第七十四話・敵意と殺意の境界線
はい、第七十四話投稿いたしました。
バイオハザード6の発売まで二週間を切りました今日この頃。
体験版をプレイしてみましたが、バイオ4ともバイオ5とも感覚が違い、どことなく違和感を覚えました。
ボタンで蹴りが出せたり、ハーブがタブレットになったりと、なんだか色々と変わったんですね。
それよりもCAPCOMさん、PSPでモンハンを…
3DSは持ってないんですよ…
そいやっさ、第七十四話始まり始まり…
荘厳な扉を開けて部屋に入ると、いかにも豪奢な装飾品が所々に飾り付けてありました。
半壊したこのお城には不釣り合いな無駄な装飾です。
この前も入ったことはありますが、いちいち観賞する暇もありませんでしたし。
しかし、ここまでの装飾はされていなかったような気がします。
「お久しぶりです。とは言っても、まだ一週間程度ですがね。お加減はいかがです?」
「ああ、肩の傷は殆ど塞がったよ。この国が護れたのも、全てイーナのおかげだ。本当にありがとう。」
フィリスさんが一段高い玉座に座り、これまた豪華な机が設置されて、そこには何人もの家臣が座っています。。
しかし、あの【吸血鬼】が下品に踏ん反り返っていたのに対し、王としての風格を漂わせながら上品に座っています。
そのフィリスさんが、家臣の目も憚らずに頭を下げています。
「フィリスさん、ダメですよ。一国の王様が一介の冒険者風情に頭を下げるなんて。」
まったく、王様というものは何時如何なる時もドッシリと構えていないと。
上が混乱すると、それに連動して下も混乱してしまいます。
「では、座らせてもらいますよ。ずっと立っているのも面倒ですから。」
豪華な机の前に用意してあった椅子に腰かけると、家臣たちの視線が私に集中しました。
まあ、私は特に気にはしませんが、カンナが下を俯いたまま視線をあげようとしません。
「さて、回りくどく言うのも面倒ですから、単刀直入に言いましょう。」
いっそうに家臣からの視線がキツくなります。
しかし、フィリスさんは特に変わらずに、こう言いました。
「ああ、イーナはこの国を救ってくれたんだ。対価を要求するのは当然だ。」
どうやら、フィリスさんは勘違いをしていますね。
「いえ、この前も言いましたが、この国を救ったとかはどうでもいいんです。あの【吸血鬼】を消したのも、私の【家族】に手を出した酬いです。」
この国が助かったのも【家族】を救う過程があったからこそ。
【家族】が攫われさえしなければ、この国に来ることもなかったでしょうし。
「…では、イーナは何を見返りに対価を?」
「牢屋に捕まっているときに言ったでしょう?あなたが言うワン君でしたか。彼を救った対価を頂くと。」
私は、確かに言いました。
『それで、あの人を治した対価ですが…あなたに請求しますよ。』
フィリスさんも、それに納得したハズです。
「あの時も言いましたが、金銭も人員も、この国の利益になっているものは一切請求しません。」
「分かった。そもそも、私が何かを言えるわけがない。」
「私が請求する物は只一つ。それは―――」
「ふざけるな!」
私の言葉を遮り、一人の家臣が口を出してきました。
「黙って聞いていれば!キサマがあの男を助けたからと!何故王が対価を払わなければならない!あの男が死にかけたのはあの男の責任だ!」
それを皮切りに、他の家臣共も聞くに堪えない罵詈雑言が飛んできました。
まったく、面倒くさい。
「黙りなさい。役立たず共が。」
「な、なんだその口のきき方は!冒険者風情が偉そうに!」
この男は、まだ自分の立場を分かっていないようですね。
「降伏したのでしょう?あの【吸血鬼】と戦いもせずに、自分の命が惜しいから逃げ出したのでしょう?。」
「な!?」
図星を突かれたかのように狼狽し、声を途切れさせました。
一緒に暴言を吐いていた家臣共も、ほぼ全員が静まり返ってしまいました。
「国を護る。自分の責務も果たさずに、この場所で口出しをする権利はありませんよ。」
まあ、この場所に居る家臣共で、傷一つないのならほぼ逃げ出した奴らで間違いないでしょう。
そもそも、この要職に就いているのならば、城を護る為に、国を護る為に、最後の最後の最後まで果敢に戦い、勇敢に死んで逝くべきです。
いえ、そうしなければなりません。
「あの人は違う。致命傷を負って尚、戦う意志を見せた。寿命を削って尚、精悍にも王様を助け出した。そして、生きようとする意志を見せた。」
室内はシンと静まり返り、私の声だけが響き渡ります。
「生きようとする意志を見せるのは生物の特権です。しかし、その特権を捨てた物こそが【吸血鬼】です。カンナ。」
「…右から三番目の人。けど、本当にいたんだ。」
カンナの言葉を聞き、右から三番目…私の言葉を最初に遮った男の前に立ちます。
「ありがとうございます。しかし、これを人と呼んではいけませんよ。死なないんですから、生きてもいない。生物ではないんです。これとか、それとか、あれと呼びなさい。」
「なんだキサマは!なにを言って―――」
ショットガンを取り出し、頭を吹き飛ばします。
血飛沫が飛び散って、残された体が衝撃で横たわり、沈黙が場を支配しました。
「イーナ!?なにをして―――」
その沈黙を破り、王様が金切声をあげました。
しかし、それを無視するかのように、死体がビクリと痙攣を始め、吹き飛んだ頭には靄がかかり始めました。
その中からグチャグチャと肉が潰れるような音が聞こえはじめると、地面に手を着き、ゆっくりと立ち上がりました。
「…まさか【吸血鬼】とバレるとはな…その【エルフ】の仕業か!」
靄が晴れると、頭が完全に再生させた男が、私を無視してカンナに跳びかかりました。
「…っ、気持ち悪い。近寄らないで!」
空中から虹色に輝く槍が出現し、カンナに跳びかかろうとしていた男の胴体を貫きました。
やはり、発生の前兆もなにもなく、ノーモーションで出現させることの出来る、あの【魔眼】は凶悪極まりないですね。
【魔力障壁】と同じ【魔力】で構成されているため、それも意味を為さない。
この世界の【魔法】を扱う存在にとって、どんなに身を固めていようとも、どんなに用心していようとも関係ない。
正々堂々と、真正面切っての不意打ちをどんな時にでも与えられる。
「い、イーナ。あれは…」
フィリスさんが、どこか憔悴したような表情でこちらにやってきました。
「ただの【吸血鬼】ですよ。生物の血を吸って【魔力】と命を奪い、自分の命に変換する。元【人間】や元【亜人】や元【エルフ】の物体ですよ。」
切ろうが、焼こうが、砕こうが、溶けようが、ありとあらゆる攻撃を加えても【魔力】が存在する限り再生する。
元々の種族をやめた、くだらない物体です。
「くそ、売国奴め…」
悔しそうに歯噛み、腰に差してあった剣に手をかけました。
「病み上がりでしょう。私が消しておきますよ。もちろん、対価なんていりません。これは個人的な感情ですから。」
右手に【魔具】を出します。
蒼い刀身の、巨大なブレードです。
カンナの方を見ると、地面から出現した無数の虹色の槍で【吸血鬼】の胴体を貫いて 磔にしているところでした。
「カンナ、どうですか?この【吸血鬼】は。」
「…うん、大丈夫。イーナさんの方がずっと強いから。」
そう言いながら、カンナはギロチンのような鎌を出現させ、空中から【吸血鬼】の首に向けて落下させました。
ゴトンと、床に首が落ち、足元に転がってきました。
「クソ!クソ!何故だ!私は【吸血鬼】だぞ!その私が―――」
グシャリと踏みつけると赤肌色の脳味噌が飛び散り、肉片が霧散しました。
「…イーナさん、足、大丈夫?」
ところで、どうして首だけになっていたのに喋ることができたんでしょうか?
まあ、どうでもいいですか。
「カンナ、この【吸血鬼】を何回ほど殺しましたか?」
「…さあ?何回も刺したり斬ったりしてるけど、すぐに治っちゃう。」
ふむ、では聞きましょうか。
「お前は、今まで何人の血を吸いましたか?」
「ふん、キサマは今まで食ったパンの枚数を覚えているのか?」
「別に、お前が何人の血を吸って、何人の生物を殺していようが、私には関係のないことです。」
【家族】にさえ手を出さなければ、果たして何千何億の生物が殺されようが、特に感慨に及びません。
しかし…
「お前は【人間】であることを捨てました。それは、決して許されざる行為です。」
あらゆる生物は、産まれた種族のまま生き、育ち、学び、繋げ、遺し、死んでいく。
しかし、逸脱する例外があります。
一つは自らと同じ種族を殺すこと。
自分の快楽を満たす為に行う殺人。
復讐の果てに仇を見つけて行う殺人。
たとえ信念の違う殺人でも、殺したことに変わりはありません。
野生生物ですらも滅多に行わない、共食い行為。
もはやそれは【人間】でも【亜人】でも【エルフ】でもない、ただの怪物です。
死ねばいい。
そして、もう一つは…
「ふん、キサマに私は殺せんよ。どんな【魔法】だろうが【吸血鬼】である私に効くはずがない。」
「私はお前を殺しませんよ。ただ、消すだけです。」
【吸血鬼】と化し、死ぬことがなくなっても、無為に生物を殺しまくる。
死なないから、生物の糧になるハズもない。
死なないから、食物連鎖も自然淘汰も関係ない。
死なないから…生きてもいない。
生物の枠から外れた、ただの物体です。
消えてしまえ。
「…なんだ、それは?」
右手に出しておいたブレードを起動。
蒼く光る、長大な刀身が出現します。
「お前を消す【魔具】ですよ。気になりませんか?あの時の【吸血鬼】を、短時間でどうやって消したのか。」
「ふん、そんな無様な【魔具】で?そんなもので私が…」
スパン、とブレードで【吸血鬼】の四肢を切断しました。
斬れた腕と脚が床に落ち、すぐに霧散しました。
「無駄だ。どんな【魔具】だろうと、すぐに再生を―――」
【吸血鬼】が愕然とした表情で、こちらを見て叫びました。
「何を!何をした!何故だ!どうして再生しない!」
「どうです?理解不能な事が目の前で起きた気分は。恐ろしいでしょう?理不尽でしょう?しかし、大丈夫ですよ。」
【吸血鬼】の腹に蒼い刀身をあてがい、少しずつ刀身を沈めていきます。
「最後の最後の瞬間を、恐怖に支配されて、消えろ。」
【吸血鬼】とは、肉体を【魔力】で置換した、ただの物体。
肉体を【魔力】で置換したからこそ【魔力】が続く限り、再生することが可能な物体。
そして【魔力】の発生源とは【魂】です。
他人の血液を吸うことで【魔力】と共に【魂】をも己の内に捕え、それが涸れるまで支配する。
これが【吸血鬼】の、永遠とも言える命のからくりです。
「―――ぎぃぃぃい!あああぁあぁ!」
無様で醜い悲鳴をあげながら【吸血鬼】が消滅していきます。
腹から蒼い刀身を抜き取ると、ボロリと土が崩れるように崩壊が進んでいきます。
「…イーナさん。もういいの?」
カンナが【吸血鬼】を視界の端に捉えながら、私に聞いてきました。
「ええ、連鎖的に消滅が続いています。放っておいてもその内消えますが…」
それにしても、声が煩いですね。
このままでは、交渉をするときに支障をきたすかもしれません。
レーザーライフルを左手に出し、鬱陶しい【吸血鬼】を狙い撃ちます。
すると、崩壊を待たずして【吸血鬼】が消滅しました。
「さて…」
今までの光景を動くこともせずに、ただ座って見ていた役立たず共と、近くで見ていた王様を一瞥します。
「交渉を続けましょうか。」
王様は苦々しい笑顔を浮かべ、コクリと頷きました。
はい、どうだったでしょうか?
【吸血鬼】とは、
人類の生み出した悪夢。
覚めることのない悪夢。
…【吸血鬼】とは…
と言うわけで、この小説で登場する【吸血鬼】とは、人類の生み出した、悪夢そのものです。
自然発生した物体ではなく、人類が産み出してしまった、人造の物体です。
どこかの吸血鬼のように、拳法を使うこともなければ、拘束制御術式を開放したりもせず、刀に血を伝わらせたりもせず、時を止められるわけでもなく、アホ毛が特徴的でもありません。
まあ、そういうことですよ。
あと、文字数が4444字ピッタリで吃驚した。
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