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私が行く・異世界冒険譚  作者: ちょめ介
蒔かれた種はどんな木に育つのか
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第七十七話・お引っ越しは大変です

はい、第七十七話投稿いたしました。


あけました、おめでとうございます。


本年度も変わらず、変な更新速度になるかと思いますが、よろしくお願いします。


第七十七話始まり始まり…

リリウムたちのいる部屋に向かっていた兵隊を皆殺しにして、再びカンナのいる玉座の間に戻ってきました。


まあ、時間にして数分程度ですから、そこまで待たせたわけではありませんけど。


「では、言い訳の準備はよろしいですか?」


私がそう言うと、王様が俯きつつ言いました。


「…いや、言い訳など出来るはずもない。処断は受け入れよう。すまなかった。」


「なぜだ!兵を動かしたのは私だ!王は何もしていない!」


虹色の蔦に縛られた男が何やら叫んでいますが、一体何を言っているのでしょう。


「なにを言っているんですか?部下の失態は上司の責任ですよ。そうですよね?王様。」


「…ああ、その通りだ。イーナは国賓と言ってもいい立場だ。それを傷つけたんだ。どんな理由であれ、処断は免れない。」


「そ、そんな…」


「まあ、そんなことは後でいいです。先に自治権の話を終わらせましょうか。ほら、座ってください。」


私がそう促すと、王様は何とも言えない表情を浮かべて元の場所に座りました。


「それで、もう書類作製は終わっているんですか?」


早く書類にサインでもして【家族】の元に帰りたいんですよね。


こんなつまらない場所にいるより、よほど有意義です。


「ああ、もう終わっている筈だ。あと少しだけ待っていてくれ。」


王様にそう言われて少しだけ待っていると、扉がゆっくりと開きました。


「失礼します。仰せられた書状をお持ちしました。」


そう言いながら扉を開けたのは、初めて見る男性と私をこの部屋に連れてきてくれたメイドさんでした。


質素ながらも所々に装飾が施された、一目見るだけで上の方の役職についているような。


その男性が、王様に何枚かの紙を手渡しました。


同伴していたメイドさんは、どこか青い顔をしながらこちらをチラチラと見ています。


「どうかしました?そんな殺人現場でも見たような顔をして。」


何か驚愕したような表情で私を見たメイドさんは、ギクシャクとした動きで扉まで行き、一礼をして部屋を出ていきました。


【レーダー】に反応があったのは彼女ですかね?


見られましたか…まあ、いいでしょう。


「それが自治権に関する契約書ですか。見せてもらっても?」


王様から受け取った契約書の内容を噛み砕くと、こんな風に纏まりました。


1.アプライド東部に位置する森の自治権をアプライド王より契約者に下賜する。


1.自治権は契約者が生存する限り有効である。


1.以上の契約はアプライド王と契約者双方の合意によって行われたものである。


そして、契約書の下の部分に名前を書き込む欄が二つありました。


下賜というのが気に食いませんが、まあ気にするほどの事でもないでしょう。


それにしても、随分とまあ…


「こちらに有利な契約ですね。私としては構いませんが、いいんですか?」


「それについては、俺が説明しよう。この国の宰相を務めている。バラールだ。以後お見知りおきを【No.9】殿。」


バラールと名乗った男性は、何か値踏みをするように私を見つつ、そう言いました。


ああ、そういえばそうでしたね。


暇つぶしがてら取ったようなものなので、気にするほどの事でもないんですよね。


「いえ、宰相様。随分とこちらに有利な契約のようですが、本当によろしいんですか?」


「構わんさ。王からも聞いたが、あの森に価値はない。それに、あの森は立ち入り禁止にするつもりだ。」


「そうですか。ところで、私が死んだとかの確認はどうするつもりです?いちいち私が出向くつもりはありませんよ?」


「それに関しては月に一度、騎士団を派遣する。そこで【No.9】殿の生死確認をしよう。」


ああ、なるほど。


私が死んでも死ななくても特に利益も損失もない。


それどころか…


「ああ、それと最後に一つ。この契約を公にするつもりはありますか?」


「…それが?」


「いえ、別に何も。特に問題もないのでサインをしましょうか。」


むしろ私を抑止力にでもするつもりでしょうか。


あの大会の時に色々あったとはいえ、周囲から私は【No.9】として認識されています。


それにルビアは【No.6】です。


【No.】最上位が特定の場所に住み着けば、どういった影響がでるんでしょうね?


まあ、向こうの思惑なんて知ったことではないですし、どんな影響がでても知ったことではないんですがね。


【家族】に被害が及ぶのなら、その限りではありませんが。


「…そうか、それならいい。王、この場所にサインをお願いします。」


まず王様が契約書に名前を書き込み、次に私の名前を書き込みました。


そして、同じ文面の契約書にも同じように名前を書き込み、それぞれを私と王様に差し出してきました。


「これで、このお城に来た目的は終わりましたね。次は…」


虹色の蔦で縛られ、床で転がっている男を見下します。


「…ところで、だ。どうしてこいつが床で転がっているんだ?しかも…なんだ、この縄は?」


宰相様が男を縛っている虹色に光る蔦を触りつつ、足で蹴飛ばしています。


なんでしょう。


あの男は嫌われていたんでしょうか。


「いえ、私を殺そうとしたので。その男の処理もしないといけないんですよ。」


「ふーん、いいんじゃねえの。こいつ嫌いだったし。」


そう言いながら適度に男の腹を蹴りつつ、話を進めていきます。


あ、吐きました。


「戦争推進派なんだよ、こいつ。王の意向を無視して会議の時にはいつも戦争戦争って。目障りになってきたからな。丁度いい。国賓相手に暗殺未遂だろ?死刑だろうな。」


それだけ言うと蹴るのを止め、虹色に光る蔦を握って男を持ち上げ、私に突き付けてきました。


男は見事に気絶していますね。


「ほら【No.9】殿。どうせ死刑なんだし【No.9】殿が殺してやればいい。ほら、さっきもやっていただろ?」


なるほど、さっき見ていたのは宰相様でしたか。


「いえ、そうしたいのは山々ですが、ここはやはり…」


座って黙りこくっていたカンナに話しかけます。


「カンナ、剣を出してください。」


「…剣?…これでいい?」


カンナがそう言うと、音を立てずにいつの間にか一本の剣が床に刺さっていました。


シンプルでゴテゴテとした装飾のない、至って普通のショートソードです。


まあ、刀身から柄の先まで虹色に光っていますが、気にするほどでもないでしょう。


「ええ、ありがとうございます。」


ほんの少しの抵抗もなくスルリと抜けたその剣は、手に取ってみても全く重みを感じませんでした。


「では王様、どうぞ。」


「…これは?」


その剣を渡そうとすると、今まで静観していた王様は何か疑問に思ったようです。


「ええ、私が殺してもいいのですが、やはりそれはいけませんね。この男が行った所業は間違いなく国家反逆に通じます。王様自身の手でやるのです。」


「しかし、それは…」


「やるのです。やらなければなりません。国の威信を賭けてでも、この男を殺さなければなりません。」


「…」


「それでは、私たちは部屋に戻ります。カンナ、行きますよ。」


「…うん、わかった。」


王様と宰相様、無能な男と無能な家臣共を背に、私たちは部屋を出ます。


少し歩くと、私たちが出てきた部屋からは、何かが落ちたような音が聞こえてきました。




―――




「…ねえ、イーナさん。」


「どうかしましたか?」


王様達のいた部屋を出てリリウム達のいる部屋に向かう途中、カンナに呼び止められました。


「…ビックリしたよ。本当に、死んじゃったかと思った。」


「ええ、私も驚きましたよ。体ではなく、心に作用する毒があるなんて知りませんでしたから。」


「…え?」


カンナが驚いたような表情で私を見つめます。


「…でも、その解毒剤は。」


私の懐を指差して、小さい声で言います。


懐から試験管を取り出し、カンナに見せつけました。


「こんなの、ただの水ですよ。大体、見た事も聞いた事もない毒に解毒剤など作れるはずもないでしょう。飲みますか?緊張して喉が渇いたでしょう。」


実際、あの男が【魔薬】と言った薬は、私にも十二分に作用していました。


ああいった経験は初めてでしたから、新鮮でしたね。


まあ、もう効きませんが。


「…でも、心に効く毒って?」


「言葉通りですよ。ジワジワ心を冒して、取り返しのつかないほどに崩壊させる。普通なら、まあ、死ぬまでそのままですね。」


「…じゃあ、イーナさん、どうして。」


カンナが、不思議そうな顔で尋ねてきます。


「分かりませんか?もうすでに壊れているんですよ。私の心なんて。」


「…え?」


「一度壊れた物は、もう二度と同じ形には戻せません。それと同じです。壊れた物を壊そうとしても、それ以上壊せませんよ。」


「…壊れてるって、どういうこと?」


「だって、そうでしょう?ここまで百を超えるくらいの【人間】を殺してきましたが、特に何とも思っていません。」


私に殺意を向けた敵は嬲り殺し、私の【家族】に殺意を向けた敵は即殺し。


何度も何度も行おうと、後悔も悔い改める事を微塵もしない。


そんな人間が、平常なわけがありません。


「これからも、特に何も感じずに殺し続けるでしょうね。私が私で在り続ける限り。」


カンナの頭を撫でつつ、そう言います。


その肩は震え、目からは涙を流していました。


「怖いですか?それはそうでしょう。こんな狂った人間と一緒にいるなんて。」


「…ううん、違うよ。なんだか、悲しくなって。」


涙を流しながらそう言うカンナは、見た目相応の少女のようです。


「そうですか。それは尊ぶべき感情です。しかし、それは私なんかではなくセルナに向けてあげなさい。」


それだけ言い、カンナを撫でるのを止めます。


「さあ、行きますよ。きっと待っているでしょう。これから少し忙しくなりますよ。」


カンナの涙を拭い、歩き出します。


「…うん。分かった。」


何かを決心したかのような表情で、私の後を着いてきます。


まったく、子どもの成長を見ていくのは微笑ましい限りですね。




―――




カチャリと扉を開けると、私の体に何かが勢いよくぶつかってきました。


それは私と同じくらいの背で、白い髪をしていて…


「お姉ちゃん…大丈夫だった…?」


リリウムが、ギュッと私に抱きついてきました。


その体はとても暖かく、心地よく、今までの面倒な出来事を全て忘れてしまいそうになります。


「どうしました。そんなに寂しかったんですか?」


「ううん…違うよ…」


私に向けたその眼には、なんだか怯えたような色が浮かんでいます。


「それなら…何か、悲しいことでもありましたか?」


ゆっくりと、リリウムが頷きました。


目の周りは赤く腫れ、今まで泣いていたのがすぐに分かります。


「泣くほど怖かったんですね。今日も一緒に眠りましょうか。私と眠れば、怖くないでしょう?」


再び、リリウムがゆっくりと頷きました。


「んで、何を話してきたんだ?どうせお前の事だから、また碌でもない事なんだろうけどさ。」


セルナがニヤニヤと口元に笑みを浮かべながら、そう言ってきました。


「碌でもないとは心外な。私でも、偶には有益な話もしますよ。」


そう言いながら、王様から渡された契約書をセルナに見せつけます。


「ん?なんだこ…」


その契約書を読んだ途端、セルナが固まりました。


「あ、え!?これ、いや、ホントにか!?てか何したんだよ!」


「私が行った仕事に対する正当な見返りを求めただけです。別に、脅迫なんてしていませんよ。」


「…したんだな?」


「まあそんなことより、早くここを出ましょうか。用事もすみましたから。」


ジトッとした目で、私を睨んできました。


「はあ…分かったよ。んで、どこに行くんだ?」


「いえ、この森ですよ。これから当分住むことになりますから、物資も買わないといけませんね。」


「は?」


「家は…まあ、なんとかなるでしょう。目的地まで、早ければ2、3日で着くと思いますから。」


「ちょっと待て!もっとこう…周りの意見も聞けよ!」


私が話し続けていると、セルナが大声で割り込んできました。


「周りの意見ですか?それもそうですね。」


椅子に座っていたルビアと、ルビアの膝に座り頭を撫でられていたヒナに聞きます。


「ルビア、ヒナ、これからしばらく森に住むことになりますが、いいですか?」


「もちろんです!何があろうとイーナさんと一緒です!」


「は、はい!私もです!」


ルビアはキメ顔で即答し、ヒナは続くように慌てて言いました。


「ですって、セルナ。」


「そうだよな!お前らはそういう奴だったよ!」


「ね、ねえ、あたしは…?」


「【緑竜】には聞いていませんよ。まさか、来るんですか?」


「あ、当たり前じゃない!セルナが行くんなら私も行くわよ!」


「セルナは着いてくるとは言っていませんよ。それで、セルナはどうするんですか?」


セルナに聞くと、言葉を選ぶようにして答えました。


「いや、まあ…別にいいんだけどさ。イーナに着いてくのも、そこで暮らすのも文句ねえし。けど…」


そこで言葉を区切り、少し考え込んで言いました。


「…まあ、いいや。行くんなら行こうぜ。メリア、カンナ、いいよな?」


「…うん、私はいいよ。」


「言ったでしょ。あたしは、セルナが行くんなら行くって。」


どうやら、決まったようですね。


「それでは行きましょうか。クロさんも待ちくたびれているでしょう。」


そう言いながら、お城を後にします。

はい、どうだったでしょうか。


今回で主人公の目的が判明しました。


アプライド北西部に位置する広大な森の自治権を要求し、無事にそれを手に入れることができました。


そろそろ、この章もクライマックスですかね。


…まったく、何年かかったことやら。


感想、意見、その他諸々お待ちしております。


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