第七十九話・そして彼女は決断を
はい、第七十九話投稿いたしました。
お待たせしました、およそ五か月ぶりの投稿です。
前期の授業と山場が終わって時間的な余裕が発生し、中途半端に進んでいたこの話をようやっと終わらせることができました。
え? 待ってないって?
…ACVD楽しみだなー とても楽しみだなー
武器腕とかシールドとか、HEATマシンガンとか新オーバードウェポンとか、UNACとかとかとか、トテモトテモタノシミダナー
ソレジャ、第七十九話ハジマリハジマリ…
目が覚めると、天井が見えた。
何となく天井の木目が顔に見えて、少し怖かったのは内緒だ。
「ここ…」
「あ!セルナ姉ちゃん、目が覚めたんだな!」
元気よく自分の名前が呼ばれ、見た事のある子どもが座っていた。
利発そうな顔立ちに小奇麗な服を着て、以前の面影が薄かったけどハッキリと分かった。
「ランダル…か?」
「いきなり来たからびっくりしたぞ!父ちゃんと母ちゃんも驚いてたんだ!」
枕元には水差しが置かれており、澄んだ水が入っていた。
「あー…悪い、水汲んでくれるか?」
「分かった。ちょっと待ってて…」
水差しを傾けて透明なコップに水を注ぎ、俺に差し出してきた。
「んぐ…助かった。ところで、イーナどこにいるか分かるか?」
「父ちゃんと爺ちゃんとなんか話してたぞ。姉ちゃんの様子を見てきてほしいって言われたから、詳しくは知らないけど…」
「分かった。ありがとな、ランダル。」
ランダルの頭を撫でながら礼を言うと、ニヒヒと言いそうな笑みを浮かべた。
…なんか、こういうのもいいな。
「そんじゃ行くか。ランダルも来るだろ?」
「うん!旅の話をいっぱい聞かせてよ!」
そう言って、ランダルは扉を横に開けて廊下を走って行ってしまった。
「俺、道分かんねえんだけどな…」
まあいいかと諦め、起き上がって部屋を見渡す。
「へえ、なんか不思議な部屋だな。」
床には枯れた草の様な物で編まれた板が敷き詰められ、廊下へ続く扉は木の枠に薄い紙が貼られた変な構造をしている。
他にも、外と繋がるテラスみたいなのがあったり、一段下がった玄関に靴が置いてあったりと今までに見た事がない家だった。
「まあいいや。ランダル追っかけるか。」
―――
「と言うわけで、ここに暮らすことになりました。」
「で、どこに住むんだ?家なんてないだろ。」
イーナの言葉に間を置かずに答えると、どこかとぼけたような口ぶりで言った。
「おや、文句を言わないんですね?もっと騒ぐのかと思っていました。」
「そりゃあな、お前の無茶ぶりを何度も見てたんだ。もう慣れたよ。」
「そうですか、つまらないですね。家はこれから建ててもらいますから心配しなくても大丈夫ですよ。部屋は大目に造ってもらいますから、みんな一緒に住めますよ。」
それだけ言うと、もう用事はすんだのか、俺の横を通って外へと出ようとする。
しかし、ドアに手をかけたところで止まり、こちらを見てから言った。
「そうだ、あなたにお礼を言いたい人がいるそうです。よかったですね、セルナ。」
そう言って俺の返事も聞かずに家を出て行った。
てか、反応がないとつまらないとか…
まあ、そんなことは今はいいんだ。
それよりも、最後にイーナが言った言葉だ。
「お礼って…なんだそりゃ?」
俺がここに来るまで、特にお礼を言われるようなことをした覚えはない。
けど、なにか特別な事って言うと…
「うーん…わかんね。なんかしたっけな?」
「…姉ちゃん、ホントに忘れたのか?」
「あれ?ランダル知ってるのか?」
何か呆れたような顔をしたランダルは、これまた呆れたような口で言った。
「だって、おれのこと助けてくれたじゃん。もう忘れたのか?」
「ああ…いや、助けたってか当たり前の事をしただけだし。それで礼って言われてもな…」
困ってる奴を助けんのは当然だ。
まあ、悪人かどうかの区別くらいはするけどさ。
「それで、礼を言いたいってのはお前か?だったら別にいいよ。礼が欲しくてやったわけじゃないし。」
「い、いや。おれじゃなくて、その…」
ランダルがそう言ったとき、扉がノックされた。
誰だ? 俺の家でもないんだし、勝手に入りゃいいのに。
「あ、来た来た!入ってよ、母ちゃん!」
「母ちゃん?」
俺がそう呟いたのも束の間、ランダルの返事のすぐ後に扉を開けて入ってきたのは【人間】の女性だった。
優しそうな顔立ちと線の細い体をしてて、なんと言うか、こんな母親がいたらいいなあって、素直に思った。
「お久しぶりです。セルナさん。とは言っても、あの時は包帯でグルグル巻きでしたから、分かりませんよね?」
「あ…ああ、けど、ランダルの母ちゃんって…」
確か、ランダルを助けたのが【アプライド】で、そんでランダルの母ちゃんも助けたんだっけ。
でも、治療途中で追い出されて、気にはなってたけど…
「あなたのおかげで、キズ一つ残らずに治りました。本当にありがとうございます。」
そう言って深々とお辞儀をするランダルの母ちゃん。
「あ、いや、やめてくれよ。薬塗っただけだし、それも途中で追い出されちまったんだしさ。」
なんと言うか、他人からこうやってお礼を言われると、あれだ…照れる。
「いえ、おじい様もおっしゃっていました。長い経験と薬の深い知識がないと匙を投げるほどのケガだって。」
「いや、あれは…」
薬については、全部イーナに教わったんだ。
それに経験なんて殆どなかったし。
凄いのは俺じゃなくって、イーナの方だ。
「それに、この子もセルナさんのことを慕っているようです。まるで姉弟のようですよ。」
母親の言葉が恥ずかしかったのか、ランダルが顔を真っ赤にしている。
「そ、そうだ姉ちゃん!じいちゃんも会いたがってたんだ!案内するから!早く!」
グイグイと俺の手を引っぱり、
「あらあら、ランダルったら。それじゃセルナさん。ランダルの事、よろしくお願いします。」
俺がランダルに引っ張られる中、嬉しそうに微笑み、もう一度きれいなお辞儀をしてきた。
―――
「じいちゃん!」
俺と会った時と同じように元気よく、年相応の大きな声を出した。
「おお、ランダルか。そちらの方は…話は聞いておるよ。とても素敵な【亜人】だと。それに…」
自分の胸くらいしかないランダルの頭を撫で、俺を見ながら言う。
「とても賢く、見た事もない薬を使うと。彼女は感謝しておったよ。」
「いや、あの、全部イーナに教えてもらったことで、俺の手柄じゃないよ。それに、俺ってそんなに頭よくないし。」
「イーナ…あの少女が教えたのか。いや、頭の是非はともかく、君は賢い。学ぶだけなら馬鹿でもできる。しかし、その知識を実践に反映できるのかはその人物の賢さ次第じゃよ。」
うーん、そんなもんかね?
「まあ、俺のことはいいよ。それより、なんで俺なんかに会いたいんだ?」
「特に理由などないよ。強いて言うのならば…」
爺さんが俺の顔をジッと見つめ、考える様な仕草をして少し黙り込んだ。
「…いや、やめておこう。あの少女に殺されてしまいそうじゃ」
「イーナにか?…まあ、あいつ怒るとすっげー怖いしな。」
あいつ、本当に怒ると容赦ないし。
結構前にメリアと戦った時とか、本当に…うん、怖かった。
「けど爺さんさ、あいつが怒るようなことしたのか?よっぽどのことじゃなきゃ怒らないけど」
「ああ、それはもう。逆鱗に触れる様な事を。」
「…俺からも言っとくから、ちゃんと謝っといてくれよ。爺さんが死んだらランダルが泣いちまうよ。」
「いや、わしはただの、しがない【エルフ】の年よりじゃよ。なんの意味もない老人を、何の意味もなく殺したりはせんだろう。」
…否定できないな。
あいつ、意味のないことはしないようなヤツだし。
「君の名前を聞いていなかったの。教えてくれんか?」
「ランダル達から聞いてないのか?一緒に住んでたし、俺の事も聞いてたんだろ?」
「いや、君自身の口から聞きたいのじゃ。ダメかの?」
「んー、別に構わねえよ。言いたくないってわけじゃないし。」
一つ間を置き、爺さんに言った。
「セルナ・マーグナーだ。母さんから貰った大事な名前だよ。」
「…そうか、セルナ・マーグナーか。君の名は覚えておくよ。わしの名は―――じゃ。困ったら【エルフ】にわしの名を言うといい。」
「【エルフ】にって…もしかして爺さん、お偉いさんなのか?」
「いや、わしはただの、しがない【エルフ】の年よりじゃよ。」
そう言う爺さんは好々爺の様に笑みを浮かべている。
邪気も何もない、孫でも見ているような優しいな笑みだ。
「姉ちゃん…」
唐突にランダルが袖を掴んできた。
「どした、ランダル。」
「飽きた!遊び行こう!」
「お前な…爺さんに呼ばれたんだから、少しは我慢しとけよ。」
「いや、わしの事は気にせんでよいよ。そうだ、これをやろう。」
そう言って渡されたのは、二本の杖だった。
至って普通の、初心者が使うような外観の杖だ。
「なんか用事あったんじゃないのか?それに、この杖って…」
「わしが創った物じゃよ。ランダルと…カンナと言ったか、彼女にも【魔法】を教えてやってくれ。父親が元【No.3】だ。適正は保証しよう。」
「別にいいけど…俺なんかより、爺さんかランダルの父親が教えた方がいいんじゃないのか?」
「いや、わしのような年寄りに【魔法】を教えられても嬉しくないだろう。ぜひとも、君が教えてやってはくれまいか?」
「ん…いや、別にいいんだけどさ。俺ってそんな【魔法】得意じゃないし、そもそも自己流なんだよ。他人に教えるのが難しいっていうか…」
「ならば…イーナと言ったか。彼女も加えると良い。きっと【魔法】にも造詣が深いだろう」
「そうするよ。てか、ランダル【魔法】使いたいのか?」
「うん!だってカッコいいじゃん!」
…ああ、なんかそう言うと思ってた。
「ランダルもこう言っておる。よろしく頼んだよ。」
爺さんがそう言うと近くにあった椅子に腰かけた。
「さて、そろそろ日も暮れる。ランダルも君も、そろそろ帰った方がいい。暗くなるとこの森は危ないからの。」
それを最後に爺さんは夕焼け空を見上げ、黙りこくってしまった。
「んじゃ、行くかランダル。教えんのは明日でもいいだろ?」
「うん!よろしく姉ちゃん!」
そんなランダルと取り留めもない話をしながら帰路につく。
なんか懐かしいな。母さんともこうやって、家に帰ったっけ。
―――
「あー…疲れた。」
すっかり夜も更け、今はベッドに横になっている。
一緒のベッドにはメリアが座り、濡れた髪を乾かしていた。
「ねえセルナ、あの二人に【魔法】を教えるって本当?」
少し紅潮した頬、僅かに濡れた綺麗な緑髪で、メリアは俺の隣に横になった。
イーナが作った石鹸を使ったからか、気持ちの良い匂いが漂ってくる。
…なんか色っぽいな。
「ああ、本当だよ。爺さんに頼まれてさ。断る理由もないし。てか、誰から聞いたんだよ。」
「ランダル君だっけ?あの子が嬉しそうに言ってたわよ。それで、あたしは?」
「…いや、教える必要ないだろ?杖が無くても【魔法】使えるのに。」
「違うわ。全然違うのよ。ほら、この前ルビアも使ってたじゃない。杖を使って、変な光線出してたじゃない。【赤竜】が【人間】に擬態しても、普通あんなの出せないわ。」
メリアが言っているのは【アンヴィーラ】で行われた大会での事だろう。
おかげでカンナも助けられたし、イーナには感謝してもしきれない。
「あのね…言ってる意味わかる?ルビアは【赤竜】なのよ?あの【人間】と一緒にいるから大人しいけど、それでも【魔獣】なの。」
「いや、それなら…」
お前だってそうだろうと言いかけ、メリアの顔を見る。
すると…
「なによ、確かにあたしは【緑竜】で【魔獣】よ。けどね…」
キシリと、ベッドが軋む。
「それ以上に、今のあたしは女なの…言いたいこと、分かるわよね?」
艶やかな唇、潤んだ瞳、火照った体。
そのすべてを包み込む。
「来て…セルナ。」
そして―――
「…セルナさん、お風呂あい―――」
カンナがドアを開けた。
いつもと変わらない表情で長い髪をタオルで雑にふきつつ、抱き合っている俺とメリアを凝視していた。
…そういや、まだ風呂入ってなかったっけ。
早く風呂に入らないとなーとかそんな現実逃避をしていると、なにか納得したような雰囲気でカンナが言った。
「…今日は、イーナさんの所で寝ます。ごゆっくりどうぞ。」
「ごゆっくりってなんだよ!?ちょっと待―――」
廊下に出ても、もう姿はない。
さっさとイーナの部屋に向かったのだろう。
「はぁ…またイーナにからかわれる…」
「いいじゃない、見せつけてやりましょ。それに、あんな【人間】なんて放っとけばいいのよ。」
「いや、でもな…」
「もう、そんなセルナは…こうよ!」
ふわりと、一瞬の浮遊感。次いで、背中に軽い衝撃が。
どうやら、ベッドまで投げ飛ばされたらしい。
「ふふふ…逃がさないわよ、セルナ。」
ベッドに投げ飛ばされた所に馬乗りにされた。
メリアの目は充血し、まるで捕食者の様だ。
く、喰われる…!?
「…なあ、メリア。ちょっと話があんだけどさ。」
はい、どうだったでしょうか。
今回はセルナさんの視点、全話で気絶して目覚めた時点からの開始です。
作内時間で数か月程度に行ったことが、今になって報われていますね。
それと、森の中でかなり昔から暮らしていた、しがない【エルフ】のお爺さん。
果たして、彼は一体何者なんだー(棒
そして、喰ったり喰われたりしている【緑竜】さんとセルナさん。
どうやら、セルナさんはなにやらお悩みがあるそうです。
次話はそのうち…
感想、意見、その他諸々、お待ちしております。