第七十五話・闇は深く深く深い
はい、第七十五話投稿いたしました。
およそ一か月ぶりの投稿となります。
寒さが深まり、体調を崩しやすい季節となってまいりました。
お風呂は肩まで浸かり、しっかりと温まってからあがるようにしましょう。
そんなこんなで、第七十五話始まり始まり…
【吸血鬼】を消滅させ、役立たずな家臣共も落ち着きを取り戻しつつあります。
これで、やっと本題に入ることができますね。
「さて、そろそろ本題に入ってもよろしいですか?長引いても【家族】に心配をかけてしまいます。」
倒れていた椅子を起こし、そこに腰掛けました。
「では、言いましょう。私が請求する物は、森です。」
「森?」
「ええ、そうです。この国の北東辺りですね。あの森の自治権を請求します。」
「自治権?なぜ、そんなものを?」
「いいじゃないですか。どうせ、経済的価値なんて微塵もないのでしょう?」
「…どうしてそう思う?」
フィリスさんが、訝しげな視線を私に向けてきます。
まあ、面倒ですけど説明しましょうか。
「以前、あの森を通った時です。森の中でおかしな現象に襲われました。」
この国に初めて来た時ですね。
「方位磁石を見ながら、真っ直ぐにこの国を目指していました。けれど、途中で進路が狂ってしまいました。」
「ああ、あの森はそうなんだ。ずっと昔からそんなことが起きる。しかし、特に経済的な価値が無いわけでもない。しかし、あの森は…」
確かに人が入り込まない分、薬草やらの自然の恵みは豊富でしょうね。
それを採取しに行く者がたまにいる位で、殆どありのままなのでしょう。
「あの森で【ゴーレム】に襲われました。かなり強力でしたね。」
「【ゴーレム】!?そんな報告はギルドから…」
「当然ですね。遭遇した全員が死んでいるんですから。行方不明者の報告くらいはあったんじゃないんですか?」
「…なるほど。こちらとしても、そんなことを聞いたからには、対処をしないわけにはいかないな。」
「それを言ったところで、命知らずの冒険者は無視するでしょう。私が適切に自治をしましょう。」
「なんだか、もうあの森はイーナの物のような口ぶりだな。」
「ええ、もちろんです。そもそも、拒否権などありませんよ?あの森以外は眼中にありませんし、必要ありません。」
王様の持っている剣も良さそうですが【魔具】なんて腐るほど持っていますし、どうでもいいですね。
「それで、どうなんですか?拒否してもいいですよ。まあ、それ相応の報いを受けてもらいますが。」
「…分かった。書類を作らせよう。しかし、自治なのだからこの国から支援などはしない。そのことはハッキリと言っておく。」
「別に、どうでもいいですよ。まあ、ちっとも必要性を感じませんが。」
有象無象の【人間】がどれだけ寄り集まろうと、所詮は塵芥ほどの価値もありません。
【魔法】を使えるだけの【人間】では、一匹の【魔獣】とすら互角に渡り合えない。
そんな【人間】に頼る価値なんかはありませんね。
「…そうか、分かった。」
王様に家臣の一人が近づき、なにか耳打ちをしました。
「お茶の用意ができたらしい。この話も一段落したし、一緒に飲まないか?」
「ええ、頂きます。カンナの分もお願いしますね。」
閑話休題
「お待たせいたしました。本日の為に用意しました、特別なお茶です。」
数分後、私たちを案内してくれたメイドさんが、お盆にカップとティーポットを乗せて部屋に入ってきました。
それにしても、不安定そうに見えるお盆を器用に持つものです。
やはり慣れているんでしょうね。
私と王様とカンナ、それと無言で座っていたばかりの家臣共にもお茶が配られました。
「どうぞ、お好みでお入れください。」
そう言われ、小さなポットが二つ置かれました。
蓋を開けると、白い液体と白い粉末が入っています。
「ミルクとお砂糖ですね。カンナはどうです?」
隣に座っているカンナにそのポットを渡します。
「…うん、イーナさんはいらないの?」
「いえ、私には必要ないです。全部使いますか?」
「…そんなにいらない。」
カンナはお砂糖を一杯入れた後、ミルクを少しだけ入れて、ちょっとずつ飲んでいます。
私も続くように飲む進めると、ふわりとした香りがいっぱいに広がります。
まあ、味なんて分からないんですから、たとえ美味しかろうが不味かろうが関係ありませんけどね。
むしろ、香りしか楽しみが無いのです。
「それで、書類はどの程度までできているんです?大分時間がたっていると思いますが。」
「いや、まだもう少しかかるらしい。やはり記載事項が多くてな。書くとなると時間がかかってしまう。」
そういえば、製本技術も印刷技術も未発達の世界なんでしたっけ。
ワープロが無いのはともかく、活版印刷も孔版印刷もないんですから、手書きが当然なんですね。
「…ねえ、イーナさん。結局、さっきの人はなんだったの?」
「カンナ、あれは人ではありません。詳しいことは今度教えますよ。」
「…うん、分かった。」
それで納得したのか、カップに残っていたお茶を飲みながら頷きました。
「なあ、イーナ。一つだけ聞いていいか?」
王様がどこか深刻そうな表情で私に尋ねました。
「なんです?」
「なぜ、イーナは【吸血鬼】という物を知っていたんだ?私でさえ、イーナに言われるまでそんな言葉自体聞いたことがなかった。」
「なぜ知っているかと聞かれても、私もこのお城が襲われたときに初めて見ましたから。」
まあ、その前から【吸血鬼】という物体がいるのは知っていましたが。
「その割には【吸血鬼】について詳しい気もしたが…」
「敵の事を調べるのは当然ですよ?【吸血鬼】について書いてある本もありましたし、情報もありました。」
「そうか…すまないが、その本を譲ってもらえないか?今後【吸血鬼】が侵攻してきたときの対処法を知っておきたいんだ。」
「それは駄目です。あの本には【吸血鬼】の製造方法も書かれていました。そもそも、古代の【文明】の文字が読めないのでは意味がありませんから。」
「…!イーナは、あの【文明】の文字が…読めるの!?」
「ええ、何か問題でも?それと、言葉が戻ってますよ。」
「…いや、研究所の者が聞いたら卒倒しそうだ。」
あんな文字とも言えないただの記号の羅列なんて、何年かけようが読むことなんてできないとは思いますが。
研究所の人たちは大変ですね、まったく。
「それで【吸血鬼】の対処法でしたか?」
「ああ、教えてはくれないだろうか?」
別に教えるほどの事ではないと思いますが…
「そんなの簡単ですよ。殺せばいいんです。」
「殺す?」
「【吸血鬼】が生物とは認めませんが【人間】の形を模しているんです。首を落とすなり、心臓を貫くなりし続ければ、そのうち再生もできなくなりますよ。」
そもそも【吸血鬼】とは、他人の【魂】を自らの物とし【魂】から【魔力】を生成し、体を構成している物体です。
再生には【魔力】が必要のようです。
その【魔力】が無くなれば再生も出来なくなるのは当然ですね。
完全に消滅させるには、吸収した【魂】…つまり【魔力】が無くなるまで消し尽くすか【霊力】で問答無用で消し飛ばすかの二つの方法があります。
まあ、この世界で【霊力】を持っているのは私だけですから、吸収した【魂】の分だけ殺し尽くすしかないんですがね。
「なるほど…【吸血鬼】とは凄いものだな。」
「何を言っているんです。それこそくだらない。それとして産まれたんですから、それとして死ぬべきです。そうでなければ生きている意味がありません。」
「…それもそうだ。しかし【吸血鬼】を見ていると哀れにも思える。」
「哀れとすらも思えません。望んで【吸血鬼】に成っているんです。望んで【人間】であることを捨てたんです。そんな物体は、即刻消え去るべきです。」
私とは違い、在り続けられたのに、自らの意志でそれを捨てた。
【吸血鬼】は、私にとって憎むべき物体です。
「イーナは【吸血鬼】を憎んでいるようだな。よかったら教えてくれないか。イーナが【吸血鬼】を憎む理由を。」
…少し、熱くなりすぎましたね。
ああいった物体は、本当に大嫌いです。
「いえ、理由なんてありませんよ。ただ、そこに存在するだけで憎いんです。こればかりはどうし―――」
その時、唐突に、ドクンと心臓が高鳴りました。
喉が詰まり、声を出すことすらも困難になり、呼吸すらもできなくなります。
「…イーナさん?どうかしたの?」
隣にいるはずのカンナの声すらもどこか遠く聞こえ、何かが詰まったように徐々に聞こえなくなっていきます。
腕を上げようとも、最早力が入らずに、身動き一つ取ることができません。
【魔具】を出すことも儘ならず【霊力障壁】の維持も不可能です。
王様が立ち上がり、こちらに駆け寄ってきました。
「イ―――丈夫―――!しっか―――ナ!」
視界が徐々に暗く侵され、音が聞こえなくなり、自分が何処にいるのかすらもハッキリとしません。
自分の中身が掻き乱されるような、嫌な感触とともに、意識がプツリと途絶えました。
―――例え違う世界で独り生きようとも、例え意地汚く生き続けようとも、人間で在り続けたい―――
私は、そう思います。
はい、どうだったでしょうか?
主人公の【吸血鬼】に対する嫌悪に、嫉妬とか羨望とかそういう感情は一切関与していません。
親の仇とか、仇敵とか、そういうわけでもありません。
ただ嫌い、とにかく嫌いなんです。
近い言い方だと、憎むや怨むが一番近いんですかね?
だから、跡形もなく、根絶させるまで消し尽くす。
そして…
「イーナさんの霊圧が…消えた…?」
【赤竜】は、そんなことを呟いたとか呟かなかったとか。
感想、意見、その他諸々お待ちしております。