第七十三話・過去の自分を鑑みると
はい、第七十三話投稿いたしました。
夏が過ぎ、雨垂れと共に、秋が来る。
と言った風に、日が経つにつれて涼しさが増してくる、今日この頃です。
まあ、風邪をひかないように体調管理をしっかりとするように。
そんなこんなで、第七十三話始まり始まり…
馬車を倉庫に預け、クロさんは馬小屋にいてもらうことになりました。
まあ、場内を【魔獣】が闊歩しているのはまずいんでしょうね。
馬小屋には何頭かの馬もいましたが、食べないように注意しておいたので大丈夫でしょう。
「では、こちらのお部屋になります。王達の用意が終わり次第お迎えに上がります。」
そう言って、案内をしてくれたメイドさんは出て行きます。
結局、案内された部屋は、以前このお城に来た時の部屋でした。
「お姉ちゃん…眠いよ…」
私に負われたリリウムが、目を擦りながら眠たげな声を上げました。
「大丈夫ですよ。ちょっと王様と会ってきますから、その間は眠っていてください。」
ちなみに、ヒナはセルナに負ぶられながら眠っています。
背負っていたリリウムをベッドに横たえて椅子に座ろうとすると…
「お姉ちゃんと…一緒に寝る…」
ギュッと、私の服の袖を掴んできました。
「大丈夫ですよ。すぐに帰ってきますから。セルナ、ヒナも寝かせてあげてください。」
「ああ、分かったよ。」
セルナが、リリウムの隣にヒナを寝かせると、リリウムがヒナに抱き着きながら目を閉じ、寝息を立てはじめました。
「ルビアも、今日は早く起こしてしまったでしょう?リリウムとヒナも眠っていますから、一緒に寝ていたらどうです?」
「いいえ!私もイーナさんと一緒に行きます!」
ルビアは元気な声で返事をしてくれました。
「ありがとうございます。でも、交渉だけですから心配しなくても大丈夫ですよ。」
「で、でも…」
「セルナ、カンナを連れて行きたいんですが、いいですか?」
「カンナをか?別にいいけど…カンナはどうだ?」
「…別にいいよ。取って食われる訳でもないし。」
「それはよかった。今日はまだ目薬は点していませんよね?」
「…うん、さっき起きたばかりだから、まだ点してないよ。」
目薬を点していたら意味がありませんでしたから、いいタイミングでしたね。
「そ、そんな…イーナさん…私より、そんな【エルフ】が大事なんですか…?」
ルビアが目に涙を滲ませてこちらを見つめた後、恨みがましい視線をカンナに送りました。
「ルビア、ちゃんと名前で呼ばないといけませんよ。以前ならまだしも、今はちゃんとした名前があるんですから。」
「は、はい…」
セルナの大事な【家族】なんですから。
【家族】はどんなことよりも優先されます。
だから、誰であっても蔑ろにすることは許されません。
まあ、セルナにくっ付いている、あの【緑竜】はどうでもいいですが。
その時、扉がノックされました。
「お待たせいたしました。王がお待ちです。」
この部屋に案内された時のメイドさんが扉を開けて入ってきました。
「分かりました。それではカンナ、行きますよ。」
私がメイドさんの後を追うと、それに続いてカンナも歩いてきました。
「…それで、イーナさんは私に何をさせる気なの?」
「いえ、つまらないことですよ。まあ、向こうに着いてから話すのも時間の無駄です。歩きながら話しましょうか。」
あちらこちらが砕けたり、穴が空いたりしている廊下を進みつつ、カンナにしてほしいことを話しました。
カンナは終始、訝しげな視線を私に送っていました。
「…本当に?でも、そんなことってありえるの?」
「ええ、それはもう十分に。それが知能を持つ生物である限り、特に【人間】は寿命が短いですからね。簡単に従うでしょう。」
国を捨てるだけで、それが手に入るのならば。
今までの地位を捨てても、新しい地位が約束されるのならば。
その魅力は、想像を絶するでしょうね。
「まあ、私には理解できませんね。【人間】であることを捨ててまで、それを手に入れるなんて。」
「…分かった。でも、本当にいるのかな?」
「それはもう。十中八九はいると思いますよ。そうでないと、あの騒ぎも説明できません。」
この前、このお城に来た時のことです。
あの時の兵士は、動きが妙に洗練されていました。
お城が制圧されていたというのに、それを気にもかけず、侵入者である私を迎撃することに全力を傾けていました。
あの【吸血鬼】が支配しただけでは、あんな動きが出来るハズがありません。
以前から、お城の内部で少しずつ事が進んでいたと考える方が自然ですね。
「…イーナさん、強いだけじゃないんだね。」
「いいえ、私は強くありませんよ。単純な強さなら、ルビアや【緑竜】に、あなたの方が強いでしょう。」
圧倒的な力を持ち、この世界でも最上位に位地する、竜という【魔獣】である、ルビアとあの【緑竜】
まあ、リリウムはまだ子どもですから、そこまでの強さは持っていないようですが。
そして、ただでさえ桁違いな【魔力】を保持する上に、自由に【魔力】を操ることの出来る【魔眼】を持つ【エルフ】であるカンナ。
彼女たちとは違う、貰い物の【魔具】と貰い物の力しか持たない。
この世界の誰よりも弱い…
「私はただの人間です。いつ死んでもおかしくないんですよ。」
次の瞬間には、首が吹き飛んでいるかもしれない。
その次の瞬間には、胸が貫かれているかもしれない。
その次の次の瞬間には、消飛ばされているかもしれない。
数え上げたら限がありません。
「…イーナさん、そんなことリリの前で言ったら、泣いちゃうよ?」
ああ、カンナはリリウムのことをリリと呼ぶんですか。
「あの子は優しいですね。それこそ、元々【白竜】であった事が信じられません。それに…」
その時、前を歩いていたメイドさんが止まりました。
「到着いたしました。中で王達がお待ちです。どうぞ、失礼のないように…」
軽く頭を下げ、メイドさんが今来た道を戻っていきました。
「…それに?」
「…いえ、なんでもないです。それより、頼みましたよ。現状ではカンナにしか出来ないことです。」
「…うん、任せて。」
カンナは、真っ直ぐにこちらを見て、返事をしました。
初めて会った、過去に囚われ、過去に絶望し、死んでいたあの時とは違う。
未来に進み、未来に希望を持って、生きている。
そんな、生き生きとした表情で、扉の前に立ちました。
「羨ましいですね。本当に…」
カンナには聞こえないように小声で、自分に語りかけるように、話します。
私とは大違いです。
過去に縛られ、最早忘れることも許されず、それでも希望を持たざるを得ない。
そんな私とは…
「…イーナさん、どうかしたの?」
「…なんでもありません。それでは入りましょうか。」
扉に手をかけて開けると、物々しい音を立てながら、厳かに開いていきました。
…リリウムは、似ているんですよ。
初めてリリウムの擬態した姿を見たときに、とても驚きました。
無意識に殺してしまいそうになる程に、瓜二つと言ってもいい程に、恐ろしく似ていた。
髪の毛が白くなっただけで、それ以外は鏡写しと言ってもいい。
過去に囚われ、未来に進めなくなる前の、あの時の私に…
はい、どうだったでしょうか?
主人公は主人公で、過去に辛い人生を送っていたようです。
そして、自分にそっくりな【白竜】を殺したい、しかし同時に愛してもいます。
殺したいほど愛している、ではなく、殺したいけど愛している、です。
なぜなら【家族】ですから。
しかし果たして、自分を殺したくなる程の事とは…
まあ、主人公の信念を改めて考察すれば分かるかも?
…フロム脳は爆発だ!
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