第七十八話・夜は静かに眠りましょう
はい、第七十八話投稿いたしました。
なんだか、一話ずつの更新間隔が広がってきたように思えます。
一か月ごとの更新とか、コロコロコミックを彷彿とさせますね。
それでは、第七十八話始まり始まり…
アプライドを発ってから数日。
クロさんに馬車を牽いてもらい、道中はやっぱり何事もなく進むことが出来ました。
【家族】と一日を過ごし【家族】と寝食を共にし、そして【家族】と一日を終える。
やはり【家族】と一緒に旅をするというのは、筆舌に尽くし難いですね。
もちろん【緑竜】がいるのは苦痛以外の何者でもありませんけど。
そして…
「ようやく着きましたね。まあ、ここに来るのも二度目ですけど。」
私がそう言うと、セルナが呆れたような声で言いました。
「あんときは大変だったな。お前が骨折したりして。てか、あのゴーレムって結局なんだったんだ?」
そういえば、そんなこともありましたね。
「それも、先に進めば分かりますよ。クロさん、お願いします。」
クロさんが嬉しそうに喉を唸らせ、馬車を牽きながらノシノシと歩いていきます。
―――
「…なあ、前来た時にこんな道なんてあったか?」
「いえ、ありませんでしたね。もっと木が茂っていました。」
セルナが言ったように、以前この森に入ったときは、こんな真っ直ぐで切り開かれた道なんてありませんでした。
しかし、今では道が切り開かれ、軽々と馬車が通れるような広さが確保されています。
「でも、誰がこんなことしてんだ?この森って、人が入るような場所じゃないんだろ?」
「いえ、人は入ってきますよ。しかし、こう大掛かりな作業なんてできないでしょうね。」
特に、こんな森の伐採なんて大掛かりな作業を行ったとしても利益が少ないでしょうし。
行う意義が見当たりません。
「じゃあ…誰がやったんだ?」
「この先にいる人じゃないですかね?」
「こんな場所に人がいんのか!?」
「ええ、もちろんです。セルナも知っている人ですよ。」
「へぇ、俺の知ってる奴ねぇ…ん?なんだありゃ?」
セルナがそう言いながら馬車と飛び出し、それに近づきます。
クロさんがゆっくりと馬車を止め、困ったように私に唸り声を上げました。
「石碑か?でも、読めねえな。なんて書いてあんだ?」
「セルナ、馬車を降りると危ないですよ。いつ【魔獣】が出るかも分からないんですから。そんな墓石など放っておきなさい。」
まあ、クロさんもいますから【魔獣】が出たところで恐れることはありません。
しかし【家族】が怖い目に合うことはなるべく避けなければなりませんから。
「ん、わりいな。まあ、あれだ。好奇心だよ好奇心。」
セルナが明朗に笑いつつ、馬車に戻ってきました。
そして、それを確認してクロさんが歩き出します。
「ええ、好奇心はとても大事ですね。しかし、あまり調子に乗ってはいけませんよ。その内、手痛い仕返しが来ますから。」
「大丈夫だって。そんなこと―――」
何か石でも踏んだのか、馬車がガタリと大きく揺れました。
「―――っ!」
セルナに目を向けると、口に手を当ててジタバタと暴れています。
「ああ、舌を噛みましたか。まあ、その内に治るでしょう。そこの【緑竜】に膝枕でもさせて寝ていたらどうです?」
私の言葉を聞くと【緑竜】が正座をして膝に毛布を掛け、ポンポンと自分の膝を叩いています。
「セ、セルナ?ほら、あたしの膝、空いてるわよ?」
【緑竜】が頬を染めつつセルナを誘っていますね。
死ねばいいのに。
「ヒナちゃんほら!お母さんの膝ですよ!」
「ル、ルビアさん!?はわわわ…」
自分の膝に押し付けるルビアと、慌てるヒナ。
見ていて微笑ましいですね。
「…メリアさんとルビアさん、はぁ…」
それを少し離れた場所から疲れたように見つめるカンナ。
何年生きているとかは特に興味ありませんが、やはり随分と老成していますね。
そして…
「お姉ちゃん…?」
私の膝に座り、首を傾げながら不思議そうな顔でこちらを見ています。
半身とも形容できるこの少女が、どうしようもなく愛おしくて仕方ありません。
「いえ、なんでもありません。それより、揺れると危ないですからもっとくっ付きなさい。」
私がそう言うと、リリウムの体がさらに密着し、心地よい暖かさが伝わってきます。
「まったく、平和ですね。」
この抜けるような青空の下【家族】と共に旅をする。
これ以上に幸せなことなど、数えるほどしかないでしょう。
「そうですよね?セルナ…」
「セ~ル~ナ~?ほら、あたしの膝が空いてるから、遠慮しなくてもいいのよ?」
「恥ずい!恥ずいから!カンナとイーナが見てっから!」
【緑竜】がセルナの襟首を掴んで引きずり倒し、頭を無理矢理に自分の膝に押し付けてホールドしています。
「お姉ちゃん…お兄ちゃん大丈夫…かな…?」
リリウムがそんなことを聞いてきました。
「大丈夫ですよ。セルナはああ見えて喜んでますから。夜にセルナが声を出してうるさい事が何度かあったでしょう。それと同じですよ。」
「イーナてめぇ!なんてこと教えてんだ!」
セルナが真っ赤な顔をして文句を言ってきました。
事実を言ってなにが悪いんでしょうね。
「…セルナさん、その…もう少し声、抑えた方がいいよ?」
「…うわあああああ!」
カンナの言葉を聞いてから数秒の間をおいた後、発狂したかのような声を上げて気を失ってしまいました。
「お兄ちゃん…どうかしたの…?」
「恥ずかしいことでもあったのでしょうね。その内に起きますよ。」
私の過去など誰も知らず、この異世界で【家族】と共に暮らしていく。
幸せですね、本当に。
はい、どうだったでしょうか。
今回は移動回です。
次への繋ぎと言うか、そんな感じです。
もうちょいとお待ちくだされ。
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