルビアとヒナ、セルナとメリアとカンナと、三人が一つの部屋で眠っているので、起こすのに手間はかかりません。
まあ、私は寝顔を見られるのが苦手なので、一人で眠っていますが。
『言い忘れていましたが、私は一人で眠ります。ルビア、大きめの部屋がありましたから、リリウムとヒナとそこで一緒に寝るように』
昨日、寝る前にそう言ったら、ルビアはまるで世界の終わりのような顔をしていましたね。
色々と不満を言っていましたが何とか納得してもらいました。
それで、ヒナがルビアを慰めているかと思ったらルビアがヒナを抱きしめて猫っ可愛がりして、ヒナはワタワタ慌てていました。
リリウムはそんな二人のじゃれ合いをどこ吹く風という感じで、私のことをジッと見つめて来るだけでした。
「それにしても…」
セルナが【魔法】を教えるのですか。
丁度良い機会ですし、ヒナにも手ほどきをしてもらいましょう。
身を護る為の術はいくらあっても困りませんからね。
―――
「よし、いいか。これから【魔法】の授業を始めるから、俺のことは先生と呼ぶように。」
「はい!姉ちゃん先生!」
「…はい、セルナさん先生。」
「は、はい、先生!」
朝食を食べ終えると、セルナはすぐにカンナとヒナを連れ、家から少し離れた広場に向かいました。
木々を伐採して地面をならしただけの簡素な場所です。
先に来ていたアムザイさんに軽く挨拶を交わし【魔法】で造ったであろう石でできたベンチに腰掛けながら、セルナが言う授業を見学しています。
セルナを姉ちゃん先生と呼んだ少年、ランダル君は、私の隣に座っているアムザイさんの一人息子です。
複雑な事情で父親と離れ、母親と二人で暮らしていたランダル君ですが、死に瀕したランダル君の母親をセルナが助け、どうやらそれが要因となって私たちがここにいるのですから、世の中なにが起こるのか分からないものです。
ランダル君はセルナに懐いていますが、あれは憧れや尊敬というより…
「イーナさんは…」
そんな考えに浸ろうとしていると、何やらアムザイさんが言葉を詰まらせながら、私の名前を呟きました。
この人はアムザイさん。元【No.3】つまり、西の【アナリティカ】で一番の力を持っていた【人間】です。
彼の事情でランダル君とその母親が危険な目に遭いましたが、夢を追う為に自らの身分全てを捨てることができるその姿勢は、尊敬に値しますね。
「ええ、私がどうかしましたか?」
「ランダルを、どう思います?」
セルナから杖を受け取り笑顔を浮かべている、ランダル君の顔が見えます。
「ええ、とても嬉しそうですね。」
曇りのない笑顔で笑うランダル君は屈託のない、年相応の顔を見せています。
「ランダルが笑っている所を見るのは、久しぶりです。セルナさんと別れてから、なんだか暗くなってしまって。」
「幼い頃に別れた父親と再会したんです。すぐには慣れないでしょう。」
「それは承知しています。しかし、セルナさんが来た途端に、どこか暗かったあの子が。昨日の夜なんて、セルナさんの話ばかりですよ。取り留めのない自慢話です。しかし、私にはそれが羨ましい。」
なるほど…
「ただの嫉妬ですか。つまり、もっと親子らしく、隔てのない会話をしたい、と。そういった感情は分かりませんが、理解はできます。ランダル君が話しかけてくるのを待つのではなく、自分から歩み寄らないと。手遅れになりますよ?」
「…そうですね。妻にも同じことを言われました。私も話そうとはしているのですが、どうにも話題が見つからなくて…」
「よぉし、杖は持ったな!それじゃあ【魔法】の使い方だけど…」
アムザイさんと話している間に全員に杖を配り終えたようです。
ヒナとランダル君の二人はまるで国宝でも拝領したかのようにカチカチと震え、カンナは不思議な物でも見るかのように杖をマジマジと見つめています。
「…あ、あの、イーナさん?ランダルたちが持っているあの杖、まさか…聖木ですか?」
アムザイさんが言う聖木とは、この世界のどこかに自生しているとされる、幻の樹木です。
聖木で作られた杖は【属性魔法】を強める様な機能はありませんが、10の入力を9~10の出力で放つことが出来る、初心者にも使いやすい一品となります。
普通の杖では、10の入力を高くても5~6にするので精一杯でしょうから【魔法】のコストパフォーマンスの悪さが知れますね。
「ええ、間違いないでしょう。なにをしても折れませんでしたから。」
昨日確かめた限り、ランダル君とカンナに渡された杖は、聖木から形を整えたシンプルな物です。
【魔力】の伝導率の良さと、何をしても絶対に形を変えないほどの硬度を持っており、私の持つ射突型ブレードでも罅一つ入りませんでした。
聖木の細枝一本を国に納めればその功績で、平民からでも爵位を得られるほどの珍品。
市場での末端価格は、100億Sはくだらないでしょう。
「それとヒナさん…でしたか。彼女の持っている杖は、もしかして【緑竜】の…?」
「少し前に大物を仕留めまして。素材が余っていましたので、作ってみました。」
そして、ヒナに渡した杖は、前に殺した【緑竜】の鱗やら牙やら骨を使って、手ずから作った物です。
少し足りなかったので、セルナの傍にいやがる【緑竜】を狙いましたが、実行できなかったのが残念でした。
材料費はかかっていないので、そこまで高価な物ではないのですが…
「まずは杖を構えるんだ!こう…地面と水平に、あんまり力を込めずにな。ランダルとヒナ、肩に力込めすぎだ。もっと緩く。それとカンナ、お前はもっと力入れろ。杖ばっか見てないで。」
緊張からか、杖をフラフラと揺らしているランダル君とヒナ。
セルナの言葉が聞こえているのか、杖をマジマジと見つめているカンナ。
そんな三人への指導が数分の間続きました。
「うんうん、そんな感じ。そんじゃ、次は【魔法】の使い方な。」
満足そうな顔をするセルナに対して、どこか疲れているかのようなランダル君とヒナ。カンナはいつも通りの無表情です。
しかし、セルナの言葉を聞き、どこか期待に満ちた雰囲気が漂います。
「そういえば、アムザイさんにもお弟子さんがいたんですよね。どういった風に教えていたんですか?」
「…イーナさん、どこでその話を?」
「お爺さんから聞きましたが、なにかまずい事でも?」
「いえ…お恥ずかしいことですが、当時の私は荒れていまして。弟子を気にせず、私事にしか目を向けていませんでした。弟子も独学で学んでいたので、それでいいかな、と。優秀な子でしたし。」
ああ、中々に破綻していたんですね。仕方ないんでしょうけど。
「えー!?」
そんな中、ランダル君の悲鳴にも似た声が聞こえました。
「あ、あの、先生、え、えと…」
「…セルナさん先生、分からないよ。」
ヒナからは困惑したような、カンナの口からは分からないとの言葉が。
「どうかしましたか、ランダル君。そんな悲鳴を上げて。セルナ、何を言ったんです?」
「いや、そんなこと言われても…【魔法】の使い方を教えただけだよ。」
「しかし、それだけであんな大声は出さないでしょう。カンナ、どんな感じで教えられましたか?」
「…えっと、説明しづらい、かな。セルナさん、もう一回お願いします。」
「まあ、いいけどさ…ほら、こうやって杖構えるだろ?」
そう言って、セルナは少し離れた位置に行き、杖を構えました。
「そんで…」
ヒナ、ランダル君、カンナの視線がセルナに集まります。
「杖にガッって【魔力】を集めて、ギュッっと凝縮して、ボンッみたいな感じで呪文を唱えるんだよ。簡単だろ?ほれ、ランダルもやってみ。」
そんなセルナの物言いに、ランダル君とアムザイさんが困ったような、苦笑いを浮かべました。
「ふぅ…」
右腕に【魔具】を出します。マシンガンのように連射の利くEN兵器、パルスガン。
「い、イーナ?そんなの出してな―――いてっ!痛い痛い!チクチクする!」
パシパシと、青い弾丸がセルナに当たっては消滅していきます。
「まったく、教師が抽象的に物を教えてどうするのです。もっと具体的に教えなさい、具体的に。」
「ぐ、具体的に…?」
目を大きく開き、何を言っていいのか分からないように口を曲げています。
「言っている意味、分かりますか?擬音を使わずに言葉で、あなたが教えられたように教えればいいんですよ。」
「あ、いや、その…」
私がそう言った途端、セルナの目が泳ぎました。
「いや、俺【魔法】ってさ、誰かに教えられたわけじゃないんだよ。母さんにコツは教わったけど、あとは感覚で覚えてきたんだ。母さん、ロクに【魔法】が使えなかったからさ、助けるために一心不乱でやってたんだよ。」
困ったように笑いつつ、そう説明されました。
「あの、セルナさん、一つよろしいでしょうか?」
アムザイさんがセルナに話しかけました。
「失礼ですが、どの位までの【魔法】を使えますか?」
「んー…中級までは普通に、上級になるとちょっと難しいかな?まあ、独学だし文句なんてないけどさ。」
ちなみに、大体の【人間】は自分の得意な属性を中心に、初級~中級の【魔法】を使えるようにします。それ以上の【魔法】となると、相応の時間と才能が必要ですね。
まあ、極稀に、初級の【魔法】すらも使うことができない【人間】が誕生することがあります。それに加え、どんな種族にも使えると言われる【基礎魔法】すらも危うい場合もあるとか。セルナの母親はそういった、希少な部類だったのでしょうね。
「誰にも教わらずに中級の【魔法】を…それでは、どんな教本で【魔法】を覚えたのですか?」
アムザイさんの言う教本は、覚えようとする【魔法】の属性によっていくつかの種類があります。有名な教本となるとK=P・Mが記した『【基礎魔法】の理論と活用』や『【属性魔法】への発展と活用』や『【身体強化】の方法と活用』ですね。
数百年も前の【人間】が記した教本が今も使われているとは、その人物が時代を先取りしすぎていたのか、それとも現代の人物のレベルが低すぎるのか。まあ、知ったことではないですが。
そういうわけで、基本的には教本を見ながら自主学習。または【魔法】が使える誰かに個人的に教わるか。そのどちらかしか無いわけです。
「【魔法】が使えない奴らは死んでったんだから、そりゃ嫌でも覚えるよ。というか、教本ってなんだ?」
「まさか…本当に独学で?」
「まあ、セルナの事は放っておきましょう。実践はアムザイさんが担当してください。私は理論と理屈と座学を担当しますから。」
さて、何から話しますかね。
―――
「以上で【魔法】の理論と理屈は終わりです。つまり【魔法】とは、物理現象を発生させる手段なわけですね。とてもすばらしいです。ここまでで質問は。」
さて、これでヒナ、カンナ、ランダル君に【魔法】の理論と理屈を説明し終わったわけです。
とは言え、ザックリと説明しただけなので、アムザイさんからしてみれば穴だらけなのでしょうけど。
「…イーナさん、質問いいですか?」
カンナが手を上げました。別に断る必要はないのですがね。
「…あの【魔力】ってなんですか?ずっと視えてたけど、あんまり分からなくて。」
「いい質問ですね。最も近い表現をすると、全ての生物が持っているエネルギー…でしょうか。この世界で生まれたのならば必ず【魔力】が宿っています。それこそ、草木一本から虫けら一匹にまで。大気中にも漂ってはいますが、これが生体に影響を及ぼすことはまずありません。」
「…まず、って?」
「何事にも例外はあります。百年前に【No.39】が引き起こした戦争後、一部の地帯で異常に凝縮された【魔力】が検出されたらしいです。その地帯で【魔獣】の発見例が増加し、既存の生物に深刻な影響を及ぼしたと記録に残っています。このように、異常にまで凝縮された【魔力】は人体にも害を及ぼします。まあ、現存の技術では【魔力】を凝縮させるどころか、貯蔵させることすら不可能ですが。」
意味不明な性質を持っていますが【魔力】とは、まるで酸素のようですね。
濃すぎれば害をなし、薄すぎれば何も出来ない。
「い、イーナさん、わたしも、いいですか?」
「ええ、もちろんです。」
ヒナが恐る恐る手を上げました。そんなに怯える必要などないのですが。
「あ、あの、わたし、その…【魔法】とか【魔力】よく分からなくて。わ、わたしにも、本当に【魔法】が使えるんですか…?」
縋るような視線を向け、縋るような声を出すヒナ。
「ええ、もちろんです。生来の種族と才能次第で得手不得手はありますが、ごく僅かな例外を除いて、努力次第で必ず【魔法】が使えるようになります。」
私がそう言うと、ヒナはホッとしたように息を吐きます。
「今、あなたたち三人の中で【魔法】を一番早く扱えるようになるのは、恐らくカンナでしょう。その次がランダル君、ヒナと続くでしょうね。」
しかし、私のこの言葉にガクリと項垂れました。
「そう落ち込む必要はありません。【亜人】は概ね【魔法】への適性が低い傾向にあります。しかし、セルナの様に、幼い頃から修練を積めば、自ずと上手く扱えるようになるでしょう。」
何事にも例外は付き物です。むしろ、例外が無い事象の方が少ないでしょうね。
「カンナが【エルフ】だということもありますが、これまでに【魔眼】で【魔力】を扱ってきた経歴もあります。一番重要な【魔力】を自覚、操作する工程を省くことが出来るのが大きいですね。ところでアムザイさん、あなたはどういった方法で【魔力】の自覚を?」
「私の時は…なんと言うべきか。気付いたら【魔法】を使えていたというしか。こればかりは三人次第でしょう。」
ああ、この人は天才なんでした。面倒ですね。
「あなたたちは【魔法】に触れたばかりの全くの素人です。しかし、アムザイさんに実技を教えていただきますので、そこまで苦戦はしないでしょう。それでは、後はよろしくお願いします。」
「…イーナさん、どこ行くの?」
「ルビアとリリウムが待っていますから。それに、私は門外漢ですから、実技はアムザイさんの担当です。それに…」
「…それに?」
「いえ、なんでもありません。手を抜かずに励みなさい。あなたたちにはそれが出来るのですから。」
―――
なんなんでしょうね。この【魔力】というエネルギーは。
ただのエネルギーが物理現象を誘発する?エネルギーが生物の意思に従って反応する?
ありえませんよ、そんなこと。
一定の法則に従うことはあっても、生物が創り出した不定の法則に従うなんて、意味が分かりませんよ。
意味不明で、理解不能で、まるで意思を持っているかのようですよ。
しかし…
「使える希望があるだけ、可能性があるだけ。彼女たちはいいですね。ああ、羨ましい。出来ることなら私も…いえ、絶対に無理ですか。まったく、こんな感情は久しぶりですね。」
杖を持って、ツバの広いトンガリ帽子を被る。まるで漫画に出てくる魔法使いのような恰好をして。
どれだけ願っても、どれだけ望んでも、どうしようもない。羨ましくて羨ましくて、思わず嫉妬してしまいましたよ。
だからこそ…
「はぁ…嫌ですね。消えてしまえばいいのに。この世界から、微塵も残らずに。」
今だけは、見ていたくない。彼女たちを。
今だけは、リリウムと一緒に居たい。半心異体のあの子と一緒に。
はい、どうだったでしょうか。
今まで言葉は出てきていましたが、詳しい説明がされていなかった、この世界における【魔法】という言葉。
曰く【魔力】によって一定の法則に従って物理現象を誘発する手法、または手段の様です。
そして主人公は【魔法】が使えないことに関連して、これを使える者に嫉妬や羨望の思いを抱いているとか。
自分が欲しくて欲しくて堪らなくしかしどう足掻いても手に入らないものを、他人が簡単に得られれば嫉妬の一つや二つはしますよね。
それと、ランダル君とヒナが杖を持って震えていたのは、初めて【魔法】に触れるための緊張があったからです。決して、国宝級の杖を持ったことに対する恐れとかではありません。
後日、その杖の価値を知った二人は腰を抜かしたとか。
感想、意見、その他諸々、お待ちしております。