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私が行く・異世界冒険譚  作者: ちょめ介
蒔かれた種はどんな木に育つのか
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第七十六話・過去とは逃避ではなく立ち向かうもの

はい、第七十六話投稿いたしました。


前回の投稿から60日…私は帰ってきたぞおおぉ!


年末で年の瀬のこの日に、私は復活したのだ!


…いや、すみません。


本当にすみません。


お気に入り登録をしていただいている皆様に長い間放置プレイをさせてしまい、申し訳ありませんでした。


そういうことで、第七十六話始まり始まり…

この国の王様が、机を囲んでいた一人の【人間】の襟首を掴み、何かを問い詰めている。


「何をした!さっきのお茶だな!?一体何を入れた!」


「この【人間】は危険すぎます!国を救ったことを恩に着せ、挙句の果てには国を奪う!」


けれど、そんなものは耳に入らなかった。


イーナさんが、死んだ。


目からは光が失せ、全身から力が抜けたように椅子に凭れかかっている。


呼吸一つせず、瞬き一つしない。


「そんなことはどうでもいい!何をしたかと聞いているんだ!」


「心を壊す魔薬を入れました。この【人間】は、最早ただの抜け殻です。そこの【エルフ】には効かなかったようですが…」


「なんてことを…」


「部屋にいる他の仲間共の下にも兵を向かわせました。この城から、生かして帰しません。」


私を、助けた【人間】が。


昔の私を、殺してくれた【人間】が、死んでしまった。




―――




私が気が付いた時には、既に暗闇の中だった。


産まれてからずっと薄暗い部屋に独りぼっちで、あるのはたくさんの本だけ。


一日に二回だけ、耳の長い人が私のいる部屋に食事を届けてくれた。


その人と少しだけ話をして、私も【エルフ】という種族だと分かった。


どんな生き物よりも【魔力】に富み【魔法】で全てを蹂躙し、様々な【魔具】を創り出し、あらゆる頂点に位置する。


暗い中で、その人に色々と聞かされた。


けれど、母親もいなくて、父親もいなくて、姉も、妹も、兄も弟も。


私以外は何も居なかった。


薄暗い中だけど、どうしてかキラキラと光る粒が視えた。


触ってみると、どこか暖かくて、どこか冷たくて、どこかフワフワしてて、どこか固くて。


なんだか不思議な粒で、たくさん集めて固めると、結晶のようにサラサラになった。


それも、私の眼で動かせて、それは形になった。


私の眼の動きに追従して、自由に動かすことができる。


でも、ただそれだけ。


扉を壊す武器にもならなければ、部屋を出る鍵にもならない。


本当に、意味のない力だった。


次に気が付いた時には、狭い狭い檻の中にいた。


首輪が嵌められ、手足が拘束され、満足に動くことも叶わない。


周りには同じように拘束されている【人間】や【亜人】もいた。


子どもも大人も、性別も年齢も、種族も何も関係なく、すべてが平等に檻に入っていた。


粒を結晶にして遊んでいるのを【人間】に見つかると、目隠しをされ、本当に真っ暗な世界がやってきた。


それでも、キラキラと光る粒だけは、以前と変わらずに視ることができた。


真っ暗な中に、人の形をした光る粒だけがキラキラと。


種族によってそれも違って、光が強い人も弱い人もたくさんいた。


特に、子どもの輝きが強くて、大人になるほど輝きが弱くなることも分かった。


だからといって、どうということはない。


それが視えたところで、私自身にはどうすることもできない。


本当に、無駄な力だった。


それから少ししたら、檻から出された。


引きずり出され、ガヤガヤと騒がしい所に連れ出された。


例え目隠しをされていても、光がたくさん視えた。


どれもこれもが、鈍く、汚れたようにくすんで光っている。


今までに視えた光と同じ、黒く滲んでばっかりだった。


その中でキラキラと光っていたのは、ただ一人。


今までの人とは全然違う【亜人】だけが光り輝いていた。


広い暗闇の中に煌めく太陽のように、圧倒的に。


そのせいか、最初で最後に信じてみたくなった。




―――




あの【人間】と出会ったのは、その後だった。


セルナさんに手を引かれ、年季の入った宿屋に連れてこられた。


部屋に入った【亜人】に続くとその中には、一緒に椅子に座っている赤髪の女性と白髪の少女、ベッドには【亜人】の少女が寝ていて、少し離れた所に緑髪の女性、それに…


「セルナ、お帰りなさい。その子が件の【エルフ】ですか?」


黒髪の少女がそこに立っていた。


その少女は、見た目はいたって普通の【人間】だった。


そう、見た目だけ《・・・・・》は…


「あー…メリアに聞いたのか。悪かったな、金使っちまって。」


「別に構いませんよ。どうせ使い道に困っていたところです。」


「いつか必ず返すからさ、今は貸しといてくれよ。」


「別に気にはしませんが…まあ、気長に待ちますよ。」


【亜人】と気さくそうに話すその【人間】は、真っ黒だった。


滲んで、鈍く光るとか言う話じゃない。


光を呑み込む闇がそのまま這い出してきたような、本当に真っ暗で。


【人間】の形をしている、無限の闇の現れだった。


「なあ、この首輪って外せねえか?」


私の首を指しながら【亜人】が【人間】に聞いたようだった。


どうにもおかしかった。


この首輪が嵌められると二度と外すことができない。


無理やり首輪を外そうとした【亜人】や【人間】が、苦しんで、血を吐いて、暗闇の中で死んでいった。


でも、それでもよかったのかもしれない。


暗闇から引っ張り出されて、光の下に出ることができたのだから。


もう死んでも、後悔はなかった。


「ふぅん…」


チラ、と黒髪の少女がこちらを見た。


底の見えない、沼のような闇が私を覗いている。


そう考えると身が竦み、動くことすらままならなかった。


「別に構いませんよ。動かないでくださいね。」


そう言って、いつの間にか右手にあった【魔具】を起動させた。


暗い闇のくせに、その【魔具】から伸びた薄青色の光だけは、妙に綺麗だった。


その光が首筋を撫でると、今まで体に在った不快感があっさりと、唐突に消えた。


「これで首輪の効果は消滅しました。あとはナイフででも切ってください。」


黒髪の少女がそう言うと、興味が失せたかのように私から離れてった。白髪の少女に近づいていった。


「ん、ありがとな、イーナ。」


「いえ、手間でもないですから。それより、少し出かけてきます。夜までには戻りますから、それまで自由にしていてください。」


その後に黒髪の少女は、白髪の少女と数分間抱き合い、部屋から出て行った。


今まで竦んでいた足も動くようになったが、フラッと立ち眩んでしまい、傍にいた【亜人】の服の裾を掴んでしまった。


「お兄ちゃん…その子…は…?」


その声がする方を視ると…


そこにも、居た。


真っ黒な闇黒と、真っ白な光白が半分ずつ在って。


嫌だ、視たくない、もう、暗闇を視るのはたくさんだった。


【亜人】を盾にして、白髪の少女が視界に入らないようにしたけど、それでも怖い。


真っ暗で、全く意味の分からない黒髪の少女】と違って、この子は半分だけ意味が分からない。


混じり合いもせず、きっかり半分ずつ。


だから怖かった、恐ろしかった。


今にも浸食をされそうな、体の震えが止まらなかった。


「どうした…の…?」


どことなくこの白髪の少女は、あの黒髪の少女の面影があった。


あの【人間】を姉と呼んでいるからには、姉妹なんだろう。


理解ができる範囲で意味が分からない。


駄目だった、震えが止まらなかった。


震えが止まらなくて、怖くて、恐ろしくて、目の前が真っ黒になって―――




―――




気が付くと、私を救ってくれた【亜人】が血塗れになっていた。


お腹には虹色に輝く槍が刺さっていて、ドクドクと血が流れ出している。


そして、その【亜人】を潰そうとしているかのように、巨大な丸い虹色に輝く結晶が浮かんでいる。


私が、これをやったの?


知らない、覚えていない、分からない。


私が知らなくても、輝く結晶が容赦なく落ちてくる。


止めないと。


でも、体が動かない。


止まれ、止まれ。


止まらない、止められない。


止まれ止まれ止まれ止まれ。


そう、心の中で言い続けていた時に―――


「まったく、だから言ったんですよ。セルナ。」


緑色の閃光が、虹色の輝きを塗り潰した。


その残渣が消えると、そこには…


「人を簡単に信用するな、そう言ったでしょう?」


禍々しく緑色に発光する粒子を纏った【魔具】を右手に持ち【亜人】を眺めている、黒髪の【人間】がいた。


「躾のなっていない子どもは、躾をしてあげませんと。大きくなってから大変です。」


【人間】が懐から紙を取り出して【亜人】の胸に落とすと、眩い光とともにその身体が修復されていく。


「ああ、そんな顔をしなくてもいいですよ。【魔力】を使って身体を治す。いたって普通の【魔法陣】です。」


【人間】が、こちらを向いた。


無表情で、無感動で、何を考えているのか分からない。


だから、恐ろしかった。


「よかったですね。セルナが死なずに済んで。もしも死んでいたら、あなたを殺してしまうところでした。」


恐怖が迫ってくる。


怖い、息が苦しい。


「まあ、こうなったのはセルナの責任です。セルナが死んでも、それはセルナの自己責任です。しかし…」


【人間】が目を細めてそう言った。


初めて見た、感情を露わにしたような表情だった。


けれど、不思議と恐怖は感じなかった。


そして、いつの間にか右手に持っていた【魔具】が消え、別の【魔具】が出現していた。


その【魔具】は、私の首輪を破壊した青い光ではなく、透き通るような蒼色の光を発している。


「私の【家族】に手を出したことは許せません。あなたはまだ子どもですし、セルナも死んでいません。なるべく殺しはしませんが、それ相応の報いは受けてもらいましょうか。」


ドン!と何かが爆発するような音がした瞬間に、ガキン!と甲高い音と共に目の前に何かの塊が突き刺さっていた。


そして、いつの間にか左手に持っていた【魔具】からは、白い煙が立ち上っている。


「子どもとはいえ、流石に【エルフ】ですか。この程度では【魔力障壁】を貫けませんね。誇ってもいいですよ。大抵はこれで致命傷ですから。」


「…なに、それ?」


「今のあなたに答える義理はありませんね。面倒です。」


その【魔具】からは、ほんの僅かも虹色の粒子が視えない。


だけど、強烈な恐怖感が、痛いほどの威圧感が伝わってくる。


怖い、怖い、怖い。


「抵抗するならしてもいいですよ。まあ、無駄ですけど。」


目を瞑ると、沢山の光る粒が浮遊しているのが視える。


【人間】の周りには一切無いけれど、そこ以外には満ち満ちている。


収束させて、圧縮させて、現出させる。


そして【人間】の目の前に…


「ああ、なるほど。【魔力】を操るとは便利なものですね。直接操作して、何時でも何処でも不意打ちとは。なるほど、凶悪です。」


【人間】が右手の【魔具】を振るうと光る粒が唐突に消えた。


跡形もなく、一切の残渣も残らずに消滅した。


「ほら、ボーッとしない。怪我をしますよ?」


瞬間、右手の【魔具】を振りかぶり、目の前に立っている。


壁を―――


「だから、無駄ですって。」


虹色に輝く壁を、蒼い光剣が溶かすかのように消していく。


そして、それが私の体を切り裂いて―――


「…?」


なんともない。


確かに体を貫通したはずなのに、切り傷一つ無いうえに、全く痛みが襲ってこない。


「それに莫大な【魔力】を持つ、と。【エルフ】は皆こうなんですか?」


「…知らない。あんまり見たことがないから。」


「そうですか。私も一度見ただけです。まあ、別にどうでもいいですね。」


カチャリと


「大丈夫ですよ。セルナにも言われましたから殺しはしません。」


また、轟音が響いた。


その途端、ズキン!とお腹が痛くなった。


手を当てると、ヌルリとした感触と共に赤い液体がついている。


気づいた途端、ジクリとした痛みが、ジンジンと身体の端まで伝わってきた。


足に力が入らず、地面に倒れ伏しそうになる。


けれど…


「倒れてはいけませんよ。あなたには、少し言いたいことがあります。」


【人間】が私の首を掴んだまま、壁に押し付けてきた。


「気に入らないんですよね。あなたのその眼が、最初に見たときから。」


「……殺してよ。」


「過去に囚われて勝手に絶望して、何もかもを諦めた。そんな眼です。見ているだけでイライラします。」


ギュッと、首を絞める力が強くなった。


「…殺してったら。」


「私が怒るのもお門違いですが…まあ、同族嫌悪という物ですね。本当に、殺してやりたくなります。」


「殺してよ!」


ゴガッ!と、後頭部が壁に叩きつけられた。


一瞬、目の前が真っ暗になった。


何度も、何度も、何度も何度も何度も。


真っ暗になって、明るくなって、それを何度も繰り返した。


そして、不意に首を掴んでいた手が離される。


私の体が無造作に地面に横たわった。


「世界は優しくなんてありません。そして、世界は容易く変わる物でもありません。ならば、自分を変えるしかないでしょう?」


そう言った【人間】の意図はわからない。


でも、まるで自分に聞かせているような、そんな言葉だった。


「死な、せてよ…」


朦朧とした意識、歪む視界、地べたに這いつくばりながら、息絶え絶えに、私は呟いた。


「そうですか。それを望むのなら仕方ありませんね。」


ガチャリと、その【魔具】が額に当てられた。


瞼を閉じると、真っ暗になる。


いままで視えていた光る粒なんてどこにもない。


本当の暗闇。


「それではさようなら。暗い闇の中に、永遠に独りぼっちでいるといいでしょう。」


【人間】のその言葉に、ふと思う。


こんな暗闇に独りぼっちで?


ずっと、永遠に?


僅かに瞼を開くと、ずっと上には真っ白に輝く太陽があった。


それを見ると、急に恐ろしくなった。


今までにない恐怖だった。


戻りたくない。


あんな暗闇にずっと独りぼっちで。


もう、あの場所は嫌だ。


嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。


明るい太陽の、セルナさんの下に―――


「死にたくない!」


ドンッ!と、空気が揺れた。


目の前にはさっきと同じ鈍色の塊が、ひしゃげた形で宙に浮かんでいた。


「不思議ですね。さっきまで死にたがっていたのに、何故そうやって足掻くんです?」


「もうあんな場所は嫌なの!生きたい!死にたくないの!」


ただ、怖かった。


死ぬのが、暗闇に孤独でいるのが。


あの、太陽の様なセルナさんの下にいられなくなるのが。


ただ、生きたかった。


死にたくないから、生きたかった。


「…そうです。それでこそ、生き物ですよ。」


死にたくない。


だから、目の前の【人間】を殺さないと。


眼に視える範囲の光る粒全てを、私の目の前に集める。


「どうでもいいですけど、そのままだと死にますよ?お腹に穴が開いているんですから。」


光る粒を圧縮。


圧縮、圧縮、圧縮圧縮圧縮圧縮―――


「まったく、子どもの癇癪ですか?それに…この規模だとあなたも巻き込まれますよ?」


全てを圧縮すると、それは私の掌に収まる程の大きさになった。


それは光を発するように真っ白な球体で、綺麗だった。


でも、これなら【人間】だって耐えられるはずがない。


「聞く耳持たずですか。まあ、いいでしょう。そうやって失敗を重ねて成長をする。大切なことですね。」


それを【人間】に投げつけた。


【人間】はさっきと変わらず自然体で―――


「死んじゃえ!」


球体の周りの圧縮を少しだけ、ほんのちょっとだけ緩める。


亀裂が生じ、虹色の光が漏れ出す。


それを切っ掛けにして、光が溢れた。


【人間】を呑み込んで、地面を呑み込んで、空を呑み込んで、そして私も呑み込んで。


光に呑まれたその【人間】は、少しだけ微笑んでいて―――


途轍もない衝撃に踏ん張ることもできず、吹き飛ばされる。


けれど、再びの衝撃と共に、背中に何かがぶつかった。


私には、半透明な四角い箱のような物が被さっている。


それにも亀裂が入り、甲高い音と共に崩壊する。


唐突に、光が消えた。


静寂と共に、私の眼にはいつもと変わらない虹色の粒が浮遊しているのが視える。


「まったく、無茶をするものです。私でなければ死んでいましたね。まあ、全くの無傷ではないですけど。」


かけていた眼鏡をポケットにしまいながら、倒れている私に近づいてきた。


そう言う【人間】は、服の端が焦げていて、所々に擦り傷が目立っていた。


「あなたもですよ?【魔法陣】を使わなければ、きっと死んでいたでしょう。それに、周りの建物も崩壊していたでしょうね。まあ、それも壊れてしまいましたが。」


ボロボロになった紙切れを片手に持って、さっきと変わらずに微笑みながら、そう言った。


「あなたは瀕死で、私はほぼ無傷。これがどういう意味か分かりますか?」


殺されるんだ。


素直にそう思った。


「死に、たくない…」


もう、碌に声も上げられない


掠れたような声で、そう言った。


「大丈夫ですよ。あなたは殺しません。それに、死にもしません。」


パサリと、血が流れるお腹の上に紙切れが落ちてきた。


「【家族】を傷つけた報復は、あなたを撃った時点で終わっているんですよ。その後の行動は、私の個人的な事です。」


その紙が光を帯びてきた。


眼を閉じてその紙を視ると、光る粒が吸い込まれているのが分かった。


「死にたがっている生き物など生きている価値はありません。ただの物体です。あなたがあの時のまま、死にたがるのなら躊躇なく殺していたでしょう。」


ゆっくりと、お腹の傷が塞がれていくのが分かる。


くすぐったい様な、ムズムズとした心地よい感触だった。


「しかし、あなたは生きたいと、そうハッキリ言いました。死にたくないからという理由ですが、それで充分です。そもそも、子どもなどあまり殺したくはありません。」


痛みが無くなって、途端に瞼が重くなった。


頭の奥がボヤッとして、全身の力が抜けてくる。


「その【魔法陣】は馬鹿みたいに【魔力】を消費します。もう眠いのでしょう?次に起きたら、もう死にたがる事の無いように期待しますよ。」


そして、目の前が真っ暗になって―――


「あなたは死なせませんよ。どれだけ痛くても、どれだけ苦しくても、どれだけ死にたがっても、治して生かしてあげます。」


そんな言葉を最後に、私は暗闇に落ちて行った。




―――




暖かい、温もりの中で目が覚めると、薄暗い部屋の中にいた。


体を起こして窓の外を眺めると、もう夜らしい。


「…ここは、どこ?」


隣には、動物の耳が付いた人…セルナさんが眠っていた。


それともう一人、緑色の髪の女性がセルナさんに抱きついて眠っている。


「ああ、目が覚めたんですね。死にたくはなっていませんか?」


声が聞こえたほうを見ると、椅子に座った【人間】が月明かりに照らされながら本を読んでいた。


「…ここは?」


「あなたが昼間来た部屋ですよ。それで、体の調子はどうです?」


「…うん、なんともない。」


「それはよかった。セルナもその内に起きるでしょう。その【緑竜】も起きてはいますが…まあ、放っておいていいでしょう。」


緑色の髪の女性がピクリと動き、ムクリと体を起こした。


「…なんで分かったのよ。」


「そのまま寝ていても構いませんよ。あなたと話していると不快ですから。もし起きているのなら黙っていてください。私は、この【エルフ】と話したいんです。」


「相変わらず、あんたムカつくわね。」


「あなたに好意を向けた覚えもありませんし、好意を向けられる覚えもありませんが?」


「やっぱり、あんたの事は嫌いだわ。」


「ええ、私もあなたの事は大嫌いですよ。」


フン、とその女性はセルナさんの腕に抱きつき、寝息を立て始めた。


「さて、邪魔者は消えましたから続けましょうか。」


「…ねえ、その人を【緑竜】って?」


本で読んだ覚えがあった。


あらゆる【魔獣】の頂点に位置し、それが一体いるだけで図り知れない被害が出る。


【竜】という、天災といっても過言ではない【魔獣】の一角。


「大丈夫ですよ。その【緑竜】はセルナにベタ惚れですから。あなたがセルナを殺していたら殺されたでしょうね。まあ、その前に私が殺しますが。」


その言葉が私に向けてなのか【緑竜】に向けてなのかは分からなかった。


「お姉ちゃん…ここにいるの…?」


カチャリとドアが開いて、白髪の女の子が姿を現した。


「ええ、ここにいますよ。すみませんが、リリウムを寝かしつけてきます。話はまた今度しましょう。」


「…ねえ、その子とあなたって、姉妹なの?」


「…なぜ、そう思ったんです?」


黒髪の【人間】は、私に背を向け、リリウムと呼ばれた白髪の少女の方を見ながら、そう言った。


「…だって、あなたとその子、すごく似てるから。」


最初に白髪の少女を見たときに、黒髪の【人間】の面影を見るほどに、似通っていた。


そう感じたからこそ姉妹だと、そう思った。


「そうですか。ならば…ええ、そうですね。私とリリウムは【家族】ですから、姉妹なんでしょうね。」


「お姉ちゃん…?」


首を傾げた白髪の少女が【人間】に問いかけた。


「あなたも、もう眠りなさい。夜も更けていますし、明日は騒がしくなりますから。」


それだけ言って、部屋から出て行った。


まるで、次の日の騒ぎが分かっていたような、言葉を残して…




―――




「…イーナさん、起きてよ。」


まるで眠っているだけのように目を閉じている。


いくら声をかけても、いくら体を揺すっても、ピクリとも反応しない。


「その【人間】はもう死んだ。それよりもお前だ!」


グイと髪を掴まれ、椅子から引きずりおろされる。


「…放してよ!イーナさんが!」


「黙れ!覚悟をしておけ!奴らを始末したら次はお前だ!」


頭を押さえつけられ、石床に顔を押しつけられた。


けれど、声が聞こえた。


もう二度と聞くことができないと思っていた、その声が。


「ところで、リリウム達の所に兵隊を向かわせたのは本当ですか?」


「ああ、本当だとも!あの【人間】が死んだときに連絡を―――」


私の頭を押さえる力が弱まった。


声のする方を見ると、いつもと同じ、特に何も感じていないような表情で、イーナさんはそこに立っていた。


「そうですか。では、殺してこないと。」


「…イーナ、さん?」


「な、なぜだ!?死んだはずだ!」


私の言葉を代弁するかのように、驚愕に満ちた表情で男が言った。


「ああ、これですよ。大体、こんな場所になんの対策もせずに来るほど不用心ではありませんよ。」


そう言って懐から何かを取り出した。


透明なガラスでできた、細くて長い二本の円筒。


確か、イーナさんが試験官と言っていた道具だ。


一本は空で、もう一本には透明な液体が入っている。


「そ、それは…!いや、ありえん!あの魔薬に解毒剤など!」


「まあ、世界は広いということですね。カンナ、その男を拘束しておいてください。あとで処理に来ますから。」


イーナさんが手を振りながら重厚な扉を開けて、外に出て行こうとする。


「ま、まて…!」


男が動く前に、その体を蔦のような虹色の物体が巻き付いた。


もちろん、私が操った【魔力】で創り出したものだ。


イーナさんは、この男が言っていた兵隊を殺しに行ったんだろう。


その証拠に、眼を閉じると下の階で【魔力】が暴れ狂ってるのが視える。


私を助けてくれた時と同じ。


「…生きてて、よかった。」


本当に、よかった。

はい、どうだったでしょうか。


【エルフ】の彼女の過去に迫った話でした。


やっぱり同族から見捨てられていて、家族も信頼できる者が誰もいなかった、少しだけ不憫で、切ない彼女の過去でした。


そして、薬を盛られて意識不明に陥った主人公ですが、当然のごとく復活しました。


やっぱり、薬は恐ろしいですね。


ちなみに、主人公のかけていた眼鏡は、この時点で壊れています。


高密度、高濃度の【魔力】を至近距離で大量に浴びたことによる【魔法陣】の損傷と、視覚化できることのできる【魔力】の許容量を大幅に超えたことによるオーバーフローです。


というか、9000字オーバーって…


それと、今日中に番外編を投稿しますので、よろしくお願いします。


感想、意見、その他諸々お待ちしております。

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